表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/56

第39話 サユリの決意

 セバスチャンとローフェンの試合の後、サユリは自分の師、セバスチャンに言った。


「傷ついた相手を叩きのめすのは、武闘家(ぶとうか)の精神に反すると思います。私がそれを身をもって示すために、私は、先生と──いえ、セバスチャン、あなたと闘います」


 それがサユリの決意だった。


 ◇ ◇ ◇


 次の日、俺は、「ミランダ武闘家(ぶとうか)養成所・ライザーン本部」に戻った。


 ローフェンのことは心配だが、グランバーン大学白魔法病院に入院しており、骨の検査に2日かかる。

 今は見舞いにいけない。


「ゼントさん、覚悟してください」


 俺の目の前──武闘(ぶとう)リング上には、サユリがいる。


 俺はサユリの練習相手をつとめることにした。


「はああっ!」


 サユリのパンチ──左直突(ちょくづ)き! 右直突(ちょくづ)き! 左! 左! 右!


 うおおっ……サユリは、こんなコンビネーション──連撃(れんげき)もできるのか!


 俺は手を使って受ける。とにかく速い。正確だ。


「でやああっ! 受け身、とって下さいね!」


 サユリは俺の腰に手を回し、俺の片足を取った。


 ドタン!


 まるで俺を転ばせるように、俺を後方に投げつけた。あ、あぶねえっ!

 俺は素早く体勢を横にして、後頭部を打つのをまぬがれた。


「これは『朽木倒(くちきたお)し』という投げです。『踵返(きびすがえ)し』という投げ技もあります」

「わ、わかったわかった。練習はこれくらいにしよう」


 サユリの投げは速くてキツい。


 ローフェンが入院してなかったら、ローフェンを投げてもらうんだがなあ……。


「うーん……まだやり足りない……」とサユリ。

「あのな~! もう2時間、君の相手をやってるんだけど!」


 俺は冷や汗をかきながら言った。これ以上、投げられちゃたまらない。


「分かりました」


 サユリは残念そうな顔だが、納得したようだ。

 練習を終え、俺とサユリは、ミランダ先生と話すために会議室へ向かった。




 会議室には、ミランダさんとエルサが待っていた。


「はーい、ゼント、サユリさん、ご苦労様」


 エルサが俺たちに冷たい、ポーション・ドリンクを渡してくれた。


 ポーションは怪我の特効薬として有名だが、それを10倍薄めて飲みやすくしたものだ。


 何と、エルサは屋内ではもう杖は使用していない。


 杖の使用は、屋外に出るときだけだ。


 どんどん、昔の元気なエルサに戻ってきている。


「準決勝の日程が決まったようね」


 ミランダさんは言った。


「サユリとセバスチャンの対戦は、3週間後。ゼントとゲルドンの息子、ゼボールの対戦は4週間後」


 そうか、サユリとセバスチャンの試合が先か。俺は、その試合の後、ゼボールと闘う。

 俺をマール村の森で襲ってきた不良だ……。

 くそ、嫌な気持ちがよみがえってきた。


「それにしても、あなた、本当にセバスチャンと闘う気?」


 ミランダさんは椅子に座りながら、サユリを見ていった。サユリはうなずいた。


「はい……。最近、セバスチャン先生の考え方は、私の武闘家(ぶとうか)としての考え方と違うなと思えてきたんです」

「うーん……。具体的(ぐたいてき)には?」

「セバスチャン先生の教えは、怪我をした相手でも、容赦(ようしゃ)なく叩きのめすこと。追撃(ついげき)を加え、二度と逆らえないようにすることです。これは、私がギスタンさんやドリューンさんにやってしまったことでした」

「冷静に試合を振り返ることができているわね」

「それに、あまり知られていませんが、『G&Sトライアード』では、日常的に指導者から選手への暴力が行われているのです」

「えっ、何それ?」


 エルサは声を上げた。


「サユリさん、それ、どういうこと? (くわ)しく説明して」

「セバスチャン先生は、対戦練習でも、相手を失神するまで闘わせようとするのです。でも、それを練習生たちが躊躇(ちゅうちょ)すると、セバスチャン先生か指導者の拳がとんできます」


 サユリは決心したように言った。エルサは目を丸くしてまた聞いた。


「一方的な暴力ってこと? あなたもやられたの?」

「私はセバスチャン先生からはやられてはいませんが、他の指導者からはたまに平手で」

「だ、だめだよ、そんなの許しちゃ!」


 エルサは、サユリを抱きしめた。


「今まで、誰にも相談しなかったの?」

「はい……『G&Sトライアード』の練習生たちは、セバスチャン先生……いえ、セバスチャンが怖いんです。セバスチャンに逆らうと、武闘家(ぶとうか)の資格が剥奪(はくだつ)されてしまうから。セバスチャンは、それくらい権力を持っています」

「なんで……ひどい」


 エルサが泣いている?


 あっ、そうか……。エルサもギルドの登録から抹消(まっしょう)された経験があるんだったな。

 サユリたちの気持ちが分かるのか。

 

「ちょっと冷静になりなさい」


 ミランダさんがパン、と手をうった。


「サユリ、このままセバスチャンと対戦しても、何も残らないと思うけど。棄権(きけん)した方がいいわよ」

「お気持ちはありがたいけど、私は闘います。だって私は武闘家(ぶとうか)だから。試合があれば、闘うのです。──ゼントさん、お願いがあります」


 サユリは俺の方を見た。


「私とセバスチャンの試合から、セバスチャンの攻略法を見つけて欲しいのです。セバスチャンは、私の考えでは、グランバーン王国で最も強い武闘家(ぶとうか)の一人だと思います」

「サ、サユリでもそう思うのか?」

「はい、間違いないです。打撃、組み技、関節技、戦術、すべてレベルが高いと思います。ゼントさん……決勝で、どうかセバスチャンを倒してください」

「わ、分かった」


 つまりだ、サユリはセバスチャンに勝つ気がないということ。

 俺にセバスチャンを倒すことを、(たく)しているのか。


 俺はうなずいた。しかし、その前にゼボールに勝たなきゃいけない。


「では、私はこれで」


 サユリが行こうとすると──。


「お待ちなさい」


 ミランダさんが言った。


「あなたの今後の所属は『ミランダ武闘家(ぶとうか)養成所』。つまりここです。あなた、戻る場所がないんでしょう。だから、今日はここに泊まりなさい」

「そうだよ、サユリさん」


 エルサが笑顔で言った。


「辛いことがあるなら、私、何時間でも話を聞くから。娘もいるし、遊んであげて」

「……皆さん親切なんですね」


 サユリはさみしそうに言った。


「私、『G&Sトライアード』では、しゃべる人が一人もいなくって……」

「とにかく一緒に行こ?」


 エルサはサユリの手を引っ張って、廊下に出ていった。


 すると、ミランダさんは俺に言った。


「ゼント君、君はゲルドンの息子、ゼボールと闘うことになるけどね」

「はい」

「何か嫌な予感がするわ。これは私の占いの結果から言うけど」


 嫌な予感? 一体それは──?


「私が気にしているのは、大勇者ゲルドンよ。何か、仕掛けてくるかもね」


 ゲルドン? ゲルドンが何かしてくるのか?

☆作者からのお知らせ


 このお話を読んで、「面白かった!」と思った方は、下の☆☆☆☆☆から、応援をしていただければうれしいです。


「面白かった」と思った方は☆を5つ


「まあ良かった」と思った方は☆を3つ


 つけていただければ、とてもありがたいです。


 また、ブックマークもいただけると、感謝の気持ちでいっぱいになります。


 これからも応援、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ