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第35話 その頃、セバスチャンは③

 グランバーン王国の中央都市ライザーンには、3つの王立スタジアムの他に、もう1つ、巨大な建造物(けんぞうぶつ)があった。それは奇妙なドーム状の建物だ。


 その建造物(けんぞうぶつ)こそが、ゲルドンの秘書、セバスチャンの経営する「G&Sトライアード」本社であった。

 グランバーン王国に150支部ある、世界最大の武闘家(ぶとうか)養成所である。


 ──朝、「G&Sトライアード」本社、1階ロビーでは……。


「おいおいおい~! セバスチャン!」


 大勇者ゲルドンが、横にしたビール(だる)のごとく、転がるようにビル内に飛び込んできた。


「どうなってんだあ!」


 ゲルドンは南の島セパヤのバカンスから、帰ってきたところだった。

 セバスチャンに向かって、泣きついた。


「ゼントがお前の弟子、シュライナーに勝ってしまったぞ!」


 セバスチャンの弟子、シュライナーは負けたのだ。

 あの、ゼント・ラージェントによって──。


「おっしゃる通りです。シュライナーは敗北いたしました」


 セバスチャンが冷静に言うと、ゲルドンは、「ぬおお~!」と声を上げた。よほどショックだったのだろう。


「おい、何かの間違いだろうが! 準決勝で、ゼントの野郎が、息子のゼボールと闘うことになってしまった。くそ、何が起こったんだ、あの野郎に! タコ、コラ! タコ!」


 ゴスッ ゴスッ ゴスッ


 ゲルドンは大理石の壁を、靴裏で3回蹴っ飛ばした。


「あ、ありえないと思うが、準決勝でゼントの野郎が、息子のゼボールに勝ったとしよう。息子の……ゼボールの今後の人生に影響が出てしまうぞ!」

「それは仕方ない。とにかく、息子さんとゼントの勝負を見守るしかないでしょうね」

「ゼ、ゼントは、八百長に応じねぇかな?」

「ゼボール様は、ゼントに(から)んで(なぐ)ったと聞いています。ゼントは八百長に応じないでしょう」

「おいおいおいおい~。それはヤバいじゃねーかよ」


 ガスッ


 ゲルドンは、自分がタコのような真っ赤な顔で、ロビーの高級机を蹴り飛ばした。


「ゲルドン杯格闘トーナメントは、息子を優勝させるための大会なんだぞ! おい、セバスチャン、息子がゼントに勝つ方法を考えてくれ。ゼントが強いなんて信じられん。──お、アイリーンちゃんが待ってる時間だ。また来る」


 大勇者ゲルドンはさっさと、「G&Sトライアード」本社を出ていってしまった。アイリーンとはゲルドンの最近の愛人だ。


「クズが……息子を甘やかしすぎだ」


 セバスチャンは、大勇者ゲルドンの後ろ姿を見ながらつぶやいた。


「金のためとはいえ、いい加減、あのクズ野郎に付き従うのはあきてきたな。しかし、私の目的を達成させるには、ゲルドンの名声がまだ必要だ……」

「セバスチャン様」


 すると、セバスチャンの背後の空間から、突如(とつじょ)、灰色のローブを羽織った奇妙な人物が、ニュッと現れた。白い仮面をかぶっている。

 この人物の名はアレキダロス。大魔導士だ。

 この大魔導士は、魔法を使い──空間移動をしてきたのだ。


 実業家としてのセバスチャンの助言者(アドバイザー)である。


「そろそろ地下トレーニング施設の方に向かわれませんと。たくさんの若者が待っております」


 仮面の大魔導士アレキダロスは、大人とも子どもともつかない不思議な、甲高い声をしていた。

変声魔法(へんせいまほう)」で、声を変えてあるのだ。


「うむ」


 セバスチャンはうなずいた。


 ──セバスチャンとアレキダロスは地下への階段に向かった。

 そこには……!




 セバスチャンとアレキダロスが地下に行くと、そこには大きな地下空間があった。たくさんの若者がいる。人数は五百人くらいか。

 

 バシイッ

 ドガッ


 皆、格闘技のトレーニングをしている。すさまじい熱気だ。

 彼らこそ、セバスチャンが育てている若き武闘家(ぶとうか)たちだ。

 このトレーニング施設が、「G&Sトライアード」の中心である。


「聞け!」


 セバスチャンは若者たちに向かって、声を上げた。


「みなしごのお前たちを救い、ここまで育てたのは、誰だ?」

「セバスチャン様です!」


 若者たちはトレーニングをやめ、直立不動でセバスチャンを見て叫んだ。

 どうやらこの若者たちはみなしご──。全員、両親がいないらしい。

「G&Sトライアード」の中でも、特に選ばれた若い武闘家(ぶとうか)たちである。

 セバスチャンは再び叫ぶ。


「みなしごだった、お前たちの本当の故郷は、どこだ?」

「理想郷『ジパンダル』です!」

「そうだ、その通り!」


 セバスチャンは満足そうにうなずいたが、すぐにジロリと横の武闘(ぶとう)リングを見た。


 二人の男子の武闘家(ぶとうか)が、練習試合(スパーリング)を行っている。赤い武闘着(ぶとうぎ)の男子が、青い武闘着(ぶとうぎ)の男子を、ちょうど(なぐ)り倒した。

 赤い武闘着(ぶとうぎ)の男子はランテス・ジョー。青い武闘着(ぶとうぎ)の男子は、エルソン・マックス。

 どちらも16歳で、将来有望のセバスチャンの弟子だ。


「大丈夫か、エルソン」


 赤い武闘着(ぶとうぎ)のランテスが、青い武闘着(ぶとうぎ)のエルソンを助け起こそうとした。


 するとセバスチャンは、すぐにリング内に入り──。


 バシン!


 セバスチャンは、いきなりランテスを平手で叩いた。


 バシン!


 もう一発だ。


「なぜ、叩きのめさないのだ!」


 セバスチャンはランテスをにらみつけた。


「はっ、エ、エルソンは、僕の友人でありますので……」


 バキッ


 セバスチャンはまたランテスを殴りつけた。今度は拳だ。


「叩きのめせ! 友人などお前たちには必要ない。ここは弱肉強食の世界だ。失神するまで殴りつけろ、いいな!」

「そ、それは……」

「何か、文句があるのか?」

「い、いえ! 僕が甘かったです! 次は叩きのめします!」

「よかろう」


 セバスチャンは、「立てい!」とエルソンを叩き起こすと、彼にも平手打ちを一発くらわせた。


 その光景を、一人の少女が、じっと見ていた。

 セバスチャンの最も期待する女子武闘家(ぶとうか)、サユリだ。

 サユリは一人で型のトレーニングを続けながら、セバスチャンを観察していた。


「セバスチャン様」


 アレキダロスはセバスチャンに小声で声をかけた。


「熱くなりすぎです」

「うむ……しかし、育成が遅れている。このままでは『世界支配計画』が、3年も遅れてしまうぞ」

「あまり厳しくしすぎると、『洗脳(せんのう)』が解けてしまいます。慎重になさいませんと……」

「む……そうだったな」


 セバスチャンがため息をついた時、アレキダロスは言った。


「ところで、グランバーン城から、あなた様に通達がきております。『ぜひ来城するように』と」

「何!」


 セバスチャンの顔色がにわかによくなった。


「何と! まさか、グランバーン王に謁見(えっけん)できるのか!」


 資金とグランバーン王の信頼を得るチャンスかもしれん……。「世界支配計画」……私の野望に近づくチャンスだ。

 セバスチャンはこう考え、ニヤリと笑った。

 すると、仮面の大魔導士アレキダロスは言いにくそうに言った。


「いえ、あなたを城に呼んだのは、国王直属親衛隊長(しんえいたいちょう)のラーバンス様です」

(うっ……何だと?)


 セバスチャンは眉をひそめた。セバスチャンにとって、ラーバンスという男は最も苦手な人物だった。


「父上か……」


 一方、サユリはトレーニングを続けながらも、セバスチャンとアレキダロスを見ていた。


 その表情は悩んでいるようだった。

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