第25話 第1試合だ! ゼントVSクオリファ!
「ゲルドン杯格闘トーナメント」に出場するため、中央都市ライザーンのホテルに宿泊した俺たち。
次の日、ついに試合に出場することになった。1回戦だ!
1回戦は「予選」のようなもので、開会セレモニー前に行われる。
出場選手16名が8名にしぼられるのだ。
ひええ~……試合なんて学生時代以来だ。第1回戦は、まだスタジアムでは試合できない。小規模の体育館で試合をする。
「うわ~、緊張する! 怖ぇよ~」
試合1時間前──俺は、試合会場の控え室で真っ青になって、頭を抱えていた。緊張して仕方ない。
エルサが杖をつきながらも、控え室についてきてくれた。
俺の第1回戦の相手は──何と、あの大勇者ゲルドンの現在のパーティーメンバーだった。一番弟子の武闘家、クオリファだ。
しかもクオリファの所属は、「G&Sトライアード」。グランバーン王国最大の武闘家養成所だ。Gとはゲルドンのことで、ゲルドンが社長をしているらしい。
か、勝てるのか? 俺……。
「ゼント、武闘グローブをはめるよ」
エルサは杖を置き、俺の手に、武闘グローブをはめてくれた。武闘グローブとは、格闘技の試合の時に手にはめる、指が出ているグローブのことだ。
指が出ているので、相手をつかむことができる。
エルサはグローブをつけた俺の両手をにぎって、俺の目を見てこう言った。
「大丈夫だよ、ゼント。あたしがいるよ。神様が見てるよ。君の努力、悔しさ、悲しみ、全部、神様が見てくださっていたんだよ。きっと、それが報われるよ」
「え? ああ……」
「だから……自分を信じてね」
なんだ? 俺の心が、少し熱くなったように感じた。
ちなみに俺のコスチュームは、エルフ族特注の青い武闘着だった。エルサとアシュリーが、村で作ってくれた。
リング上ではすでに、武闘家のクオリファが腕組みして待っていた。
ニヤニヤ笑っている。
俺は、緊張しながらリングに上がり、ロープをくぐった。ゲルドンはこの試合会場にはいないらしい。
「おめぇか? もともとゲルドンさんのパーティーメンバーだったっていう、ヘタレ野郎は」
クオリファはクスクス笑っている。赤い武闘着を着て、気合十分だ。
「何だか知らねーけどよ。ゲルドンさんに挑戦するんだって?」
ギャハハ! セコンドにいるクオリファの付き人たちもゲラゲラ笑っている。
「あのゼントってヤツ、バカじゃねーの」
「見るからに弱々しいあいつが?」
「身の程知らずにも、程があるってもんだぜ」
今の俺の体は、身長162センチ、体重55キロ。しかしクオリファの体は、身長188センチ、84キロらしい……。
ハハハ。こいつはひどい差だ。笑うしかない。
『私語はつつしめ!』
審判席の審判が、魔導拡声器──魔法の力で声を大きくする魔道具──で声を上げた。
「ゼント! 集中!」
セコンドの方から声が上がった。う、うわっ! エルサがセコンドについている!
「お、お前、そんな体調で、セコンドなんて大丈夫なのか?」
「大丈夫! あたしもセコンドとして、闘う!」
カーン!
リング外のエルサと会話をしている間に、試合は始まってしまった。
「さーてと……おーら? どうすんだ?」
シュッ
クオリファは半笑いで、軽い横蹴りを繰り出してきた。
一発、二発、三発……そして、華麗な回し蹴り!
観客がどよめく……が!
ここだ!
俺はすぐに、彼の懐に飛び込み、左ジャブを突き出した。
クオリファは、「おっ?」と声を出し、ふっと避ける。
「ん? ちょっとは早いじゃねえか」
クオリファが体勢を立て直し、一歩前に出て、余裕の下段蹴り──。
見えた! 俺は飛び込んだ!
ガスウッ
俺の素早い、右ストレートパンチ!
このパンチは、完全にクオリファの右頬をとらえていた。クオリファが前に出ると同時に放った、カウンター攻撃だ!
──彼の体が傾いた。
「なっ……」
クオリファが後退しかかった。
「お、お前……ゼント! い、いや、まぐれだ。そうに違いねえ」
クオリファはあわてたように、一歩前に進み出た。
もらった!
俺は下段蹴りで、クオリファの足を刈った!
ガッ
「なっ!」
クオリファはバランスを崩しながら、声を上げる!
ドタアッ
「うっ!」
俺はクオリファの足を刈って、クオリファを転倒させた! ヤツは見事にひっくり返って、背中を武闘リング上に打ち付けた。
「な、なんだと……!」
クオリファは驚きの声を上げる。
この技は、蹴り技ではない! 転倒させて背中から落とす、いわば足を使った刈り技だ! クオリファは蹴られたダメージよりも、転ばされて背中を打った、という精神的ダメージが大きいはずだ。
「て、てめえぇ~! 生意気だぁあああ!」
クオリファはあわてて立ち上がり、向かってきた。そう、この技をくらった者は、焦ってこうなる!
ビュッ
クオリファの左中段回し蹴り! 良い蹴りだが……俺は見切った!
ここっ!
俺は、クオリファの蹴り足を掴んだ! 彼の左足を、脇に抱えたのだ。これは蹴り技に対する防御技術だ!
「お、と、と」
当然、クオリファは片足で立っているので、バランスを崩さざるを得ない!
俺はクオリファの肩を思いきり押し、1メートル半突き放して──!
全速力で向かっていった。
「お、おい! や、やめ……!」
クオリファは目を丸くしている。──俺は飛んだ──。
ガッスウッ
右飛び膝蹴りだ! 俺の右膝が、クオリファのアゴに当たった! 完璧な手ごたえ!
「グフウウウッ」
クオリファは大きく吹っ飛び、尻もちをついた。
しかしクオリファは、あわてて立ち上がろうとした。舌打ちして、「へ、やるじゃねえかよ」とつぶやいている。
ムダだぜ、クオリファ。お前はアゴの急所にくらった! そうなると、どうなるか?
クオリファは立ち上がろうとして、膝に手をつく。
「え?」
しかし、クオリファはグラリと体を揺らし──。
ドタッ
彼は、右にまた転倒した。
ウ、ウオオオッ……。
「え? クオリファが……?」
「何だ? おい、何が起こっているんだ?」
「お、おい。ダウンか? ゲルドンの弟子がダウン?」
「何かの間違いじゃねーの?」
観客がざわざわと騒ぎ始める。何かが起こっている、と。
『クオリファのダウンです! 1……2……3……!』
ダウンカウントが審判席から数えられる。
ウオオオオオオオッ……。
「きたああああーっ!」
「クオリファのダウン!」
「ゼント、何者だ?」
少ない観客が声を上げる。
俺は、開始35秒で、ゲルドンの一番弟子をダウンさせた!
クオリファは、リングに片膝をつき、目を丸くして、俺を見上げていた。
「お、おい、何かの間違いだ……そうだろ? おい」
クオリファはブツブツ言いながらも、ギロリと俺をにらみつけて言った。
「ゼント、お前……。一体、何者だ? い、いや、そんなことはどうでもいい!」
クオリファは立ち上がろうとしながら、吼えた。
「分かっているだろうな! 俺に恥をかかせやがってぇ……!」
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