聖誕祭3
シアは低い姿勢から剣を振り下ろした。
ヒュリアリアはそれを聖剣でうける。オレを片手に持ち、腕一本のみで防いで見せた。
やはり筋力が高い・・・。
両手で剣を振るうシアの攻撃を片手の聖剣のみで防いでいる。
「追いかけてきたのか。どうした?、槍じゃなければこんなに弱いのかよ」
「つっ、・・・パパを、返してっ」
剣では操槍も円舞も機能しない。
攻撃と防御を担っていたその二つのスキルが使えないのはきつい。シアはオレを盗んだ者を追いかけるために手近な武器を手に入れて急いでここに来たのだろう。
武器を選んでいる時間などおかまいなしで。
シアの体から鮮血が流れる。
額から、脚から、そして左腕からも。
「あはははっ、どうした!、この武器を取り返しに来たんじゃないのかっ、ほらっ、ほらぁっ」
「ぐっ、つ・・・」
最初の攻撃とは違い、シアは防戦一方になってきた。
ヒュリアリアが剣を横に一閃する。シアはそれをふせごうとして剣を右に大きく傾けてしまう。
「じゃあね」
ヒュリアリアの剣がシアの胸にさし込まれる
剣が、肌を貫く直前――何かに阻まれた。
十字架のペンダント。真ん中に赤い宝石を宿したそれを、シアは左手に持ち、盾の代わりにしたのだ。
ペンダントは壊れてしまった。それでも、ヒュリアリアの攻撃を一度だけ、逸らすことに成功した。そしてそれは、小さなチャンスをシアに与える。
シアの左手が聖剣を押さえる。儀式用のような装飾があだになり、側面に指をかけるところが多かったせいだ。
「くっ、こいつ・・・!」
振り払おうとしたヒュリアリアは、今までのシアとちがい振り払えないことに驚く。――スキル《竜力》か。
シアの右腕が動く。ヒュリアリアはそれまで使っていなかった左手のオレをとっさにかまえ、シアの剣から身を護る。
甲高い音がなる。
その音に隠れるように、シアがヒュリアリアのふところに身を寄せた。
「《三段突き》・・・!」
それは前回シアが負ける要因になったスキル。けれどそのスキルを、シアは無手で使った。
己の腕を槍に見立てて、手刀をヒュリアリアのふところに叩きこんだ。
「がっ!、ぐうぅっ」
二発。
三発目は避けられてしまったが、それでも二発の《三段突き》を脇腹にくらい、ヒュリアリアは大きく後退した。
ヒュリアリアの体に、決して小さくはない傷口ができていた。
「はぁ、はぁ、こいつっ・・・!」
シアは前までのシアとは違う。ダンジョンで竜騎兵を相手に戦闘訓練をしてきたのだ。
それまでただ、スキルを使っていたシアとは違う。
ここぞというときを待ち、確実なタイミングにスキルを当ててくる。・・・シアは強くなっている。
「・・・・・・返してもらう」
「そうかよ。できるもんならなぁっ」
ヒュリアリアは聖剣を掲げる。
「もう容赦はしないっ。喰らえ、そして見せてみろっ《ノコギリ草》!」
ヒュリアリアの剣から花びらが舞う。ちいさい、すごく小さな華の花弁が、数万、いや、数億という数を成して、ヒュリアリアの周りを舞いはじめる。
それは紅色の竜巻のように、紅い花弁を辺り一面に敷き詰めながら剣を中心に立ち昇っていた。
シアは体中から血を流していた。頭を守る腕や体、脚、そして背中からも。花弁はまるでカッターナイフの刃のように。触れた物をすべて切り裂いてゆく。
「・・・あはは、こういうのか。なら・・・これでどうかなっ」
ヒュリアリアは聖剣の刃先をシアに向ける。
回り続ける花びらの柱がシアを包み込んだ。
シアの姿がみえなくなる。
やめろ!シアッ、シア!逃げろっ、オレなら大丈夫だからっ、今は逃げてくれっ!
声よ届いてくれとばかりに心の中で絶叫する。
届け。
シア、逃げてくれっ!
――どれくらいの時間がたったのだろうか。
5分?10分?それはオレにとって、数時間にも思える時間だった。路をすべて紅に染め上げた花弁の乱舞は、唐突に終わりを告げた。
まるで雪が降り積もるように、赤い絨毯があった。
し・・・あ・・・?
シアの姿が見えない。
・・・ちがう
シアはいない。
・・・ちがう・・・
・・・・・・ちがう!
紅色の絨毯の一部が、真っ赤に染まっていた。
シアは・・・シアはどこだ・・・
姿が無い。
花弁の下に埋っているのならいい。
けれど違ったら、刃物のような数億枚の花弁に切り刻まれたのだとしたら。
人の形など
シュレッダーにかけられた
紙のように
「あはっ。こま切れになっちゃった」
ヒュリアリアが笑う。
シアを刻んで。
ちいさく、ちいさく、ちいさく切り刻んで。
どれがシアの体の一部なのかさえ、わからないくらいに分解して。
真っ赤な、真っ赤な、真っ赤な華を絨毯の上に広げて、それが、それだけがシアのいた痕跡なのだと、その血の痕だけが、オレの娘”だったんだ”と教えるように。
ヒュリアリアが笑う。
笑う。
貴様
・・・きさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁあああああああああああああ!!!!!!!
ボッ
と赤い絨毯が持ち上がる。真っ赤な肉塊が立ち上がり、ヒュリアリアに腕を伸ばす。
「くっ!?」
それはヒュリアリアではなく、オレを掴む。
「《絶衝》!」
だがそれは――あのこはヒュリアリアのスキルで吹き飛ばされ、再び花の中に沈んだ。
「・・・《火炎弾》」
大きな爆発と共に、火が放たれる。
火は辺り一面の花弁を呑み込んでゆく。
「・・・・・・ふんっ」
ヒュリアリアはそれをしばらく眺めた後、足を返して走った。
遠ざかる路地の場所から、赤い火の明かりだけがオレの目に残っていた。




