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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人間領
98/222

聖誕祭2


 聖誕祭がやってきた。

 学園は第二学期が終わりを迎え、これから冬休みになる。

 けれど学生たちはもう一日休みを返上し、生徒会主催の舞踏会に参加するのだった。

 そんな学生たちとは進行方向を別にして、シアを乗せたグラスマイヤー家の馬車は王の居城へと進んでいく。

 城に向かう沿道にはオレンジ色の光を灯すランタンがいくつも置かれていた。暮れはじめる街をやさしく包みこむように照らすあかりは、人の心によりそう温かさを感じる。

 シアは冬になると思い出す景色がある。

 この街はそれとはちがう、温かさがある。

 一昔前ならいざ知らず、今はその温もりが嫌いではない。

 ここには”人”のあたたかさがあった。


「許可できない」

 あたたかさはなかった。

 馬車から降りて城に入り、受付の招待客リストの照合を終わり、いざ城内へ――というところで、客の荷物預り所で待ったをかけられた。

 シアはミルゲリウスを連れ、黒と白を基調としたドレスを身にまとい、所々に黄色と金色を使った装飾品を付けていた。そして左手に小さな手提げカバン。右手に布をかぶせたオレを持っていた。


「その槍はここに置いて行ってください」

 だめかー

 そりゃそうかー

 しかたない。置いて行ってくれ

「・・・・・・んー・・・・」

 シアは困っていた。心情的には置いていきたくないらしい。しかし持っていけないのはわかっている。

「しかたない。ならそれは重金庫にいれておくから。帰りにこの鍵をこの受付に持ってきてくれ。それまで金庫はあけられないから、安心だろ」

「・・・・・・ん。」

 シアはオレをわたし、受け取った受付の兵士は荷物置き場の奥にある金庫にオレを入れた。カチャリと鍵がかけられる音がした。

 まっくらだ。

 外の音がほとんど聞こえない。

 まぁいいか。しばらくのんびりしていよう。


 ・・・・・・そろそろダンスしてるかな。

 それとも何か食べてるのかな。


 ・・・・・・ふんふふーん

 はーん

 ららら~


 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 スキルの熟練度上げたいなぁ・・・


 ・・・オレだ、シア、人間になったぞ!

 パパ、かっこいい!好き!

 はははパパにほれちゃならねーぜはははっ


 カチャリと鍵があけられる音がした。

 あびゃらびょびゅびゅびゃあぁへへへへへへっしあさんちがうんでげす。ちょっと、そうっ、物語のネタ出しをしてただけでねっ

 金庫からオレを取り出した兵士は受付に戻り、少女にオレを手渡す。

 黒と赤を基調としたドレスを身にまとった少女。

「・・・これで、本当にいいんだよな。オレがしたこともバレることはないんだよな」

「えぇ、そうですよ。これから起こる反乱劇から王を守るために、これらの武器が必要なのです。きちんとふさわしい所有者へと手渡しますよ」

 その赤毛の少女はニコリとほほ笑む。

 二振りの武器を腕にかかえたまま。


 ヒュリアリア・M・アウグステン


 欺瞞ぎまんに彩られた、まがい物の少女だった。




 おいっ、はなせ!何でお前がいるんだっ、シアはどうしたっ返せ!、オレをシアに返せっ!

 オレの叫びはヒュリアリアには届かない。どれだけ叫ぼうとも、その言葉は虚空へと消えていく。

 オレの言葉はシアにしか通じていない。

 なら!

 《風突》っ!

 強風が流れた。

 ・・・しかし、それだけだ。

 スキルの発動条件をきちんととれていなければ威力は大幅になくなる。

「・・・・・・《絶衝》」

 ぴぎゃっ

 オレを衝撃波が打ちのめす。

 あばばばと体が震え、何もできなくなる。

 その間にヒュリアリアは玄関に用意されていた馬車に乗り込んだ。


「ヒュメリア、それがお前の言っていた国と交渉するのに必要な魔道具なのか?」

 ヒュメリアってだれだーっ。いったいどれだけの偽名を持っているんだこいつ。

 馬車にはごろつきのような男たちが3人いた。今馬車を走らせている人間をいれて4人。どうやらヒュリアリアの仲間のようだ。

「そうだよ。ほら、早く縛って、この黒い武器は勝手に動くからね。予定通りにお願い」

 ヒュリアリアはそう指示し、馬車に積まれていた鉄鎖でオレを縛り始める。

 ぐぬぬっ、がんじがらめじゃないかっ、ちくしょう、オレをどこに連れて行く気だっ!

 ヒュリアリアはオレの言葉がわかっているのかいないのか、さっきから始終うれしそうなニヤニヤ笑いを浮かべている。

「やぁ、しかしこんなにうまくいくとは思わなかったよ。”聖剣”と”邪武器”どっちもいっぺんに手に入るなんてね。この世には阿呆しかいないんじゃないかってくらいさ」

 実にいやらしく、ニヤニヤと笑う。

 こいつっ、シアを阿呆と言うのか。そりゃまだまだ抜けていることは多い。けれどそんなのは子供なんだからあたりまえだ。

 悪意を持って裏をかいておきながら、だました相手をあざけるとは。どんだけ性根がくさってやがるのか。


「・・・おい、”聖剣”って言ったか?、まさか、あの”聖剣”なのか?」

 ごろつきの男は驚きながら言った。

「そうだよ。世界に数本しかない、貴重な武器だよ。だからこそ意味があるんじゃないか」

「いや、流石にそれは・・・」

 男は動揺していた。

「今更どうしたの?、力のある魔道具を集めて、第二王女を次期国王にしようっていうのはうそだったの?」

「う、うそじゃないが・・・」

「そ?、ならいいけど」

 第二王女を次期国王に?、第二王女ってシエストリーネのことだよな?。まさか彼女が反乱にかかわっているのか?。

「・・・本当に第二王女は他種族を嫌っているんだろうな。お前の報告が間違っていたりしたら――」

「間違ってないよ。王女はクラスで他種族の血が混じった生徒を排斥しようとしてた。同じクラスにいたんだから、私はそれを実際に見てたんだ」

「そうか、・・・確かに、他からも同じ報告はもらってる」

「なら本当だろう?」

「・・・あぁ」

 まてまて、それってシアのことだろう。どういうことだ?。シエスが他種族を排斥してるようだから、仲間に引き入れるってことか?。今現在シエスが仲間にいるわけではなく?。反乱をしてから祭り上げようってのか?。

 ぬうう、もっと聞かせてくれっ

 オレの思いとは裏腹に、男たちは黙ったまま、ヒュリアリアの抱えている一本の剣に魅入っている。

 聖剣『ペントレイア』

 魔族領からある少年が盗んできた武器だった。御前での決闘を経てその剣は少年の物となったはずだった。

 それを今度はヒュリアリアが盗んだのだ。

 少年は今回の舞踏会のゲストとして、国王から招待されていた。

 会場に武器の持ち込みはできない。だから少年もシアと同じように荷物預り所で受付の兵士に言われて金庫の中へと預けていたのだろう。

 その兵士が裏切っていたのだ。


 ・・・・・・そういやあの兵士、どっかで見覚えがある気がする。

 兵士に知り合いはほとんどいないし・・・あー、あぁ、そうか。少年と聖剣をかけて決闘した騎士が、確かあんな外見をしていたかもしれない。

 ・・・・・・何があったのか知らないが、少年に恨みでもあったのか。それともしかえしに一泡吹かせてやろうとでも思ったのか・・・。

 そんな暗い感情をヒュリオに付け込まれでもしたのだろう。

 自分の立場を利用して貴重品を反乱者に渡したのだ。

 くそう、あとで覚えとけよ・・・


「・・・・・・そろそろだ」

「そう。なら君たちは合流しにいっていいよ。ボクはこの武器を隠れ家に持っていくから」

 男はその言葉に返事をしない。さっきから何事かを考えていたらしい。

「・・・・・・いや、聖剣はまずい。それはこの国だけの問題じゃなくなる。それに足もつきやすくなる。たとえオレたちの反乱が成功しても、聖剣を奪いたい他国がオレたちの反乱ごと皆殺しにして奪いに来ないともかぎらない」

 ・・・聖剣ってそんな危ない武器なのかよ。なんでそんな物を一人の少年にあずけるかね・・・。いや、だから聖誕祭の今日、城の舞踏会に呼んだのか。

 聖剣を持つ少年のバックにはグラッテン王国がついているぞ。手を出せばこの国がただじゃおかないぞ。と、にらみを利かせるために。

 国が国であればそのにらみは意味があるだろう。反乱による一時的な政府では、そのにらみは効果がない。

 むしろ他国の介入を助長させる、逆効果のものになりかねない。

「・・・じゃあどうするの?、隠しておく?」

「・・・そうだな。まずは交渉にはつかわずに様子を見よう。強い魔道具であることにはかわりないんだ、・・・何かに使えるときがきっとくるさ」

「うん、わかった」

 じゃあ死んでね、とヒュリアリアは剣を振り下ろした。

「は?」

 返す剣で二人目を殺す。

「な、き、きさまっ」

 腰の武器を手にしようとしたごろつきはヒュリアリアの《衝》を腹にくらい、床に叩きつけられる。呼吸ができずに身もだえている所を剣で串刺しにされる。


「なんだー?後ろで何やってるんだー?」

「・・・何でもないですよー」

 ヒュリアリアは馬車を操作していた男の後ろから顔を出す。

「あぁ、ここか。だいぶ大通りから離れましたね。・・・ここでいいか」

「ここで?、まだ隠れ家には・・・ぐっ!?」

 後ろから剣で刺しながら答える。

「はいお疲れ様。ありがとうってね」

 ふふ、と笑いながら男の背中に刺さっていた剣を引き抜く。

 ・・・人を殺すことにまったくの躊躇ちゅうちょも動揺もない。まるで虫を殺した時のように、手が汚れたことのほうがめんどうという様子だった。

 ヒュリアリアは剣についた血を殺した男の服で拭ったあと、鎖でぐるぐる巻きにされたオレを掴んで馬車から飛び降りる。

 馬車はそのまま走り続ける。

 馬が足を止めるまであのまま進んでいくのだろう。ヒュリアリアは馬を見送った後、来た道を振り返る。


 城から煙が立ち上っていた。

 3本。

 城の周りからも上がるものを含めると、6,7か所から火の手が上がっていることになる。

 これが反乱組織『レメゲウス』。

 純粋種族思想をめざして立ち上がった彼らが、そのため込んでいた魔道具を使って起こした騒動だろう。

 この場所にはまだ、喧騒は聞こえてこない。けれど今どうなっているか・・・。みんな無事であってほしい。

 シアは・・・

 シア。

 シア。

 シア・・・

 今、どこにいるんだ

 シア・・・


 音が聞こえた気がした。

 いや、そんなはずはない。

 この裏路地はシンと静まり返っている。音が聞こえればわからないはずがない。

 けれど予感がする。

 シアに、きっと声が届いたのかもしれない。

 シア。

 シアはきっと来る。

 ヒュリアリアを追って、オレを手に取り戻すために。


 それは頭上から現れた。

 一振りの刃を手に、白と黒のドレスに身を包み、金色の輝きの鋭さが増した戦乙女が、

 ヒュリアリアの行く手をふさぐように降り立ったのだ。


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