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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人間領
96/222

学園は二学期3


 シアの槍捌きに、鋭さが増したように思う。

 Bランクダンジョン。

 イオ君と二人で攻略するには難易度の高い場所だ。

 けれどここには他のダンジョンにはない、すばらしい戦闘の教師役がいる。


 ――竜騎兵。


 竜の強さを持った肉体を人のような姿見に押し込め、鎧や武具を装備することで相乗的に戦闘力を高めることができた生き物だ。

 その強力な一撃を、シアははらいのけることができる。

 覚えたばかりの《燃力》だったが、十分に効果を発揮しているようだ。ヒュリアリアとの戦闘でうけた傷もほとんど治っている。それでもまだ少し足りない筋力を補ってくれている。


 一撃一撃がすべて必殺の意思を込められた重さを持っている。

 それをはらう、はらう、はらう。

 腕が悲鳴を上げる。体が軋む。足を踏ん張らないと吹き飛ばされそうになる。

 すべての攻撃に意識を向けなければ、一つ角度を間違えればその斬撃はシアの体をバラバラにするだろう。

 けれどシアは竜騎兵が振るう十数という斬撃をかいくぐり、一手、攻撃を与えた。

 二つの《風突》を重ねた高威力攻撃術。

 その攻撃は竜騎兵の鎧を貫き、肉体にダメージを与える。けれど倒れない。

 竜の肉体は固いウロコで守られている。傷を負わせることができても致命傷ではない。

 シアと竜騎兵はふたたび斬撃を交わす。

 どちらかが膝をつくまで、武器を取り落とすまで、それは続く。


 結局決着はつかなかった。シアは疲労からオレを持つ握力もあやしくなり、戦っていた竜騎兵はボロボロになりながらもまだ、戦うつもりがあった。

 けれど竜騎兵に周りからストップがかかった。仲間の竜騎兵が間に入ったのだ。

 それを見て後ろで見守っていたイオ君がシアの前に立ち、盾を掲げながらゆっくり撤退を始める。

 竜騎兵たちはそれを見送る。彼らは好敵手を蹂躙することはない。

 一対一の戦いをしかけられれば、それを邪魔することなく受けて立つような騎士道精神の持ち主なのだから。



 ダンジョンから十分に安全な距離まで逃げて、ようやく腰を下ろすことができた。

「はぁ、はぁ、スキル、使うひまが、なかった・・・」

 攻撃をしのぐだけで精いっぱいだったらしい。

 けれどそれは正しくない。スキルは使っていた。

「《円舞陣》と《燃力》の維持、みごとでしたよ、シア。あとはそれを意識しなくても続けられるようになればいいですね」

「・・・・・・ん。」

 イオ君はわりとスパルタだった。

 シアにつける教師がなかなか見つからないとなると、どこからか竜騎兵のいるダンジョンを聞いてきて、シアにいってみないかと誘ってきたのだ。

 死ぬかと思った。

 シアが。

 というか、シアが敵の攻撃をしのげなかったらどうするつもりだったんだよ・・・普通に死ぬわ。

「大丈夫です。シアには《竜力》を温存してもらっていますし、彼らは脚自体は早くない。十分逃げ切れると思っていました」

 そううまくいかないのがダンジョンの怖いところなんだけどね・・・。

 ちなみにオレの発言はシアに代弁してもらってイオ君と会話をしている。シアは相変わらず会話をはしょるので意味の取違いがよく起こるのが困りものだ。

 しかし、入ってすぐに出会った一体目の竜騎兵でこの有様である。

 ダンジョン攻略は当分無理だな。

「対人戦闘の経験を積みに来たからいいんですよ。それに、ここはすぐ近くにDランクのダンジョンもある。こちらでシアパパさんのお目当てのことができると思いますよ」

 お、ありがたい。いろいろ試してみたいことがあったんだよね。できればランクの高いダンジョンでやりたかったが、まぁDランクでもいいか。実験してみよう。

 と、そういやイオ君はいいのか?、シアだけが竜騎兵と戦闘していたが、イオ君もどれだけ耐えれるか試してみたくはないのか?

「・・・・・・死にますから。ボクはいいです」

 おい、そんな相手とシアを戦わせるな。

 しかしどうやらそれは本当のことらしい。筋力ステータス値30以上は鍛えている成人男性が出せる数値らしい。今のシアの筋力は32。これに《燃力》の筋力増加15%と《円舞陣》の速度・攻撃力上昇を重ね合わせて、やっと竜騎兵の攻撃をそらすことができる。

 正気では決して一対一を挑むような相手ではないのだ。

 確かにとんでもない相手だったけど・・・剣の腕はそんなでもなかったぞ?。いや、そこらの冒険者よりは高いと思うけどさ。

「大丈夫ですよ。まだあそこは入り口です。奥に行けば行くほど剣の腕も強く、その技も多岐にわたるようになりますから」

 うへぇ、そうなのか・・・。すごいなそれ。だったら剣の腕を上げたい人たちはみんなここに通っているってわけか。

「いえ、そもそも攻撃をしのぐことができませんから普通はやりません。頭のおかしい盾騎士はやるらしいですが。ここは魔術師が自分の魔術の威力を試すために来る、高耐久の的が人気のダンジョンです」

 ・・・・・・その人らもたいがい頭おかしいのでは・・・。

「すごく楽しかった。」

 うちの娘は気に入ったらしい。

 このダンジョンはちょくちょく来るとして、さて。


 Bランクダンジョンから急ぎ目に歩いて30分。目的のDランクダンジョンにやってきた。

 よくある洞窟型ダンジョンだ。

 入ってみるとそこそこ人通りがあるようで、足跡やら攻略に描かれた矢印やらが残っていた。

 あまりレアアイテムには期待できそうにないな・・・。まぁ問題ない。

 そのために用意してきました。

 シアはため息をつきながら持ってきた鞄から小さい木箱を取り出した。すでに中には適度に刃物傷をつけられたマントが入っている。

 よし、シアやってくれ

「・・・《虚無弾アーマーン》」

 ズゴゴと壁に箱を入れるのにちょうどよさそうな穴があく。穴に木箱を入れた後、入り口を土でふさぐ。これで完了だ。

 ダンジョンの地図に今の場所を書いて、もう一つ。今度の木箱には刃物傷をつけられた、付与のついているマントが入っている。

 同じように穴をあけて埋める。

 そんな行動を合計10回やった。

 パッチル直伝の魔道具作成方法の実験である。

 今回埋めた10個のマント。これがどういった効果を産むか、どれくらいで完成するのか楽しみだ。

 パッチルから得た知識ではこの方法で作った魔道具は特殊輝石より効果は弱い物しかできない。特殊輝石が10%以上の効果の物しかないのに対して、こっちはせいぜい一桁、良くて10%の物しかできないらしい。10%ならうれしいが、5%程度の物であれば付与の内容はかわるが、”魔”属性魔術で付与してもいいわけだ。

 たった+5%。けれどその蓄積が物をいう世界なのでこうして地道に装備品を埋めて魔道具を作ろうとしているのである。

 ・・・しっかし、この細かい%ってどうやって調べてるわけ?やっぱり高熟練度の鑑定眼で調べられるのかね。

「それは、鑑定眼の発展スキルに細かい付与率までわかる物がありますよ。スキルの名称は《鑑定眼》のままですけどね」

 眼力系に熟練度があると思ったらやっぱりそういうことか。対象にできる種類が増えて行くのかと思ったら効果もわかるようになるらしい。

 シアの探索眼はどうなるんだろうな。レア度が☆で見えるようになったりするんだろうか。楽しみだ。


 さて、ひとしきりやることも終わったが、どうしようか。

「ん。Bランクもう一回やる。今度は勝つ」

 本気か。

 やるならやるが、やるのか。

「やる。」

 ・・・よし、行こう。

 気勢を上げている今が成長する時。実際には周りが見えなくなっているだけで、失敗することがあるかもしれないが、そこはオレが気を付けよう。

 覚えたばかりのスキルもどんどん使ってかないといけないしね。




 なじみのダンジョンを廻って収集品を売却した後、店を出る前にセシル君に呼び止められた。

「シア様、少しお時間いただけませんか?」

「ん?、何」

 セシル君はカウンターではなく、店内のソファーまでシアを連れてきて座らせる。

 イオ君はおいてきぼりにされているが気にしていないようだ。

 ・・・もうちょっとくらいはシアのこと気にしてくれてもいいんだが?

 さて、セシル君はシアの向かいのソファーに腰を下ろした後、シアの前に一つのプレゼント箱を置いた。

「・・・・・・ん?」

「シア様、誕生日おめでとうございます。これはいつもお世話になっているボクの気持ちです。どうぞ受け取ってください」

 セシル君はニコニコとうれしそうにしている。

 シアはちょっと動揺したあと、箱に手を伸ばした。

「あり、がとう。うれしい。・・・もらっていいの?」

「はい。よろこんでいただければ嬉しいです」

 プレゼントは水晶でできた白鳥だった。手のひらサイズの精巧な白鳥。翼を広げ、今まさに水面から飛び立とうとしている姿をかたどっている。

「きれい・・・」

「水晶には病を遠ざける魔術が付与されています。強い効果ではありませんが、置いておけば部屋全体に効果があるでしょう」

 ありがたいな。シアのことを想ってこんな物を作っていたなんて・・・。

「ありがとう、セシル。こんなきれいな贈り物、うれしい、です」

 シアがセシルに笑顔を向ける。

 セシル君は素敵な男性である。実に貴族として立派な人だと思う。


 シアは11歳になった。

 体の成長は実にゆっくりだ。

 いつの間にか落葉の季節が終わりを迎えるように、普通の時間をあゆんでいければいい。

 魔王も、勇者もかかわりのない場所で、ゆっくりと。

 ・・・けれど季節がめぐる。

 季節は、冬になる。


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