学園は学園祭3
傷は副委員長が治してくれた。副委員長、回復魔術なんて使えたのか・・・。冷凍系の視線攻撃が得意技だと思ってた。
傷自体は治ったように見えるが、まだ本来の能力を出せるほどではないらしい。なくなった分をむりやり魔術で補ったのだ。骨はスカスカで、神経はつながりきっていない。
下手をすると握力が戻りきらないかもと言われた。
手痛い代償だった。
肉体の傷も、そして・・・心の傷も。
シアは負けたことに気落ちしている。クラゲに敵わなくても楽しそうだったシアが、同年代の相手に負けてショックを受けているようだった。
そしてそれだけのものを払って、彼女がヒュリオだということだけはわかった。
風紀の委員会室で何があったのか聞かれた。イオ君と委員長と副委員長。それから3年の風紀委員二人ほどの計5人で、シアへの聴取が始まった。
「では君は、彼女が”赤毛の破壊者”であることを知っていたのだね」
「もしかするとそうかも、とは思った」
「そう思うに至った理由を教えてくれ」
「んー・・・」
シアの口が重い。
本当のことを言うわけにはいかないからだ。
どうしたものかね・・・
奴が人の中に紛れ込んでいた理由も、貴族の屋敷を破壊して回った理由も知っている。
シアと同じ存在だからだ。シアと同じ”使命”を持っているからだ。
だが、それを教えるためにはシアが魔王の偽の器であることを話さなければならなくなる。
魔王に思い入れはない。だが、魔族には思い入れがある。シアは自分は魔族であると思っている。混じり物の生命だけれど、その根本は魔族であり、一番大切なのはお嬢様であると。
だから話せない。
あまりウソをつかないシアは、非常に困っていた。
ふ・・・ならばオレが代わりに答えよう。
シア、オレの言うように言葉にするんだ
「・・・・・・昔、ヒュリオを見たことがある。産まれてすぐの、幼いころ。魔族領の付近で。ヒュリオは私の武器を壊した。壊して奪った。だからずっと、赤毛の魔族のことを探していた。私と同年齢の魔族で、強い存在を。入学したてのクラスの自己紹介のとき、ステータスを見た。そしてヒュリオは、”M”の字を名前に持っていた。だから私の探しているヒュリオだと思った」
「・・・・・・ふむ。武器と言うのは、それか?」
「そう。もともとは剣だった。今は別の部品をつないで槍だけど」
「そのヒュリオが、なぜ”赤毛の破壊者”だと思ったんだ?」
「グラスマイヤー領の集落で、ヒュリオが何かを探しているという情報を聞いた。そのあと赤毛の破 壊者のことを聞いて、その行動がヒュリオの目的と一致するように思った。だから今日見つけたとき、カマをかけてみた」
「・・・・・・ヒュリオの目的とはなんだ?」
ここが分岐点だ。
悪いなヒュリオ、お前はオレの敵だ。シアを傷つけるものには容赦なくいこう。
「・・・・・・力のある、魔道具――武器を探している」
「・・・・・・なるほどな」
これでヒュリオは反逆者になった。
本当に奴が反乱組織”レメゲウス”とつながりがあるかはわからない。しかし、あってもおかしくはないと思う。
いったい奴がどうやってこの学園に入りこめたのか?。
おそらく、何らかの組織の力を借りたのだと思うからだ。
魔族の血を持つ存在をわざわざこんなところに送り込むような不届き者はそうはいない。
”純粋種族思想”をうたいながら、相反するような手段を取ってくる組織なのだ。きっとヒュリオの何かが組織にとって利益になると思われたとしても不思議はない。
オレがヒュリオを反逆者としてこの場で訴えたことで、おそらく調査が入ることになる。
ヒュリアリアという生徒と、その貴族、領地、そしてヒュリオという少年のことを。
最悪、聖剣を探す魔族の存在があかるみに出るかもしれないが、そうなったとしてもヒュリオと敵対しているシアにはそれほどの追求はこないだろう。
・・・こないといいな。
ともあれ、これでヒュリオがやっていることが少しでもわかればいい。
「・・・・・・ひとまずは理解した。また後で聞くこともあるだろうが、今は帰って休むといい。あとのことはこちらでやっておく」
委員長はそう言って椅子から立ち上がる。
これで話は終わりらしい。
でも一応お願いだけはしておくか。
「・・・待って、ヒュリオのこと、何かわかったら教えてほしい」
委員長は少し黙った後、口を開いた。
「その男を見つけたら、君はどうするのだ?」
また猪突猛進と戦闘を始められても困るし、聞かれるのももっともだと思う。
今回シアから攻撃を仕掛けるようなことになってしまったが、確かにさっきの説明だけではヒュリオはシアの武器を壊した相手というだけでしかない。シアが反逆者の一員だと言っているが、本当のことはわからない。ただ恨んでウソを言っている可能性もある。
復讐のために過剰な制裁を望んでいるように見えるのか。
「・・・・・・捕まえて、本当のことを聞きたい」
そう。シアがヒュリオに槍を向けたのは、ヒュリアリアがヒュリオである核心を得るためのブラフだった。少なからずオレを傷つけたことへの仕返しが混じっていなかったとも言えなくもないが、他の方法があれば戦闘になることはなかったはずだ。
・・・いや、やはり戦闘にはなったかもしれないな。
ヒュリオは魔族のみのために動いている。
けれど、シアは魔族と人族、両方のために力をかしている。どっちつかずと言われるかもしれないが、それでもシアは大切な者たちのために、今できることをやっているのだ。
「次は決して、単独で相対しないと約束できるなら考えよう」
「・・・ん。約束する」
・・・長く感じる一日だった。
”赤毛の破壊者”。シアの覚悟はあいつほど高くない。今までは覚悟なんてほとんど必要ではなかった。
けれど、もし今後あいつを止めようと言うのなら、そういったものが必要になるかもしれない。
それとも・・・魔王や勇者のことなんて忘れて、一切かかわらなくても・・・。
まぁ、今さらか。




