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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人間領
89/222

調査隊4


 謎解きが始まった。

「ライオン、ヘビ、天使、花、・・・おそらく空にある中天軸の星座たちじゃ。七つの星座。しかし寓話ではもう一星ある。七つの星から悪行を咎められ、粛清された星。位置は中央じゃな。中央には何があるのじゃ?」

「水の無い噴水」

 庭園のような広い空間に枯れた噴水があった。噴水には何もない。地下もなさそうだった。

「ううむ・・・?、よくわからんのじゃ」


「・・・なぁ、じいさん、さっきから聞いてたんだが、図を描いたほうがいいんじゃないか?」

 横からそう言ってきたのは先日、シアを子供と呼んで参加させることに反対していた大工のおっちゃんである。確か名前はカイエンだったかな。

 カイエンは外側から予測できる簡単な屋敷の図を書いていく。

「あの屋敷は左右対称だろう。だったら、その石像の位置が関係あるんじゃないかと思うんだが・・・」

 そう言ってシアに図を手渡してくる。わかるところを入れろということらしい。

 埋るのは半分。

「ふぅむ。7星座だとすると反対側の4つには何があるんじゃろうか」

 一つ石像が多いことになる。もしくはそこになにかあるのか、何もないのか。

「もう片側も調べてみたほうがいいんじゃないか?」

「・・・ん。わかった。・・・ありがとう」


 シアは再び屋敷のもどる。

「あ、いた、シアちゃ・・・んんんっ!?」

 途中で発見したメルビレアと制圧部隊を引っ張って反対側を走る。

 竜、馬、壺、剣・・・。聞いた話だと壺が星座じゃないはずだ。

 メルビレアに言って壺を調べてもらう。

「罠はないけど・・・回すと取れるわね、この壺」

 そう言って台座から壺を取り外す。


 壺を手に入れた。

「穴が、開いてる・・・」

 ふむ。難解なギミックじゃなさそうだな。

 シアは壺をかかえたまま、中央の庭園の噴水までやってきた。噴水の先端部に、水が出る突起がある。

 壺をその突起にさし込み、回す。

 カチリ、と音がした。

 とたんに壺から水があふれだし、噴水を満たしはじめる。


 どこかから鐘の音が聞こえる。

 一つ、二つ、三つ・・・空の色が変わる・・・五つ、六つ、七つ・・・夜が来る。


 七つの星が輝く。その空の真ん中に、銀色の鎧が浮いていた。

 静かに、そして威風を漂わせながら。

 一揃えの鋭い翼が持ち上がり、引き抜かれた。それは巨大な剣になる。


「くるぞっ」

 誰かの掛け声とともに兵士たちが盾を掲げる。

 その盾が散った。――速い!

 それでも数枚の残った盾が鎧の攻撃を押しとどめる。

 これは、動く鎧リビングアーマーか。オレと同じ、リビングソードやイビルウェポンと呼ばれる存在と同じく、本来なら無機物でしかない”物”に魂が宿り、動き出したようなモンスター。

 浄化魔術でもあれば弱点をつけたかもしれないが、ちょっとやっかいかもしれない。

 傷をつけても傷つかず、戦い続けても疲れ知らずとなると・・・、制圧部隊がああいう存在と戦い慣れてくれてればいいのだが。


 鎧の剣が振るわれる。複数重ねられた盾で一撃は抑えられる。「よしっ!」だがもう一振りある。一翼の翼は二振りの剣になり、鎧の手にそれぞれ握られ、そして――!

 ・・・多くの兵士が地に伏している。

 死んではいないようだが傷が深い。回復魔術持ちの兵士が彼らを避難させようとするが、鎧が近くにいてそれもままならない。

 援護するように苦し紛れにメルビレアが短剣を投げ、兵士から魔法攻撃が撃ち込まれるが、ほとんど効いていないように見える。いや、物理系のモンスターに魔法攻撃は有効なはずだ。


 このボス・・・強すぎるのではないか?

 もしかするとこのダンジョンに誕生してから、一度も倒されていない可能性がある。

 普通のダンジョンであればボスは倒しても、別の個体がボスになり、また倒されるのを繰り返す。だがこのダンジョンはギミックがあり、少しボスに到着するまで面倒なのだ。

 ボスは倒してもうまみがあまり期待できない。そんなのをわざわざギミックを解いてまで探しに行くだろうか?いや、いかない。

 誰にも探されなかったボス。ゆえに、ずっとダンジョンから魔素を受け続けた存在。

 もしそうだとすれば、このボスはこのダンジョンのランクより―――はるかに強い。


 どうする、シア。逃げた方がいいぞっ

「・・・・・・」

 シア、彼らを連れて逃げろ。いや、何なら彼らはほっといてもいい、お前だけでも逃げて、戦力を整えて再戦しようっ

 おそらく、Aランクの冒険者パーティーが必要だろう。最低でも中級攻撃魔術を使える者を数人連れてこないと話にならない。


「中級なら、いる。」

 そりゃ・・・!、

 シア、・・・戦うつもりか?

 そうか。

 いいんだな?。彼らは人間で、そしてお前の家族だったリザードマンを殺したのと、同じ鎧を着ているんだぞ。それを、助けるんだな?

「・・・・・・、・・・うんっ。パパ、手伝って!」

 よし。

 わかった

 なら――倒すぞ

「んっ。」


 オレの中のスイッチが完全に切り替わった。シアの敵はオレの敵。それはずっと、心の中にしまわれていて、いざともなれば無情な判断を下す役割になっていた。

 人間は見捨ててもいいもの、そしてあの時、集落を襲って来たのと同じ鎧を着た兵士たちは・・・敵なのだと。心の奥底で認識していた。

 その”敵”の認識を、改めよう。

 オレと、シアが――


 助けよう。


 シア、指示を出せ。兵士に足止めをさせるんだ

「盾は一発目だけ止めて!盾が無いのは腰にしがみついて止めて!。もう片方は一回だけ私が受ける!」

 シアの指示を聞いて兵士の隊長格が兵士たちに指示を出す。

 ばらけながら攻撃を避けていた兵士たちが集まりつつある。

「小娘っ、次を押さえる!いくぞっ」

 兵士が盾を構えて攻撃に備える。鎧は無駄だということをわかっているのだろう、正面から剣を振りかぶり、盾に向かってくる。

 シア!


「《竜力ドラゴニカ》っ」

 盾を持った兵士は鎧の一撃を抑え込む。だが、続けて別方向から叩きつけられる剣撃を、ふせぐことはできない。


 スキルは二つ。シアと、オレの

「《風刃スラッシュ》!」

 風刃の刃で威力を削ぎ、鎧の剣にオレを叩きつける。――いや、押し戻す。「《斬月ざんげつ》っ」

 シアの膂力とスキルが大剣を打ち上げた。

 鎧は体勢を整えることはできない。腰には幾人もの兵士がとりつき、動きを阻害している。

 シアはオレを持つ手とは逆の、開いた片手を前に突き出し唱えた


「《虚無弾アーマーン》っ」


 どんな防御をも貫通する、絶虚の魔弾が放たれ鎧の胸部に穴をあける。

 次々と放たれる虚無弾により、鎧は穴だらけの姿になる。

 シアが魔術を止めた時、勝負は決していた。


 鎧が端から砂粒に変わる。

 夜の闇が消え、星が落ちてくるように、空からはボスモンスターがため込んできた幾本もの武器が降って来る。

 近くの兵士が盾を頭上にかかげてくれる。なにこれすっごい、すっごいけど・・・報酬なのかトラップなのかわからんな・・・。


 ガッチャンガッチャン武器の雨が降って来る中、鎧が消えるその最後に、鎧はその場に白銀に輝く鎧をドロップした。

「・・・きれい」

 細い胴まわりと薄い胸部。薄いが、女性用とわかる意匠とうつくしい装飾。

 大人の冒険者では着用できない、少し小さめの胴鎧。

 鎧・・・お前・・・

 強者から、強敵への贈り物。

 シア専用の装備品だった。

「私、の?」

 おそらくな。

 シアはチラリと盾を掲げてくれていた兵士をうかがう。兵士は明後日の方を向いて、見てない風を装っている。

 他の兵士も大量の報酬に狂喜乱舞しているし、一つくらい持って行ってもかまわないってことだろう。

「・・・ん。」

 その胴鎧はシアの腕の中に収まった。




 鎧の残した武器は8割が魔道具だった。

 その数は300を超える。このうちのいったいどれくらいが冒険者の残した遺品なのかわからないが、鎧がダンジョンのボスの座についてから今までに貯めこんできたすべての収集品を回収できて、兵士たちは熱に浮かされたようにはしゃいでいた。

 シアへの感謝の言葉や賛美や、殴ってるんだかほめてるんだかわからないボディーランゲージが何度も行われた。

 調査隊も屋敷に入る許可がおりたのか、いつの間にか中央の庭園にきて兵士たちから何があったのか教えられていた。

 パッチルは大仰に驚き、そしてギミックを見られなかったことを嘆いていた。確かに鐘が鳴ったり夜になったり星が降ってきたり、面白い演出だった。どんだけ魔素を注ぎ込んで雰囲気作ってるんだよっていう。・・・あれ、全部鎧が作っていたのかなぁ。最後のドロップのことを考えるとあながち違うとも思えないが。


「・・・・・・シア、ちゃん」

 代わるがわるシアをパシパシはたいていく兵士の流れがひと段落すると、いつの間にか横にメルビレアがいた。

「シアちゃん、あなた、すごかったのね・・・。ゴメンナサイ、私では、何もできなかったわ」

 メルビレアがしおらしくなっている。仕方がない。鎧相手では物理攻撃はほとんど効果が無かった。

「ん。気にしない。鎧だったから、相性の問題」

 その言葉に彼女はうっすらと笑った。

「ありがとう。シアちゃん、・・・戦闘、本当にすごかったわ」

「ん。」


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