学園は夏休み6
「あらためて、おかえり。旅は無事にすんだようだね」
「ん。楽しかった」
「そうか」
ゲリウスはメイドが二人分のお茶を入れてくれるのを待って話始めた。
「・・・ルデリウス神聖国の話は聞いたか?」
「ん。崩壊したって」
「そうだ。原因はわからないが、ルデリウスの首都はなくなったそうだ。そのせいで国としての機能をなくし、今ルデリウスから他国へ人が流入してきている」
住み慣れた土地を捨てるっていうのはすごいことだな。支配階級がいなくなっただけなら新しい支配者を待てばいいだけだと思えるけど。
「あの国は宗教によって成り立っていた所がある。首都はその宗教の総本部ともいえる大神殿のある場所だった。大神殿とそこにある御神体、そして大神官、大聖女を一挙に失ってしまったのだ。立て直そうともできないのだよ」
失ったものが大きかったのか。それだけのものがもどるのにどれほどの時間がかかるか・・・立て直せるまでに人の心が繋ぎ止められているかも怪しい。
実質、宗教国家としてのルデリウス神聖国は滅んだということか。
「そのため、ルデリウスからの移民申請が多い。ルデリウスとはかなり領地が遠いグラスマイヤー領でもこのありさまだ。近くの領主たちの苦労は計り知れんよ」
なるほど、ゲリウスのおっさんが疲れているのはそのせいか。
「お疲れ様」
「ああ、うん。いや、それだけでもなかった」
何だろう?。
「シア、君がどこに行っているか、議会で聞かれたのもある」
議会というと、この国の中枢機関か。
シアを、というと、”魔族”とかかわりがあるからだろうか。
「今回のルデリウス消失の事件に、魔族がかかわっているのではないかという話になってね。・・・国境を越えるまで部下の魔獣使いに見守らせていたので疑いは免れたが・・・」
見守りっていいなぁ。通報案件だと思うけどね!
「・・・そのことで、少し聞きたいことがある。あの事件の少し前にも魔物が活性化する様子があったんだが、何か知らないか?」
活性化?前にっていうと・・・学園に出たくらげくらいしか思い当たらないが。
「くらげ?」
「それもかもしれないな。他には思い当たらないか?」
「・・・・・・わからない」
ゲリウスは、そうか、とため息をつく。
「・・・『魔王』が生まれているのではないかと議論になったよ」
「・・・・・・」
いや、とっくに生まれているようだが。
「『魔王』は高い戦闘能力と、高い統率力を持つ。産まれれば魔物が活性化したり、組織的な動きを見せるのでこちらでも気が付くのだが。今回その兆候があったうえに、この事件だ。おそらく生まれていると考えて行動してくれと言われた」
そうなると”魔族”の血が流れているシアは生活が厳しくなりそうだな。常時監禁されるとは言わないまでも、似たようなことにはなりそうな気がする。
「しばらくは国境付近の強化もすすめなくてはならないし、領内の魔族の動きも警戒しなくてはいけないし、そうなると私はここを離れて領地にいかなくてはいけなくなる」
おお!
突然の朗報。
お仕事ごくろうさまです!
「・・・シアだけをここに残すのは不安がある。もし本当に『魔王』が生まれたなら、魔族が混じった君はここにいては危険だ。・・・いっしょにグラスマイヤー領に帰らないか?」
危険と言うのは、今後戦争になる場合を見据えてのことだろう。
歴史のとおりなら、『魔王』が生まれたなら遠からず人族と戦争を起こすだろう。止めるには『魔王』を倒すしかない。・・・殺すしかない。
そして魔王は・・・高い戦闘能力や、高い統率力を持っている。
シアのように。
人は考えるだろう。きっと。
もしかすると――”シア”を殺せば戦争を止められるのではないか、と。
シアがミルゲリウスの仕事部屋を出る時、ふと横壁に掛けられた魔物の生息数を管理するボードに気が付いた。
「・・・・・・ん?、変わってる」
「あぁ、夏の間にいくつか変更してある。討伐を行った魔物や、集落が移動した所なんかも変わったところはあるぞ」
「・・・ふぅん・・・」
シアの隣でゲリウスが灰色の顎髭なぜながらボードを見ていた。
「・・・・・・そうか、集落・・・新しい村を開墾させればいいのか・・・。だが、そのためにはやはり拠点となる集落がなければ・・・」
何の話だ?
「ルデリウス神聖国からの流民のことだ。今の町村には彼らを受け入れられるだけの土壌がない。家を与え、職を与え、食料を与える。そらができるのは一握りの人数でしかない。けれど、移動集落ならどうだ?、彼らの知恵を借りれば、少なくとも家の数をそろえることはできる」
移動集落は移動するために、家を簡単な作りで持ち運んでいる。場合によっては移動先で資材を調達して補強している。
その知識を借りて流民を受け入れられないかと考えているのだ。
職と食材は・・・冒険者と討伐で手に入れた魔物の肉でなんとかするのか。
なんとかならなくもないが、ふうむ。
「・・・ある。」
何が?
「家。ある。」
「家?、何のことだ」
シアは地図を南西方向へなぞる。だがその指はボードの外へ出て行ってしまう。そっちは魔族領の海がある・・・そうか
「前に、お嬢様と制圧したダンジョン」
”建物型”のダンジョン
建物というが、町が一つ丸ごとダンジョンになったモノだった。
街には大通りも商店街も小川も家も、町にあるものは一通りそろっていた。
アレと同じようなモノがこの国にもあれば・・・。
流民の行き場は確保できることになる。
「なるほど、ダンジョンを居住可能領域にするということか。・・・冒険者組合をあたってみよう」
「ん。」
ゲリウスは颯爽と部屋を出て行く。疲れているだろうに、仕事熱心なことだ。しかし、ああして真面目に仕事をしていれば、なかなかの男なんだけどな。
なぜ変態に育ってしまったのか・・・。
「・・・・・・」
ん?、どうしたシア。
「・・・キノセイ、たぶん。」
?、そうか。
生態数のボードを見て眉根を寄せていたようだったが、まぁいいか。
ダンジョンを生活空間に変えるなら、もしかするとオレたちの出番もあるかもな。




