学園は夏休み5
今年の夏はゆっくり過ぎていった。
三人であちこち食べ歩いたり、観光したり、たまにお嬢様と二人でダンジョンを潜ったり。夜は宿題をこなすかたわら、アンナに文字を教えたりもした。
夏休みの終盤になってお嬢様と別れる時がやってきた。
シアはお嬢様に進言した。
「お嬢様。・・・シアとパパ以外の、配下を作って。」
そうか、あと4年半はシアはお嬢様といっしょにいられない。何かあっても駆けつけることができない。
心配なのだ。
お嬢様が大好きだから、危険なことになんてなってほしくない。そのためには、お嬢様についていてくれる配下が必要だった。
守ってくれる、頼りになる、少なくとも背中を預けられる、そういう仲間がお嬢様には必要なのだと。
「・・・・・・考えておきます」
お嬢様はそう答えた。
「・・・・・・パパ、お嬢様は見つけるかな」
見つけても・・・いいのか?
オレは今のシアたちのままでもいいと思ってる。
今までみたいな仲のいい、まるで姉妹みたいなシアたちの姿を見るのが、オレは好きだけどな。
「・・・・・・」
そうか。嫌か。
なら、きっと大丈夫だ。
お嬢様はお前の気持ちをわかってくれる。
きっと次会う時はすごい配下をゲットしてくれてるさ
「・・・・・・ん。」
馬車はすすみ、魔族領を再び後にする。
護衛の人に守られながら再び人間領にもどってきた。
「げへへへへへへへへぇ、金目のもんおいてけやぁ!」
おおお?
おおっ、これが山賊なのか!
シア、見てみろよ、こんな見事な山賊ルックな服装と装備をした山賊がいるか?すげー、本物やー
「ん?、どれ」
だからあれ。
・・・おや?
「お嬢様、賊はすべて捕縛いたしましたが、どうしましょうか。近くの警備隊まで連れて行くとなると少し遠回りになりますが・・・」
瞬く間に山賊どもは護衛の兵士たちに縛り上げられていた。
よわっ
・・・まぁ、仕方ない。兵士たちは魔物や他国の兵隊を仮想敵として訓練に励んでいるのだ。たかが10人程度の山賊なんぞ箸にも棒にもかからず制圧できてしまうことだろう。
「・・・他の、選択肢は?」
そう聞かれた護衛隊長は少し言いよどんだ後、答えてくれた。
「このまま逃がすこともできますし、罪人として扱うのであれば腕の一つや二つ折ってしまうのも有りですし。・・・余罪がありそうであれば、今後のことを考えて殺してしまうのも領地を守ることにつながりますね」
そうね。山賊といってもいろいろだよな。人を殺さず持ち物だけを奪う者、人は殺さないが、女子供をさらい奴隷として売り払う者、人を殺しすべて奪う者。
その罪科によって罰はかわるのだろうが、こんなとこで出会った山賊をいちいち取り調べたりはしないだろう。
ちなみに警備隊に突き出した場合はどうなる?
シアに聞いてもらった。
「被害届が出ているようならその5倍程度の罰を与えます。出ていないようであれば兵役1年を科されますね」
一年後に放免か。より強くなった山賊が出来あがる気がするけど・・・。兵役に魅力を感じて兵士になる山賊がいればいいってことかね。
何にせよ、オレたちが裁くのも違う気がするよなぁ。寄り道になるが、突き出すことにするか?。
「ん。」
シアと相談して山賊のあつかいを決定するが、件の山賊が盛大に嫌がっていた。
「いやじゃああぁぁあっ、死にたくない、死にたくないんじゃぁ!」
「ちくしょおっ、何でこんなことになったんだよっ、もうどこにもオレたちの居場所なんてないんだぁっ」
「じゅりあ、あとむ、父ちゃんも今から行くからなっ」
「殺すならオレから殺んじょじゃああっ」
殺すとは言っていないのだけど。護衛隊長の話を聞いて、勝手に殺されるものだと考えたらしい。
この暑苦しい山賊を止めるにはどうすればいいか・・・
「殺す?」
しないが。
「ぴぎゃあああああっ」
「あびゃあああああっ」
「ぎょぎぇえええええっ」
ほらー。シアがそんなこと言うからー。
山賊はおしっこちびりながらガタガタと震えていた。
ううん・・・これ本当に山賊なのか?、もっと肝が据わっていそうなイメージなんだけど。
「・・・・・・わかった。半分を助けよう。何があって山賊をはじめたか、理由によって私が選ぶ」
ピタリと山賊どもの叫び声が止まる。
こうして警備隊までの道中、シアは静かに山賊達の話を聞いたのだった。
全員を引き渡し、警備の兵隊からお礼を言われて帰ってきた。
今度こそ学園に戻るための道中、さっき聞いた話のあれこれを確認していた。
――ルデリウス神聖国の崩壊
首都アルキーナとその周辺都市が夏の初めのころに起きた災禍によって消滅した。
支配階級の消失。国としての機能は停止し、人の心は荒れ、争い、家族を亡くした悲しみと、明日のわからぬ絶望を背負いながら隣国へと逃げのびてきたという話だった。
しかしここ、グラッテン王国では、まだ人々の支援が始まっていない。
突然のルデリウス神聖国の消失に事実確認をはじめたばかりである。
そして助けが得られなかった人はどうするか?。
生きるために、人から奪うしかなかったのだ。
慣れない山賊稼業に気が大きくなっていたのと、後ろめたさもあり、持っていない者たちから奪うよりも、金持ちから奪った方が困る人もいないのではないか?。
そんな意見が交わされた後、ちょうど金持ちそうな馬車が彼らの目の前を通り過ぎようとしたのだ。
これはもう襲うっきゃないな☆
・・・・・・
まぁ、自暴自棄になりすぎると碌なことにならない。
こうして彼らは牢屋へと入れられてしまったのであった。
あとは司法がなんとかしてくれるだろう。酌量の余地もあるし、そんなに重い罰は与えられないことを祈ろう。
しかし・・・国の崩壊か。
きっとあの日の光の柱だ。あの夜のこと、ずっと遠くでおきた、たった10分の不思議な光景。
あの時、あの光の下で、たくさんの命が消えた。
考えると恐ろしいな・・・。
首都グラッテリアに帰る道中にも、荷馬車に家財道具を積んで移動するルデリウスの民を見た。
みんな一様に暗い顔をしている。
あの人たちは頼ることができる親族とかいるのだろうか。助けてくれる誰かがいればいいなと思う。
グラッテリアの城壁の外にも、中に入れずに座ってうずくまっている人たちがいる。
「・・・外で暮らせばいいのに」
シアやレイウッドたちじゃあるまいし、そうそうそんなことはできないよ。
「ふーん・・・」
門から中に入り、屋敷へと帰ってきた。
いつもなら一番に出迎えにきそうな養父ミルゲリウスだが、御者や護衛の人たちに別れを言った後、屋敷の階段から降りてきたのを見つけた。
「お帰りシア。アンナもごくろうだった」
「ただいま」
「はい、ただいま帰りました」
ゲリウスは少しやせたように思う。なんか動きに精彩もないし、だいぶ疲れてる。
「?、どうしたの?」
シアはめずらしいゲリウスの様子に、階段の下まで小走りで移動する。
「シア、・・・心配してくれるのか」
目頭が熱くなったのか、片手で目元を押さえる。
ゲリウスの頬をキラリと光る何かが流れた。
くっ、このやろう・・・オレのシアから心配されやがって。
「・・・・・・・きも・・・」
ゲリウスはゴホンと咳をして、ここで話もなんだから仕事部屋にきなさい、と言った。




