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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人間領
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学園は夏休み4 星くじら


 星くじらを見に行きましょう

 そう、お嬢様が言った。



 登山家の朝は早い。

 暗いうちに宿を出て山頂を目指しつつ熊・鹿・イノシシ型のモンスターを蹴散らして行く。

 途中の景色のよい場所で持ってきたお弁当を食べる。

「はれて良かったですね」

「そうね、これなら見れそうね」

 星くじらは宇宙を泳ぐくじららしく、一年に数日だけこの土地に降りてきて再び宇宙に飛び立つのだという。


 宇宙て・・・

 宇宙にも魔物がいるのか・・・

 いつか行けるなら行ってみたいな。宇宙。

 そんな名物くじらを見にいこうと、自分たちの他にも登山をしている人たちがいた。

 個人だったり団体さんだったり、山頂に近づいてくると割と人が増えてきた。


「・・・屋台」

 山頂付近には何軒かの屋台も立っている。焼き鳥、お汁粉、じゃがバター。星の砂なんていうアクセサリーも売っている。

 どうやら飛行能力のある魔族が物資輸送してきているようだった。

 そうか・・・空を飛べばすぐなのか。

 山頂より少し下の傾斜の緩い場所に、人を乗せてきたと思われるグリフォンや竜のような生き物が待機していた。

 苦労して山を登らないでも、空を飛んでくる方法もあるのだ。

 ・・・お弁当、おいしかったからいいけど。


 夏とはいえ、山頂はさすがに肌寒く、いくつかある焚火のグループに混ぜてもらった。

 買ってもらったお汁粉を飲みつつお嬢様といろいろなことを話す。あちらの学園のこととか、人間の貴族の生活とか。

 アンナは疲れて寝てしまったので、シアがひざを貸して横にさせていた。


 日がゆっくりと沈み、星の輝きが鮮明になってくるころ、音が聞こえてきた。

「アンナ、アンナ。くじらが来たみたい」

 シアに揺すられてアンナがもにゅもにゅしながら目を覚ます。

 空に小さな白い点がいくつも現れだす。星のように見えていた点が、ゆらゆら大きくなってくることで星ではないことを主張してきたのだ。

「・・・・・・くらげ」

 ちょっと似てるな。

 ゆっくり近づいてくる様子は確かにそんな感じか。あのくらげも空中に浮いていたしなぁ。もしかすると宇宙を浮遊できるくらげだったのかもしれない。

 7匹のくじらがゆっくりと、水中を泳ぐように空を泳いでいる。


 だんだんと近づいてくると、その姿の巨大さがわかってきた。

 全長500メートルはあるだろう個体が4匹。300メートルくらいのが3匹。山の周りをくるくると回り始めた。

 圧倒的な巨体でありながら、流線形の流れるような美しさを持った体で大きく弧を描いてオレたちの周りをまわっている。


 美しいと思った。

 夜空の中でもその白い姿は輝きを失わないくらい美しかった。

 一匹のくじらが潮を吹いた。

 キラキラと、花火のように空から流れてゆく。

 また一匹。

 他の一匹も潮を吹く。

 見学者たちは傘やフードをかぶりはじめた。

「・・・・・・しまったわ」

 雨除けのものを持ってきていなかった。

 お嬢様はカバンを頭の上にかかげた。

 シアは自分のつけていたマントを自分とアンナの頭のうえに広げた。


 ざー・・・

 と、通り雨のような潮が降って来る。

 くじらが楽しそうに鳴いていた。どうやら見学者たちのことをわかっていて笑っているようだ。

 潮の雨が降ってしばらくして、今度は山が輝きだした。

 山の峰に小さな青白い花が咲き始めたのだ。


 くじらの潮は魔力を含んでいるらしい。その潮を浴びて咲く花があり、花から取れる綿毛のついた種を、くじらは宙のどこかえへ運んでゆくのだと言う。

 そんなことを焚火を囲んでいる人が教えてくれた。


 今日はまだ綿毛にはならない。

 もう何日か潮を与えて花を育てるのだそうだ。

 間をおいて潮を吹きながらくるくると辺りを周り、2時間ほどしたころ、くじらたちは再び空へと昇って行く。

 次に来るのは明日の夜らしい。

 小さくなってゆく姿を見送る。

 幻想的な光景だった。

「すごかった」

「美しかったわね」

「はぁー・・・」

 感無量、といった感じだ。

 その時、誰かが空を指さした。

 上ではない。横。


 地平線のある方に。あたりから疑問の声が聞こえてくる。

「何だあれ?」「北だ。人の領域の方角だ」「あっちは・・・イズワルド王国かルデリウス神聖国か?」

 指差された方、地平線の、もしかするとさらに先かもしれない。すごく遠くの空に光の柱が見える。

 雲を突き抜け、空に一直線に伸びる柱だ。時折稲妻のような光が柱から漏れる。

「何かしら・・・」

 魔術。それも超大規模の。あれだけの物を作り出すなら上級魔術よりもさらに上のものだろう。

 何が起こってるんだ・・・。

 その光の柱は10分ほども続いたろうか。ゆっくり小さくなり、消えた。


 空が静かになっていた。

 いや、音なんて聞こえていない。けれどもそうとしか思えなかった。

 ただ、青白く咲く花だけが今も揺れていた。



 次の日、みんなで山を下りた。

 何日もキャンプできるほどの荷物は持ってきていない。

「くじら、すごかったですね~」

「ん。きれいだった」

「またいつか見にきましょう」

 そうだね。今度は空を飛んでショートカットして来よう。

 いくらかかるのかわからないが、今度は空を飛んでみたい。

 きっと。またいつか来よう。


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