学園は夏休み1
夏休みに入り、シアはさっそく魔族領のお嬢様の所へ帰るつもりだった。
しかし義理の娘といっしょにいれる時間を何より愛してやまない変態が一人いた。
義父のミルゲリウス・グラスマイヤーである。
彼はこう言うのだ。
「子爵の一員になったというのならば、領土を見て、領民の生活を見て、魔物の生息数を管理し、ダンジョンの様子を知ることも、貴族としての大事な役割の一つだ。このすべてをやってくれとは言わない。一つでいい。選んでくれ。その一つだけを一週間かけて君に教えよう」
なかなかにうまい言い分である。
だが素直にのってやる必要もない。5日間なら、ということで話がついた。
シアが選んだのは”魔物の生息数の管理”だった。
子供のころ育てられて以後、リザードマンを見た覚えがない。
会ったことがないだけで、この地域にどれくらいリザードマンが生息しているのか気になったのだ。
生息数の管理はもっぱらデスクワークのみの仕事だった。
実際にどれくらいいるのかは兵士や市町村を治める男爵らの仕事で、子爵はそこから上がってきた情報を整理して全体として把握するのが仕事である。
あと魔物による事故件数の把握もだ。
生息数の書かれたマップに事故の起こった場所を重ね、兵士を派遣するか、冒険者組合に情報を回すか検討するのだ。
事故件数が多いのはもっぱらゴブリンの集落がある辺りが多かった。やつらは獰猛だ。同じモンスターでも種族が違えば襲ってくる。
意外に事故がすくないなと思ったのはオークだ。聞くと彼らは戦士としての風格があり、強い者と戦うのを好む性質があるらしい。
リザードマンも事故は少ない。まぁ、この国は岩が多くリザードマンが住むにはあまり適していない地域だから、生息数自体かなり少ないのだが、リザードマンもオークと同じで戦士の気質を持っている。
あとは”竜”の生息地もあった。グラスマイヤーの管理する領地の端、山が連なっている場所に竜が住む場所がある。
火竜。そして地竜。
生息数は10から20だったが、確かに竜が生息しているらしい。
ぜひとも一度は見てみたいところだ。
数で言うと多いのは鶏、豚、次いで牛のモンスター・・・うん。モンスターというよりも家畜だね。
食料の管理になるのでいっしょにここで飼育数を管理しているらしい。
そういったことをいろいろ真横から暑苦しいくらいピッタリ椅子を寄せてくるゲリウスのおっさんに教わるのだった。新手の拷問かな。
・・・・・・んむ?シアの何かが上がった。
魅了耐性が1増えとる。
セクハラは魅了攻撃なのかよ・・・・・・パパとしてはこれで耐性上がっても喜べないんだが・・・。
そんなパパのやきもきを横に、シアは仕事を進めてゆく。
シアが報告書をめくり、ひとつずつ生息数の変更がないかなどを見て行く。
その手が止まった。
「どうした?。あぁ、人が住み着いた場所があるのか」
グラスマイヤー領の南東の方。
川と川に挟まれた場所に、新たに集落のようなものができているという報告だった。
・・・・・・完全に同胞達の隠れ家です。
そうね。彼らは空から魔物を使って土地を管理されているなんて知らなかったからね。空への警戒は完全にしてなかったね。
魔族のスパイでは?みたいなことは書かれてなかったが、一度人を派遣した方が良いかもしれない、とは書かれていた。
こんなところに住むのは犯罪を犯した逃亡犯の可能性もある。山賊化されてもやっかいなので誰か様子を見に行かせてほしいということだ。
やべーな。
隠れられてないじゃんか。
これは速急に彼らに知らせに行かないと。
「ふむ、その書類は横に置いといてくれ。人をやってから判断しよう。それに、少数らしいからすでに別の場所へ移動していることも考えられる」
シアはそれに従って横に書類を置く。オレに目配せをした後、仕事にもどるのだった。
今のうちに対策を考えて置けということだ。
対策はない。
ゲリウスの買収や書類の破棄など思いつくこともあったが、デメリットの方が多くなりそうなのでやめた。
単純に、足で知らせにいくしかない。
が、しかし、旅の支度を始めるころに、ゲリウスが貴族の旅事情に助言という名の足枷をプレゼントしてくれたのだ。
貴族の旅には必ず従者が付く。一人旅などありえない。
・・・・・・そりゃそうだ。国の重要人物なのだ。護衛や召使がいっしょに来るのが当然だろう。
専属メイドのアンナもくるつもりのようで、日程や持っていく物の相談をよくされる。
どうしよう。
シアとも相談したが、レイウッドたちに知らせに行くのは結論としてはやっぱり無理ということになった。
同胞たちも人が来た時の対処のしかたくらい検討しているだろう。
まずいと思えば逃げていくはずだ。
旅の途中に教えに行ける機会があれば行きたいところだが、アンナを放り出していくのは気が引ける。
一応学園内でヒュリオではないかと推測中のヒュリアリアを探してみたが、彼女はみつからなかった。
お手上げである。
こうしてあきらめざるをえなかったのだ。
今後のために召喚術・・・ほしいね。
覚えようとして覚えられる魔術だとはあまり思えないが、一応ほしいスキルリストに入れておくことにした。
「ではアンナよ、シアの世話をよろしくたのむぞ」
「はいっ、おまかせください。いってまいりますっ」
気合十分なアンナと共に首都にあるグラスマイヤー屋敷を後にする。
護衛は8人ついた。
最初12人つけてこようとしたのを減らさせた結果だ。
それでもまだ多い。まぁ、魔族領まで行って帰ってくることを考えると少ないのかもしれないが。
アンナはあまり旅をしたことがないらしく、窓の外を楽しそうに見ている。たまにシアに見つけた物を報告してくれたりする。
アンナはシアが好きだ。
最初に部屋の外からのぞいていたころから嫌ってはいなかったようだが、今は大好きなお姉ちゃん、くらいの好きっぷりだった。
シアもアンナを好いている。ちょくちょくかまってやってるのを見ると、人間を全滅させようと言ったころから大分変わったと思う。
変わっていないのはオレくらいか。
旅は順調だった。
途中途中の宿場町で宿を取りながら、国境に到着する。
ここを超えるのに半年か。
だいぶ長くかかってしまった。
少しの確認作業の後、国境を越えた。
魔族領である。




