学園10
<穴掘り名人>とは、過去に大飢饉を救った者の称号らしい。
干ばつによる飢饉の時、地下深くから湧き水を掘り当てたのだという。
さて、一学期が半ばをすぎ、陽気が一気に熱くなってきたころ、授業内容に毛色の変わったものが追加された。
”水泳”の授業である。
この国はあまり海に接しておらず、水泳なんて習っても泳ぐ機会があまりないように思う。
けれど違うのだ。
貴族は機会のある無しではない。やる・やらないの二択しかなかった。
なので、一般人よりもあきらかに水の中を泳ぐ機会が多いのだ。
オレは今、女子更衣室の中にいる。
女生徒がワイワイキャイキャイと着替える中、シアのすぐ近くの壁に立てかけられ――目隠しをされていた。
そうね。
うん。
というわけで女生徒たちの会話だけがオレの聴覚器官に届いていた。
「シエストリーネ様、新しい新作水着を作ってもらったのですわね、今度のはどなたのですか?」
「ああ~ら、お気づきになられまして?、こちらはサンジェロアのリオール様が仕立てられた品ですわ。なんでも植物モンスターの繊維が編みこまれて、水をよく吸う水着らしいですわ」
「すごいですわ。あのリオール様のですのねっ」
「新機能ですわねっ」
水着の品評会が起きていた。目隠しされているとどんな水着かわからないなぁ
早くとってほしいなー
「・・・・・・」
シアはオレを持ち上げ、そのまま更衣室を出た。
外は陽光がいっそうまぶしい。
目隠し越しでもそれがわかるくらい、さんさんと輝いていた。
「・・・・・・ん?」
シアの足が止まる。どうした?
「はぁっ?、これはいったい何ですのっ!?」
後ろからシエストリーネの絶叫が聞こえる。
シアにオレの刃に結ばれた目隠しをとってもらい、眩しさに目を細めつつ光に目がなれてくると、見えてくるものがあった。
「そっち行ったぞ!」
「すばしっこいな!よけられた!」
「だれかデッキブラシ持ってきてくれ!」
男子生徒たちが透明ですばしっこい何かを追いかけていた。
それはスライムだった。
転がり、跳ね、ところかまわず粘着する。
透明で一抱えもあるスライムが、プールから無数に現れていた。
「《雷光》!」
「ぴぎゃっ」
シエストリーネの魔法で男子生徒とスライムが感電し、動きを止める。
たった一発の魔術で動くものはいなくなった。
すごいな。これが光の中級魔術か。
ピクピクと痙攣しながら泡を吹いている生徒の間を抜け、シエストリーネがいっしょに倒れていた教師を蹴飛ばす。
「先生、これはどういうことですの?。だれかのイタズラなのかしら?」
応えられない教師の代わりに、なんとか動けるようになった男子の一人が答える。
「ちちちがう、み、水をを足そうとと、したら、わいててきたんだ」
「水を・・・?」
プールに水を入れるのは水道だ。太めの銅管から湧き水を組み上げているらしい。
ということは、地下か?
地下水に何か入り込んだのだろう。もしかすると地下水がダンジョンとつながってしまったのかもしれない。
「水・・・まだ貯まりきってないですわね」
プールには半分ほどの水しか貯まっていなかった。風呂より少し深い程度。これじゃ泳ぐことなんてできない。
「シエストリーネ様、今日の授業はどうなってしまいますの?」
シエストリーネの取り巻きが彼女に声をかける。
けれど彼女も答えられなかった。
「シエストリーネ様、そ、そういえば、ここの下・・・、地下に湖があると聞いたことがありますわ」
「湖・・・」
シエストリーネは考える。
この程度のスライムなら自分一人でも処理できるのではないか、と。
最近何かと自分の株の下がることばかり起きている。
無視するように仕向けたはずの生徒たちは自分のルールを破り、影であの少女に話しかけるようになった。
あの少女に目にもの見せてやろうと画策した決闘では、こちらが大恥をかかせられてしまった。
ここらで自分の価値を今一度知らしめる必要があるのではないか?
プールは楽しみにしている生徒も多い。
魔法でちょちょいと解決してみせれば自分の評判は取り戻せるだろう。
そんな風に考えたのだろう。
「・・・・・・よし、地底湖を見に行きますわよ」




