学園8 シエストリーネ
さて、しばらく病気療養していたシエストリーネだが、実はしばらく前に学園に復帰していた。
が、彼女はシアとイオの仲を誤解したままだった。
そして・・・二人の仲を引き裂くべく、決定的な作戦を持って、学園に戻ってきたのだった。
ある選択授業の時間。
シアは別教室に移動するとき、教師から荷物持ちの手伝いを頼まれる。その日はシアが日直の日だったのでしかたなく、次の授業の荷物と先生の言う資料を持って教室から出て行ってしまった。
―――そう、シアはオレを教室の掃除用具入れの中に置いたまま、外に行ってしまったのである。
まるでそうなるように仕向けられたかのように。
画策したのはもちろん、シエストリーネだった。
彼女はシアが帰ってこないのを確認すると、掃除用具入れを開け、オレを取り出した。
両手でオレを掴みながら、ニヤリと邪悪に笑う王女。それに付き従う幾人かの生徒たち。
シエストリーネが合図をすると、その中の一人が制服のポケットから小さな薬入れを取り出し、ふたを開けた。
シエストリーネは手袋をつけ、その薬品をオレの柄にまんべんなく塗ってゆく。
ぬりぬり ぬりぬり
「くふふ、これで準備は整いましたわね。私のお気に入りに手を出せばどうなるのか、わからせてさしあげますわ」
うむ。良い悪役っぷりである。
シエストリーネは満足そうにオレを掃除用具入れに戻し、扉を閉めた。
彼女は知らない。
その武器が見ていたことを。
意思を持っていたことを。
いくらシアといえども何も知らなければシエストリーネのワナにかかっていたかもしれない。
けれど武器は知ってしまった。オレは知ってしまった。
シエストリーネのワナは、機能する前に破られていたのである。
「ん。受ける」
シアがシエストリーネの決闘の申し込みを受けたのは、選択授業から帰ってきてすぐの3時間目の後だった。
「ふんっ、いいですわよ。では武器は一本だけ、近接武器のみで、攻撃魔術はなし、勝者は敗者に服従することですわよっ」
「ん。」
互いの了承で”決闘”の合意がなされ、クラスの風紀委員のイオがしぶしぶと判定役を申し出た。
シエストリーネは靴音を高くして教室から出て行く。怒っているように見えるが、きっと彼女の内心はうれしさでいっぱいだろう。
シアは掃除用具入れからオレを取り出そうとする。が、オレが待ったをかける。
シエストリーネのたくらみ、そして塗られたワナ。手袋をしてオレを持つか、雑巾か何かで拭ってから持ってくれということを伝える。
「・・・・・・」
・・・・・・シアが怒っていた。
自分のパパを知らぬ間に好き放題されたのだ。
怒らない方がおかしい。
シアは持っていたハンカチでオレを拭き、素手でつかんで用具入れから取り出した。
おいシア、ワナが
「平気。《異常消去》がある」
まぁ、あるな。けれど無効じゃないんだから気をつけろよ
「ん。」
シエストリーネとシアは校舎の外、中庭で対峙していた。授業の合間の休憩時間と言う短い間だが、多くのやじ馬が集まってきていた。
今学園で一番身分が高く、有名な第二王女と、今学年で一番の美少女(親目線)とウワサされる謎の多い少女シア。この対戦札は絶対に見逃せない、レアなものだった。
二人の対決にはどんな原因があったのか、戦いが始まるまで、やじ馬たちはそのことをああでもない、こうでもないと談義しまくっていた。
・・・いくつか核心をついてる話があるが、というか、大分核心をつかれた話が広がっているが、しかたない。
シアとイオ君が仲良くなりだしてから、シエストリーネのご機嫌が悪化していたのだから。
さて、そのイオが決闘の開始を宣言する。
両者はすぐには動かなかった。
魔法タイプのシエストリーネは慣れない剣を持っての戦いだからわかる。
けれどシアが責めないのはなぜか。それはおそらくシエストリーネの持つ武器のせいだ。
明らかに高価。明らかに魔道具。
その武器は材質自体が特殊金属であろうとわかるとともに、柄から刃の側面にかけて、5つの宝石が装飾されていた。あの宝石・・・おそらくは魔術の入った特殊輝石。
この一戦のために用意したのかはわからないが、財宝級の物品を持ち出して勝負に挑んできたのだ。
本気なのだ。
そのシエストリーネの本気を受けて、シアも本気で対峙していた。
「・・・・・・《異常消去》」
シアが《異常消去》を使った。
ハンカチで拭っただけではシエストリーネの塗った薬品は取り切れなかったようだ。シエストリーネの口元が笑った。
彼女は剣をこちらに向けて言い放った。
「《噴霧》!」
シエストリーネの魔術と共に、明らかに何らかの効果が乗った霧がシアを包み込む。
・・・異常状態を起こす霧を吹きかける。確かにこれは攻撃魔術ではない。ではないが、微妙なラインではないか?そもそも卑怯と言われそうな戦い方である。
「《異常消去》っ」
シアが異常を消去する。だが完全に元の状態にもどったわけではない。毒で減らされたHPが毒消しで回復しないように、異常で狂わされた体の機能は元に戻るまで時間がかかる。
時間をかければ不利になると考えたシアがシエストリーネに打ちかかった。
一撃目でシエストリーネは体勢を大きく崩してしまう。勝負あったか、と思いきや、崩れた体勢のまま、シアの連続攻撃を剣で防いでいく。
これは・・・自動迎撃機能?
そうとしか思えない動きだった。
あきらかに剣に振り回されている。
なのにシアの攻撃がシエストリーネに届くことはない。
スキルの《三段突き》を使えば届くかもしれないが・・・シエストリーネに大ケガを負わせてしまうかもしれない。
武器だけ狙ってスキルを使うか?
「んっ!」
シアは《三段突き》を発動させる。
シエストリーネの武器めがけて3連続の風の槍が――
シアの手から、オレがすっぽ抜けた。
シエストリーネは後ろ飛びで滑り飛んでくる槍を踏んづける。
そうか、塗った薬品はシアの手をしびれさせるものだったのか。《三段突き》は槍の制動がかなり難しく、高い握力を要求される。
今のシアではスキルを使えるほど、握力がもどっていなかったのだ。
シエストリーネはシアに剣を向け、勝ち誇ったように宣言した。
「くふふふふふっ、勝負ありましたかしらっ?。さぁそこに這いつくばって私に謝罪し――――」
スキル《風突》。上方向へ。突きに合わせた発動ではないから威力は弱い。だが・・・
彼女のスカートを完全にめくり上げるには十分な効果だった。
こうして一つの戦いが終わった。
結果は引き分け。
スカートを押さえながらへたり込んで泣き出した王女を、護衛達が連れて行ってしまい決闘が続けられなくなったためだ。
第二王女シエストリーネは再び病気療養で学園を休んでいる。
だが、彼女は伝説となった。
後に『純白の戦い』と呼ばれる名と共に。
オレはきれいに洗われた後、シアの手の届く範囲に置かれることになった。
同じ失敗をしないために。
できるかぎりの時間、ずっと――。




