学園5
お姫様がお休みになっている間も事件は起こる。
第二体育館で貴族同士の”決闘”がおこった。
貴族といってもまだ子供。喧嘩することだってある。
けれど貴族の喧嘩は家柄など絡み合い、面倒なことに発展する場合があった。
それを軽減するためのシステムが”決闘”だ。
剣を持った生徒が二人、体育館の中央で対峙している。
原因は片方がもう一方の故郷のことを馬鹿にしたのがきっかけらしい。
馬鹿にされた方が相手に決闘を申し立て、相手がそれを受けた。
そういうことらしい。
それを数人の風紀委員と、やじ馬たちが離れてみている。
風紀委員は止めないのか。
シアの視線に気づいたのか、副委員長が教えてくれる。
「・・・正式な手続きに基づいて行われた決闘は、止めることはできません。”決闘”という構造を造ったのは国ですから。法の下に許可された行為ということです」
あれは模造刀ではなく真剣だろう。死人が出てもいいってのか。
誰も止めないところを見ていると、もしかするとそれでもかまわない、ということだろう。
生死の価値よりも、貴族としての誇りを重んじるのだ。
オレたちにはさっぱりわからないことである。
ともあれ、そんな貴族同士のけんかが始まろうとしていた。
「・・・パパ、あれ」
シアがオレにそう言って槍の刃先を体育館の入り口に向けた。
ん・・・?、あぁ、赤い髪の女の子がいるな。
ヒュリアリアだっけ?今日は学園に来ていたのか。
「・・・ん。」
シアはやじ馬の列から離れ、赤髪の少女の方へと移動する。
途中で彼女もシアに気が付いたのか、何だろう?という顔をしている。
普通の少女だ。少し長めの髪を地味目なツインテールにしている、あまり戦闘タイプには見えない少女だ。
「・・・ヒュリアリア・M・アウグステン?」
「そうですが、あなたは確かクラスメイトの人ですよね。私に何か用ですか?」
「ん。聞きたいことがある。こっちへ」
「え・・・今じゃなきゃダメですか?」
ヒュリアリアは決闘を見ていたいようだ。
「ぬぐぐ・・・」
仕方ないのでシアはヒュリアリアの隣に移動して小声で話しだした。
「目玉のついている武器を、知ってるよね。このパパみたいなの。邪武器と呼ばれてる」
「・・・・・・いえ、わかりません。邪武器、ですか?」
オレにかかった布をちょっとめくり、刃先の中ほどをヒュリアリアに見せる。・・・しかし反応はいまひとつだった。
オレと視線があってちょっと驚いていた程度である。
「・・・レイウッドの言っていた”ヒュリオ”は、あなたじゃない?」
「はぁ・・・知らない名前ですよ?」
反応は芳しくない。
いくつかの符合点はあるが、彼女はシア達、亜人の同胞ではなく、同じような能力を持った別の人物と考えた方がいいのかもしれない。
もしくは、亜人ということを明かしたくないか、だ。
彼ヒュリオが使命に忠実に聖剣探しをしているのなら、ここでシアに身元をばらすのは得策ではない。
せっかくもぐりこんだ王国の貴族社会。それを捨ててまで同胞と再会を祝いたいとは思わないだろう。
「・・・・・・そう。わかった」
シアはあきらめたようだった。
まぁ、タイミングというか、場所が悪い。
もっと外堀を埋めるか、レイウッドのいた拠点で会ったときに改めて詳しい話をすればいいだろう。
ただし喧嘩はやめようね。
さて、そんな話をしている間にも貴族の喧嘩は佳境を迎えようとしていた。
一方がもう一方にひざをつかせていた。
剣で自分たちの意思を押し通す。
実にシアの好きそうな決着の付け方だ。
「ふうん・・・、面白かったですね」
あまり面白くなさそうにヒュリアリアがつぶやいた。
まぁ、戦いとしてみると対人戦になれてないのか、温い攻撃が多かったが。
うーん・・・。
やじ馬を風紀委員が散らしている。
いったい何のために委員がいたのかと思っていたが、そんな仕事をするためか。他にも勝負の裁定もしていたようだった。
裁定には興味がないらしく、シアに「それじゃ」と声をかけてヒュリアリアは行ってしまった。
なんというか、今の所普通の女子学生に見える。
あれでシアに次いで戦闘力が高いのである。つかみどころの無い相手だった。




