学園3 風紀委員会
ある日の放課後、下駄箱に一通の手紙が入れられていた。
『北校舎3階の地学室へ』
・・・・・・ラブレター・・・にしては簡素な。
いじめの標的にするにしても、もうちょっと何かあるんじゃないかと思う。
用事があるのでメモを置いておいた、くらいの内容である。
どうする、行ってみるか?
「ん。」
呼び出された通り北校舎の3階へ行く。このあたりは授業で使う科目用の教室が並んでいるところなので、放課後のこの時間に訪れる者はほとんどいない。
けれど・・・見られてるな。
階段ですれちがった一人、それに廊下に一人。偶然を装っているが、シアの姿を確認してから普通の生徒のふりをしたのを感じた。
「・・・・・・」
シアがオレを握る手で、警戒していくことを伝えてきた。
了解だ。ただし、何があっても殺さないようにな。
シアが地学室の部屋の扉に手をかけ開く。
中には5人の生徒がいた。
制服のカラーから三学年2人に一学年3人。
一年の1人は見覚えがある。同じクラスのイオ・S・ジェラルダスだ。
「……入ってくれ。これでそろったので話を始めさせてもらう」
地学室の教師席に座っている三年に促され、シアは教室に入る。
扉を閉めたことを確認した三年が話始める。
「我々は風紀委員会だ。私が風紀委員長のエイハム・ディオン、彼女が副委員長のミスティア・エレオノルンだ。風紀委員というものを知らない者もいるだろうから、そこから話そう」
そう言って三学年の二人は風紀委員とは何か、学園における地位や行使する権限の話を始めた。
仕事内容はオレの知っている風紀委員とほぼ同じである。ただファンタジー要素が加味されていた。規律を守るための『戦闘力』の許可である。
「君たち4人には風紀委員会に入ってほしい。この貴族色の強い学園で風紀を取り締まるのはかなり難しいことだろう。だが、その分メリットもある。上級騎士への推薦だ。・・・ほかにも、学園滞在時の武器の携帯を見咎められることも少なくなるだろう」
わー、まるで最後のだけ特定の誰かに向けられたかのようなセリフですね!
確かに外来で誰かの親御さんが視察に来たりってことが、今日までにもたまにあった。そこでシアが目に留まり、あの子供は何で槍を持ち歩いているんだね、なんてこともあったのだろう。
槍を持ち歩く言い訳として”風紀委員会”というのは、悪くない理由かもしれない。
というか、委員長の横の副委員長が『入らねば取り締まるぞ』という圧を向けてくる。三角眼鏡をクイクイ上げながらシアをにらんでいた。
「・・・・・・質問いいですか?、この人選の理由は戦闘力を考慮していると考えていいんですよね」
イオが質問する。
確かにシアとイオの共通点は戦闘能力の高さだろう。
まぁ共通点も何も、それぞれの家名の貴族としての立場がわからないのでそれくらいで判断するしかないが。
「そうだ。力を持つ者が規範を示さねばならん。同じく、力を持ってしまったものは自身を律するための規範を己に架さねばならん」
その規範を学ぶためにも風紀に入れるのだ、と委員長は言った。
風紀に入って自分の”力”の振るい方を学べ、ということだった。
「わかりました。が、ではなぜ彼女だけなのですか?。自分のクラスには彼女のほかに、もう一人戦闘能力の高い生徒がいます。その生徒は呼ばれていないのですね」
イオの言っているのはヒュリアリア・M・アウグステンのことだろう。イオはうちのクラスではシア、ヒュリアリアに次ぐ、3番目の戦闘能力の持ち主だ。
なのにここにはヒュリアリアがおらず、自分が呼ばれた。
なんで自分呼ばれたーん?2番目いないのに何でなーん?と、なるのはしかたない。
「単純に、信頼できそうか、という判断理由だ。風紀はその仕事ゆえに貴族の知られざる秘密を知りえることがある。場合によってはその秘密は死ぬまで口外してはならぬ場合もある。もし口外すればどうなるか、わかるか?」
「・・・はい」
「そうだ。ジェラルダス家の人間なら言わずともわかっているだろうが、ここでは言っておこう。それは口外した者の死だけではない。組織員全員の”死”につながるからだ」
王族の秘密を知ってしまった時、相手ならどうするか。知られちゃった、口封じしなきゃ。ではどこからどこまで?、端から端まで。風紀委員会全員を殺さなくちゃ。念には念を入れて、その親も、兄弟も、すべて殺しておこう。
――そういったことも起こりえる。
この委員長はそう言っている。そしてそうならないために、彼らは信頼できそうな生徒にしか勧誘を行わないのだと。
ヒュリアリアは委員長のお眼鏡にはかなわなかったらしい。
まぁ彼女は実際どんな人物かわからないこともある。
授業にあまり顔を出さないのだ。
シアも聞きたいことがあるのだが、彼女を捕まえられないでいた。
謎多き生徒である。
「そういうわけだ。だがあくまでも最悪の場合のことを言っただけで、普通はそんなことは起こりえない。どのみち君らが貴族社会で生きていくのならば、風紀委員を抜きにしてもそういった秘密を知りえることもあるだろう。遅いか早いかの差でしかないと思っておくのが、いいと言っておこう」
うそくさい。
まぁ、そう思っておけば疲れないよ!というせいいっぱいの忠告であるらしい。
風紀委員・・・やばいな。
オレだったらハゲそうな仕事だ。
でもシアはオレを学園内で持ち歩くなら、選択肢は決まっているようなものだけど。
「どうだろう。もちろん何かあったときは仲間が全力で君たちを守ろう。そうやって繋いできたつながりは、卒業していった者たちからも失われていない。”組織”として守る力があるので安心してくれていい」
委員長は最後に風紀委員会に入らないか?と言って、自分たちの返答を待った。
始めに返事をしたのはイオだった。
「・・・自分は、王家に忠誠を誓っています。風紀委員会の判断が王家の害になるようであれば、その時は協力できかねますが、それでよければ参加しましょう」
「かまわない。我々も国を脅かすつもりなどない。君の参加を歓迎しよう」
イオの参加に続いて、他の二人も参加を申し出る。
最後にシアだけが残った。
「・・・・・・シア・M・グラスマイヤー。君はどうするかね?」
「んー・・・」
返事に悩んでいた。
いや、参加していいんじゃないかな。とりあえずオレの持ち込みに関してガミガミ言われなくなるんだし、仕事なんて適当でもいいだろうしね。
そう。仕事なんて、適当でいいんです。
社会というのは10歳の子供に完璧なんて求めやしないのだ。
先輩についていってわからなければ「お任せします」でなんとか回るようにできているのである。
「・・・やってもいい。けど、ただじゃない」
おおう?
「・・・何か望むものがあるのか」
「安全の保障。わたしは、魔族のお嬢様の配下だから、完全にあなたたちの味方では、ない」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・は?」
交渉はみごとに決裂した。




