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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人間領
68/222

首都グラッテリア2


 グラスマイヤー邸は北区の中ほどにあった。貴族様のお屋敷が並ぶ一角である。

 ここから学園まではそこそこの距離があるのだが、通学は馬車で送り迎えされるらしい。ブルジョアめ

 屋敷は広い。いっしょに来た御者と一人のメイドが荷物を馬車から降ろし始めると、屋敷からも使用人たちがやってきて手伝い始めた。

 ゲリウスのおっさんはその中の一番年のいった執事っぽい人と話している。

 あれがおそらく筆頭執事とか執事長とかなのだろう。


 そういえばシアのメイド服、お嬢様の屋敷におきっぱなしだったなぁ・・・。今ではもう背丈が合わなくなってしまっただろうか。

 何もかもがなつかしい・・・


「お嬢様、お部屋にご案内いたします」

 20才くらいのメイドがシアの前を歩く。シアはそれに続き、その後を年若いメイドが荷物を持ってついてくる。

 屋敷に入って中央階段を通り過ぎ、裏の部屋のおおい場所にきた。

 小さな中庭があった。

 部屋をつなぐ通路に囲まれて少し薄暗いが、岩の間から湧き出る水とヤシの木みたいな葉が不思議な雰囲気を醸し出す場所だ。

 シアはそこで足をとめてしげしげと眺めている。


「・・・いかがいたしましたか?」

 先導していたメイドが聞いてくる。

「・・・・・・水?」

「そうですね。すこし温度が高いので飲用に向かないものです。・・・触れてみますか?」

「ん。」

 湧き水に近寄り、触れてみる。

「あったかい」

 ほーん。

 シアとオレは目配せをした。


 温泉。

 そう、温泉のことはシアに話してある。

 あちらの世界の娯楽の一つとして紹介してある。

 こちらの世界では、まだ温泉に出会っていない。フロはあったが人ひとりが腰までつかるていどのバスタブが主流であった。

 メイド時代に大きめの風呂でメイド達とイモ洗いのように体を洗ったのが、唯一大きな風呂に入った思い出である。

 この屋敷にはどうだろうか。大浴場はあるのか。追々探してみよう。


 案内された部屋は広かった。窓も大きくて景色がいい。すごくいい。

 ベッドも大きい。なんか半透明なカーテンとかかかってて豪華だし。

 お嬢様ってすげー

 まぁモルテイシアお嬢様のベッドも大きかった。シアと二人でねっころがってもまだスペースが余っていたから。

 どこでもお嬢様のベッドは大きいのかもしれない。

 何かあればお呼びください、とメイド達が部屋を退室していく。

 シアは旅衣装を着替え、室内用の衣装を着る。これはゲリウスの趣味だからしかたない。たぶん遠からず、この屋敷にも衣裳部屋が造られるだろう。


 ふと、扉の所から気配を感じた。

「・・・・・・」

 小さな娘がシアのことをポーっと眺めている。

 どうする?

「・・・・・・入って、きて」

「はっ、ひゃいっ」

 わたわたと、幼いメイドが部屋に入ってきた。齢は・・・シアより若いだろうか。7,8歳の少女だ。

「・・・誰?」

「あ、あのっ、アンナといいますっ。きょうからおじょう様のせんぞくめいどになりました、よ、よろしくおねがいしますっ」

 専属・・・配下のメイドみたいなものか。

 ちょっと若すぎるが、シアと齢の近いメイドを選んでくれたのかもしれない。

 ・・・・・・まぁ、突然降って湧いた”お嬢様”に嫌がらせの意味も込めて能力の低いメイドをあてがった可能性もあるが。

 メイド達からすればどこの山から拾ってきた山猿を、お嬢様と呼んで相手しなければいけないのか!みたいなこともあるだろう。

 子爵家につかえるメイドとなれば相応のプライドはあるだろうしね。


「あ、あの・・・お茶をいれましょうか・・・?」

「ん。お願い」

 アンナは一度ドアから退室し、お茶のセットを持ってくる。たどたどしい・・・。

 少し手つきが不安だが、やり方はわかっているらしく、ゆっくり丁寧にお茶をいれてくれる。

「ふぅ、できました」

 ニパッというかわいい笑顔でお茶が用意できたことを知らせてくれた。

「ん。」

 着替え終わったシアが腰を下ろし、お茶を飲もうとして手を止める。


「アンナ、ここに」

 シアはアンナを隣のイスに座るように促す。

「え?、い、いえ、すわれません、めいどはすわっちゃだめなんです」

「いい。アンナのことを、聞きたい」

 だから座れと言う。


 あー・・・なつかしい。似たやり取りをタウロン屋敷にいたころに見たことがある。

 シアはそのころ見た貴族の所作を参考に、貴族っぽくふるまうことにしたようだ。

「で、では、すわりますっ」

 アンナがちょこんとイスに座る。端っこの方。まだ恐る恐るといった感じか。

 シアはお茶セットに乗っていた予備のカップに慣れた手つきでお茶を注ぎ、アンナの前に置く。

「どうぞ」

「えええっ、ああああありがとう、ございますっ」


 貴族からお茶を入れてもらったことなどないだろう、アンナはすごく驚いていた。

 シア・・・アンナがかわいそうに見えてきたぞ

 これ以上こまらせてやるな。

「ふふっ」

「あわわわ」

 シアとアンナのお茶会が始まった。



 アンナはメイドとしての仕事はそれほどうまくない。

 拭き残し。掃き残しはあるし、シーツの替えもいま一つ。着替えや荷物の用意は時間がかかる。お茶をこぼしたこともあるしカップを割ることもあった。

 ただ、シアがそのあたりはフォローできた。


 メイド経験者である。サッと手直ししたり、スッと用意したり、食堂に顔を出して理由を言わずに代わりのカップを要求するのだ。

 主であるお嬢様が怒っていないのだから、他の使用人がアンナを怒ることはできない。

 少し困り顔の使用人たちを、シアは少し楽し気に見ていた。


 ちなみにそんな様子のシアを見てもっと楽し気にしている男がいるが、放っておこう。あれは病気の人だ。


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