故郷
その晩は簡単にだが、歓迎の宴が開かれた。
今日あったばかりのシアを仲間として受け入れてくれる。
あったかい場所。
シアはここに残るつもりはないようだけど、彼らの優しさは忘れないようにしたいと思う。
二日後、シアは拠点を出ることを伝え、彼らに別れを告げた。
「じゃ、行ってくる」
「おう。レイ、しっかりなー」「気を付けていってらっしゃい」「シアさんまたねー。今度来るときは魔族領のおみやげ持ってきてねー」
「ん。わかった」
みんなに見送られてレイウッドとシアは拠点を離れる。
「行きましょう。ここから二日ほどのところにあります」
「ん。」
レイウッドに案内されて目的地に走る。
レイウッドは早い。
彼は種族に『一角馬』が入っている。
一角馬――ユニコーン。
貞潔な乙女が好きな馬だが、それ以外にも高度な治癒能力で有名なレアモンスターだ。
シアが速度で負けるのもしかたない。
二人はあまり休憩を取らず、一日半を走り続けた。
土の感じが変わる。
踏み込む足音に水気が含まれてきた。
「――あそこです」
わかる。
オレでも見覚えのある湿地が広がっていた。
――あぁ、帰ってきた
応える物はいない。
岩場と岩場をつないでいた足場も。生活の営みがあった草で編んだ家々も。
何もなくなっていた。
燃やされ、雨季が来て雨で流されたのだろう。
6年か。
6年もかかってしまった。
何もないここに、確かにシアの家族がいた。
生きていた。
みんなが、生きていたんだ・・・。
シアは言葉もなく、集落だった場所の中央に立っている。
眼をつぶり、上を向いて。
涙は流れていなかった。
オレとレイウッドは、静かにそれを見ていた――
「・・・ありがとう」
「本当に、ここまででいいのかな」
「ん。」
大きめの街道が見えた辺りでレイウッドに別れを告げた。
「・・・わかった。それじゃ、元気で。またね」
「・・・はい。」
シアは街道をいかず、街道に沿った野山を進む。
「・・・・・・雪」
雪だな。
空からちらちらと白い物が降り始める。
空は曇り空で、白い雪のほかに黒っぽい鳥が一羽。遠くの方に飛んでいく。
シアは足を止めてそれを見送る。
あの鳥は、帰る場所があるのだろうか。
家族が、待っているのだろうか。
「・・・パパ」
どうした?
「パパ・・・私は、大丈夫。大丈夫、だよ」
・・・わかった。
うん。
よし。わかった。
オレもちょっと陰鬱な気分になってたかな。すまん。
「・・・パパ。帰ろう」
おう。
魔族領へ。
走り出すシアの目の前に、氷の壁が連なった。
「っ、!?」
降っていた雪が舞い上がる。シアの周りを騎馬に乗った兵士たちが囲み始める。
気付かなかった。雪に紛れて魔術を使われたのか・・・?。けれどまるで待ち伏せていたかのように用意がいいじゃないか。
兵士の数は20人ほど。すでに逃げ場はなくなっていた。
「・・・・・・」
この兵士たち、見覚えがある。
あの日の兵士だ。
リザードマンの集落を襲った、憎むべき相手・・・。
けれど復讐をしようとすることさえ、させてもらえそうにない。
「武器を捨てなさい。命までは取らないと約束しよう」
「・・・・・・」
シアは動かない。オレをかまえたまま、いつでも動けるように全身を緊張させている。
シア、だめだ。
これは勝てないぞ。今は武器を置いて従うしかない。
武器をおくんだ・・・シアっ!
「っ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん。」
シアは長い逡巡のあと、ゆっくりとオレや腰の短剣を地面に置いた。
すまん。
だけど、ここで抗えば最悪命はないかもしれない。
「・・・・・・枷を付けさせてもらうが、暴れるな。・・・捕えろ!」
号令に、兵士たち動き出した。




