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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人間領
61/222

シア 10歳


 シアに誕生日がきた。

 10歳だ。

 誕生祝いに、初めてお嬢様から祝いの品を送られた。

 牛乳が5リットル入ったミルク缶だった。


 あの人はこれをどうしろというのか・・・。

 飲めと?飲んで胸を大きくしろということだろうか。

 しかたない。シアの外見は7歳のころとあまりかわっていない。あのころ12歳くらいだったのが13歳くらいになった・・・気がする程度だ。そして成長していないように、胸にも変化はない。

 胸囲の成長は今後も期待できないと思ったほうがいい。

「ふうん」

 いや、成長しなくていいと思っている。あれはデッドウェイトだ。重しであって戦闘の足かせにしかならないものだ。だから決してプルンプルンの楽しみがないなどとがっかりすることもないのである。本当に。

「・・・いいけど」

 ふう。



 ミルク缶は部屋の片隅で箒やオレを入れる置物になっていた。

 季節は冬にさしかかる。

 シアは冬になると行きたい場所ができる。


 場所の特定に二年かかった。それでも正確な場所がわかったわけではない。たぶんこのへんだろうとあたりを付けられただけだ。


「シアさん、いってらっしゃい。・・・3学期には戻ってきますよね?」

「ん。その予定」

 荷物の入ったカバンを肩にかけ、きゅっと締める。

「けがには気を付けてくださいね」

「ん。・・・いってきます」

 ポステリアに出発の挨拶をして、背を向ける。


 片手にはずっと愛用している少し禍々しげな黒い槍を持ち、黒いマントを装備している。

 ほとんど全身が黒い。

 白いシャツと肌、そして右目の金色だけがはっきりと色を主張していた。


 学校の門を抜けて北に進路を取る。

 6郷市の城門を抜け、道なりに走ってゆく。

 自分の足で、一歩一歩。それがあの時に帰る、儀式のように。




 枯れ木の植生がかわった。

 乾いた土地に生えるものから、雨の多い土地に生える物へと木も草も変わってきていた。

 あれから5日。おそらく魔族領域から出て、人間の領域に入っている。

 この二つには境目がない。

 以前はもっと南の熱地との境目が領域の境だったが、魔族が今の土地を取ったまま休戦協定が結ばれたため、そのままらしい。

 領域をまたぐことにある程度の監視はあるが、ただの旅人程度なら見て見ぬふりだという。


 ようやく一つ目の目的地に着いた。大きめの湖。

 学校の人間族に話を聞いて、いくつか目星や目印としてチェックしていた場所の一つだ。

 流石に湖なので広い。


「あった・・・けど、違う」

 ここから川をさかのぼって行く予定だ。

 湖に流れ込む川は3本ある。

 どれが当たりかはわからないが、端から順に行ってみるしかないと思う。

「・・・ん。」


 遡上そじょうするのに三日かかり、もどってくるのに二日かかった。

 二つ目の川を遡上する。一本目の川より曲がりくねり、川に沿って移動しにくい。かわりに流れがゆるやかだった。


「・・・・・・パパ。」

 わかってる。

 オレ達の後を誰かがつけてきている。

 小人数。・・・一人か二人。


 シア、お前は振り返らないまま、オレの目を後ろに向けろ。

「・・・ん。」

 シアはオレの刃先をそれとなく後方へ向ける。

 ――二人だ。二人とも茶色のフードのついたマントを羽織っている。

 意識してカモフラージュしているのであれば嫌な感じだ。人を追ったり、逃げたり隠れたりを日常的にしている相手ってことになる。

 ・・・シアの脚に追いついてくるな・・・。


 シアはかなり早い。

 《龍胆》による自然治癒力の上昇はスタミナの回復にも効果がある。そのうえ、風魔術《速力》も常時使っている。なのに追跡を振り切ることができず、同じくらいの距離を取りながら追いかけてくる。

 シアより強い可能性が高い。

「・・・・・・竜力が、まだあるよ」

 今日の分は使ってなかったか。

 一体であれば攻撃してもいいが、相手は二体だ。しかしこのまま追いかけっこしていても逃げきれそうにない。


 どうする?戦うか?

「・・・ん。」

 よし、次の岩場に入ったら転身するぞ、合図する。

 少し大きな岩陰に入り、横に移動して身を隠す。

 岩陰から少しだけオレの姿を出しておく。

 狙うのは相手がオレ達を追って岩影に入ろうとするその直前。シアと同じ場所で踏みこみを行おうと、足に力を入れたそのときに――

 ――今だ!

「まてっ!」


 飛び出したシアがスキルを使おうと槍を薙いだ、その槍に、狙ったのとは違う、もう一人が体を割り込ませてきた。

 つっ、刃に速度が乗りきらないっ。だがそれでもスキルは撃てる!

「まて!」


 ―――シアはスキルを撃たなかった。

 肩の中ほどまで刃を受けながら、そいつは両手を広げて武器を持っていないことをこちらに教えてきた。


「まってくれ・・・。たぶん、ボクらは敵じゃない」

 彼はシアに傷を負わされた方とは違う方。左腕を掲げた。

 黒い腕輪。

 微妙にまがまがしい雰囲気の腕輪だ。

 その腕輪の中ほどにある部分が。中ほどにある部分の目が


 ――開いた。


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