追加:競技会 後
四年生は五クラスで自分たちを入れて六組になる。テトリオ組はシードなので二回勝てば優勝だ。
四年生の決勝戦は学校の魔術講師の孫娘がいる組との戦闘だった。
「《火炎弾》!」
ボール球ほどの火の玉が自分たちの手前の地面めがけて放たれる。
テトリオと彼女は左右に別れるようにして火炎弾の効果範囲から逃れた。
「《火矢》!」
孫娘がテトリオと彼女を合流させないように魔術で牽制し、その間にもう一人の仲間が剣を抜き放ちながらこちらにかけてくる。
なるほど弱い方を倒そうということだろう。
この「戦技」はペアのうち、どちらか片方でもやられれば負けである。
だから弱い方を狙うのがセオリーだった。
(なめてくれるなよ)
セビは後ろに下がりながら位置取りを誘導する。相手の剣士がつられてセビを追いかけると、競技場には二つの1対1ができあがっていた。
「ケイネス!」
「っ!」
気がついても遅い。テトリオは剣士と切り結びはじめていたし、何よりも孫娘の方には魔術を避けながら近づく彼女がいた。
「《火矢》っ、《火炎弾》!」
続けざまに打ち出される魔術をなんなく避けながら彼女は孫娘に接近する。
「んっ」
「《爆風》っ!」
近距離まで接近した彼女に風の爆風が放たれる。
《爆風》は近距離に放つ広範囲魔術だ。届く距離は短いがかわりに至近には高い威力をはっきする。
だが近距離に対策があるだろうことは彼女も予想がついていた。
放たれる風に槍を大きく凪払う。
「ーー《風刃》」
相殺された風が辺りをかきみだすように通り抜けた。
「ふ《火・・・きゃっ」
彼女の一凪はそれだけで止まらず、演舞のように回転して孫娘の足元をすくいあげた。
突きつけられる刃先に孫娘は決着を知る。
「勝負あり!勝者三年生代表!・・・四年生優勝は三年生代表!」
観戦席からどよめきが起こる。
魔術講師の孫娘は下馬評ではかなりの評価がつけられていたようだ。
「・・・五年生の戦技に参加するか?」
「ん。」
彼女は当然のように次の試合の参加を決めた。
テトリオは何も言わない。
彼女がやると言うのならそれにつきあうだけである。むしろどこまで彼女の技が通用するのか楽しみですらあった。
待機室に続く階段の途中で彼女は振り返った。
「ありがとう。いい動きだった」
「ああ。・・・なあ、おれが手伝ってもいいんだよな?」
これは彼女が「戦技」に参加すると言い出してからの疑問だった。
彼女は一人で戦いたいのか、それともペアの助けをよしとするのか。
「ん。手助けしてくれると助かる」
「わかった」
その答えでテトリオの方向性が決まった。
自分ができる範囲で彼女を助ける。
この先は五年生ーー自然とテトリオの口に笑みがうかんでいた。
五年生の一試合目はヤンキーコンビだった。
おそらく彼女の先輩だろう、黄色と緑色に染められた髪が派手な二人組だ。
「なだべるるらぁつぐぃのあいてるるぁおめえくああやっ」
「んどぅららべはよあくこうさんんせんかあるらあいっ」
「?」
何を言っているのかわからなかったが、仲間だと思われる彼女ですらわかっていないように見えた。
「ん。倒せば関係ない」
理解することを放棄したらしい。
「はじめ!」
合図にヤンキーが走り出す。
二人は片手づつに装備した長いチェーンをブンブン振り回しながら近づいてくる。
もう少しで武器の間合いだ、というところで一人目のヤンキーが二つのチェーンを投げる。続けざまにもう一人も投げ、合計4本のチェーンが異なったタイミングで彼女を狙う。
「!?、《風刃》!」
とっさにスキルでチェーンを吹き飛ばそうとするが、軌道の読みにくい武器のために全てを吹き飛ばすことはできなかった。
右腕と胴体に一本のチェーンがからみつく。
動きを制限された彼女にヤンキーたちが拳を武器におどりかかった。
「ぶびゃらあ!」
「おちやああがぁあ!」
「させるかっ」
とっさに斬りかかるテトリオの刃を、ヤンキーの一人が拳にはめたメリケンサックで受け流す。
(戦いなれている!)
普通であれば剣の一撃を小さなメリケンで払おうなどとは思わないだろう。
けれどヤンキーは顔色を変えずにやってのけ、さらにカウンターを狙ってくる。
(とんでもない度胸と戦闘経験だ)
おそらく戦いの腕はテトリオよりも上だ。
ヤンキーたちは剣を相手にした立ち回りを経験しているのに対してテトリオはメリケンサックを相手にしたことがない。まともに撃ち合えばからめとられるのはテトリオだろう。
警戒しながら彼女の方に視線を向ける。
「びびってるーへいへい」
「ああぁ?るあめとんぬぉかてめぇ」
「ヤンキーごーほーむ」
「おどるるりゃああああぁぁぁぁっ!」
煽っていた。
まともに動かせるのが左腕しかない状態で、彼女はヤンキーの拳を器用に躱している。
スキルも混ぜて躍りかかるヤンキーを避けながら槍を器用に廻す。肩、くび、腰。取っ掛かりさえあればどこでも槍の柄を乗せることができる。
「ぶるるらあぁぁぁあ!」
「《風刃》!」
二人のスキルがぶつかる。
けれどどちらが勝ったかなど確かめることはしない。一回転した槍が再びスキルをまとった。
「《旋風刃》っ!」
「うどぅりゃあ!」
技と技がはじけ、ヤンキーに多大な傷痕がのこる。が、ヤンキーはそれすら無視してさらに踏み込んでいた。
もう槍の間合いではない。
至近。
撃ち合えば負けるーーその距離で、彼女は槍を手放した。
「《異常消去》っ」
「あれ?、あたい・・・」
暴走状態だったらしいヤンキーが正気を取り戻した。
まるで憑き物が落ちたようになったヤンキーを、彼女は殴り倒した。
それは実質的な五年生の決勝戦だった。
「勝負あり!勝者三年生代表!・・・五年生優勝は三年生代表!」
教師の判定にどよめきと歓声があがる。
決勝戦の相手はヤンキー二人組みよりも数段格が落ちる相手だった。
テトリオたちはそれを難なく下し、今こうして五年生の優勝として立っている。
「・・・六年生の戦技に参加するか?」
「ん。」
「そうか。期待している」
上の学年の戦技に参加できるのは次が一端最後になる。
初等部の最後。
六年生の戦技である。
最終学年ともなると攻守ともに盤石で攻める隙がなくなってくる。
相対したのは初等部でも一二を争う魔術に長けた二人の学生だった。
ライバルだった二人は競技会のために手を組んだらしかった。
「ニック、風をちょうだい!《炎壁》!」
「注文が多いなっ《爆風》!」
彼らの姿を隠すほどの炎の壁があらわれ、走り出していたテトリオたちの足が止まる。
そこを狙ったかのように突風が炎の壁をふきとばした。
炎は風に広がり二人を舐めてゆく。
「あつっ!」
火に巻かれたテトリオは転がりながら服に着いた火を消す。
いそいで立ち上がろうとするがすでに自分に向けて放たれている攻撃魔術を察し、そのまま転がってよけていく。
「下がってて」
ようやく立ち上がったテトリオに、火に巻かれた様子のない彼女がこちらを見ずに言った。
テトリオは何も言わずに魔術を避けられる位置まで下がる。
彼女は一人で二人分の魔術を対処していく。
躱せるものは躱し、躱せないものはスキルを当てて弾いていく。
緩急おりまぜた歩き方をしながら槍だけはくるくると踊りのように操っている。
どれだけ撃っても魔術が当たらないのとに業を煮やした六年生の女子が前に出てくる。近くなれば避けにくいだろうと考えてのことだろう。
(素人かよ)
近接武器を持った相手との戦闘経験が少ないのだろう。アドバンテージを捨てるようなことをするとは。
魔術に長けているとは言ってもいろいろだ。実践で強くなったものもいれば、書物だけでいくつもの魔術を修めるものもいる。
あの女子はおそらく後者なのだろう。
女子の魔術に合わせるように彼女は駆けた。放たれる魔術を紙一重で避けながら、そのまま女子の眼前へ。
「《爆風っ》」「《炎壁っ》」
対近距離魔術が発動する。けれどそれは見たものだ。
槍を器用に扱い高跳びのように飛び上がる。
はじめとは逆だ。六年生たちは彼女の姿を見失い、辺りを探す。
ーー真上にいるとも知らずに。
「はじめ!」
二戦目ーー最終戦技が開始された。
相手はバンパイアとナイトメアの血を持つ二人組だ。調子に乗らせると手におえないというウワサのペアである。
「美しい娘よ。ここまでこれたことは称賛にあたいする。しかし貴様の戦い方は全て調べてある。すでに貴様の敗けは確定しているのだ」
長々とセリフをしゃべるバンパイア男子を無視して彼女は走り出す。
走る瞬間にテトリオに目配せだけして。
テトリオは彼女に続いて駆け出した。
「ばかめ、同じ手か」「《カゲシバリ》」
幾本もの黒い鎖が彼女の進む先に張り巡らされる。
「これでこれまい。《夜祭》」
バンパイア男子の服のそで、すそ、襟首から血の色のコウモリたちが舞い上がる。コウモリは飛び立つと黒い霧になり、あたかも夜が訪れたようにあたりを暗く染め上げていく。黒い鎖が夜に隠されていく。
彼女は鎖の直前まで足を進めそしてーー
「《竜力》ーー《風突》っ」
全力で投げた。
吹き出るコウモリたちを千々に切り裂きながら、その槍はバンパイア男子の腹にささり彼を競技場の壁に縫いつける。
「ぐげええぇぇっ、貴様よくも!」
腹から槍を生やしたままにしては元気だ。
事前情報でバンパイア男子がこの程度では倒れないことはわかっている。
テトリオはすぐさま持っていた槍を彼女に渡した。
そして彼女と共に走り出す。
狙うはナイトメアの男子。
彼女は身体にからみつく鎖を強引に引きちぎりながら前進する。
「《ナイトランス》ッ!」
「《風刃》っ」
魔術の相殺に放たれた《風刃》だったが、飛来する黒い槍を落とすことなく素通りしてしまう。
《夜槍》は物質をふくまず、魔素で作られた槍だ。その槍が彼女に突き刺さり、そして足の止まった彼女を鎖が絡みとった。
「ヤッタ、カ!」
勝ちを確信したナイトメア男子は攻撃の手を止め、鎖で身動きができなくなった彼女の様子をうかがった。
「馬鹿者!左だ!」
バンパイア男子が警告を発し、槍から抜け出そうともがいているその間に。
テトリオはナイトメア男子のすぐ横にいた。
彼女の陰に隠れコウモリの夜に紛れ、彼らが自分を警戒しないことをいいことに手の届く距離まで。
テトリオは剣を振り上げる。
彼女みたいに走りながら武器を振り回すことはできなかった。
けれどこれだけはーー止まって振り下ろすことだけは、何度もやってきた。
何度も何度も、毎日毎日雨の日も雪の日も毎日かわらずやってきた。
その一撃は石を穿つ
「《旋ー風刃》!」
「ナ、ナイトランーー!」
一線に引かれた剣筋は刃の風ごと相手の胴体を凪払った。
衝撃で壁際まで吹き飛んだナイトメア男子はテトリオに右手を向け咳き込む。
そしてパタリと力無く腕が地面に落ちた。
「・・・勝負あり!勝者三年生代表!。六年生優勝は・・・三年生代表!」
初等部の最終勝者が決まったのだ。
競技会も終わり、いつもの日常が戻ってきた。
テトリオはあれ以来彼女と話すことはなかった。
たとえ朝の鍛練で同じルートを走ろうと、視線を一瞬向けただけで自分の鍛練にもどるのだ。
ただそれでも思い出すことがある。
最後の競技の後に彼女が言った言葉を。
「ん。上出来」
「あぁ。狙い通りだったな」
彼女は最初からほとんど自分だけで勝ち進むつもりだったのだ。だが六年生との戦いは一人で戦えるほど温くはなかった。
だから彼女は最後だけはテトリオの手を借りようとしたのだ。
『自分を囮にしてテトリオがなんとかする』
彼女が提案したのはたったそれだけの作戦だった。
大雑把すぎる。
だからテトリオは細かい作戦を立て、彼女に進言して戦いに挑んだのである。
上手く行って良かったと思う。
「でも」
小さく笑みをうかべながら。
「ペアとしては、まだまだかな」
そう言ったのだ。
今でも疑問に思うことがある。
彼女は自分と誰をくらべて言ったのか。
あの小さい笑顔を思い出すたび、考えるのだ。




