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邪武器の娘  作者: ツインシザー
魔族領
57/222

追加:競技会 前


テトリオ・コボリオは戦士である。

家は男爵だが代々子爵家に仕え、兵士として戦場を共にする。配下の家系である。

今日も鍛練のため早朝から川沿いの道を走っていた。

毎日10キロ。

それがテトリオの訓練メニューなのだが、最近自分と同じルートを走るおかしなのがいることに気がついた。


黒い娘だ。

長い黒髪をなびかせ、槍を持ちながら自分と同じ早さで走っている。

なぜ槍?そう思わなくもなかったが、よくよく考えるとこの娘は学校でもいつも槍を持っていた。

同じクラスでなかったためによく知らないが、一年では割りと有名な娘だということは後で知った。


後ろを走っているならいい。

問題は前を走っている時だ。

その娘、走りながらスキルを使うのである。

重そうな槍を器用に振り回しながら風刃や風突を放つ。

こんな鍛練方法は見たことがない。

父や兄たちの兵士団でもやっていない。

普通は走るときに走り、武器の素振りのときにスキルを撃つ。

はじめ見た時は槍に振り回されてあぶなっかしく、ハラハラした。

けれどいつしか、それが様になってきたように思える。


そうなるとこの訓練方法も理にかなっているように思う。

毎日一時間。その間にスキルは何回うてるのか?

準備時間を30秒とすると120回だ。4、5日もすればスキルの練度が1上がる。

もし5時間走ったなら1日で1上がるだろう。

これほど効率のいいことはない。


テトリオもまねをしてやってみた。

片手に剣を持ち、走りながら風刃を放つ。

ーー感想を言えば、それは無茶なことだった。

武器に振り回され走るのがおろそかになる。

スキルも体のしなりをうまく伝えられずに弱い攻撃にしかならない。

実践的ではない。

おそらく練度をあげるための方法なのだろう。

効率的ではあるが自分には向かないと思えた。

結局テトリオにとって彼女は難解な器用さを持つ同学年という存在だった。




それがかわったのは2年にあがってからだ。

クラス替えによりクラスの半数が入れ替えられる。

テトリオはその半数に入っており移動した先のクラスに彼女がいたのだ。

彼女、黒髪黒目なれどその目の片方は金色の輝きをもつ。

一度目をむけたら磁石のように目を離せなくなる美しさだ。非常に存在感の濃い少女だった。


クラスメイトからシアさんと呼ばれている彼女は柄の悪いヤンキー魔族の取り巻きの一人だった。

そのヤンキーたちは報酬を受け取るかわりにモンスターの討伐課題を手助けしていた。

学校の設定する課題は難しくはない。けれど戦闘に向かない生徒にとっては命懸けとなることもある。

実際に毎年数名の死者が出ていると聞いたことがある。

彼女たちはそれを手助けしているようだった。


元のクラスメイトだった連中は彼らヤンキーを悪く言う。

魔族のはぐれ者だとか頭が悪いだとか、影でいって笑い者にもしていた。

課題を手助けすることにも弱い生徒から食べ物を巻き上げてるとか配下にするためにやってるなんて言い合っていた。

テトリオは眉をしかめる。

配下がほしかろうと報酬を受け取ろうと、実際に行動することで戦えない生徒たちの生存率を上げているのは彼らなのだ。

何もしない者が彼らを悪し様に言うのは違うと思っていた。




その思いを口にすることはなかったが、その事でかかわることになる。


三年生の秋だ。

「競技会」という体を動かすことの総合発表会のような催しがある。

そのうちの一つに「戦技」という種目がある。

これはクラスの代表者二人を選出しトーナメント形式で各クラス、ひいては各学年と戦闘技術を競う競技であった。

早い話し、戦って勝てばより強い相手と戦え、最後に一番強いペアが優勝という競技だ。

種族差のために参加できるのは三年生からになる。

ようやく三年生になり、その初参加となる戦技に立候補したのは彼女だった。


「・・・ペアはどなたでしょうか?」

学級委員長の女子生徒が教室を見回しながら聞いた。

教室の一番前にたち、競技会の参加者を募ってまとめるのも学級委員の仕事らしく黒板には委員長の文字で各競技ごとの参加者の名前が書き連ねてある。

その最後の競技。「戦技」の項にはまだ何も書かれていない。

委員長が「戦技に参加したい人?」と聞いて一人手を挙げたのが彼女なのだ。

一人だけだ。

「ペアは・・・?」

再び委員長が問うと彼女が前の方の席を見ながら答える。

「ポステリア。」

「やですぅっ、参加しないですっ」

彼女に指名された生徒はウサギの獣人だった。どうやら戦闘よりもそれ以外に長けた生徒らしく、周りの生徒も頷いている。

「・・・・・・一人ででる」

「この競技、ペアなので・・・」

「ならポス「でないですぅ!」

ウサギ獣人の頑な不参加表明に彼女が困っていた。けれど更に困っているのは委員長だ。

早くペアを探してほしい。もしくは別の誰かが立候補してくれないかと生徒たちをうかがっていた。

他の生徒で手を挙げる者はいない。

ヤンキーに属している彼女を押し退けようという気概のある生徒はいなかった。

けれど小さな声で「ゆずれば」と誰かがつぶやいた。

「降りろよ」という声も聞こえた。

早く進めてほしいという空気が教室を包んでいく。

「委員長からも言ってやれよ」

そう言ったのはヤンキーたちをバカにしていた男子だ。

自分では何もせず、手助けしているヤンキーを悪く言った男子だ。彼はまた、自分で言うことなく委員長にやらせようとしていた。


テトリオは眉をしかめる。

彼の行為が不快だったからだ。

心の根が曲がっている。

父も祖父もそのさらに前の代から戦士の家系であるテトリオには、それは正しくない行いに見えた。

だが、ここでそれを指摘するようなことはしない。それは賢いやりかたではない。

ならば賢いやりかたとは何なのか。

いや、賢くなくてもいい。

彼女を辛い目にはあわせたくなかった。


テトリオは手を挙げた。

「え、えと?」

「おれが出るよ」

委員長の顔が笑顔になる。助かったという想いがあからさまに見てとれた。

「あ、ありがとうっ。ペアは誰ですか?」

委員長は教室を見渡す。

テトリオのペアをみつけようとしていた。

「ペアは彼女だ」

テトリオは彼女を見つめる。

当の彼女はテトリオを見て首を少しかしげていた。今までテトリオと彼女には関わりがなかったからだろう。けれどすぐにどうでもいいと思い直したようだ。


「シア」

「テトリオ・コボリオだ」


それがこのクラスの「戦技」の出場ペアになった。




競技会は順にいくつもの競技を消化し、待望の「戦技」が始まった。

三年生は全部で六クラス。

一回戦目は四クラスで戦い、二回戦目にその勝者と残りの二クラスを入れた四クラスで戦う。

最後に二回戦目の勝者同士で戦って三年生の優勝者がきまるのだ。



「はじめ!」


合図と共に第一回戦がはじまった。

開始と同時に走り出したテトリオだが、そのテトリオの横から現れた黒い影に追い越される。

「んっ」

速度をほとんど落とさないまま刃を潰した槍が横凪に振り回される。

相手の三年生は防御姿勢をまともに作ることもできずふっとばされる。

テトリオが速度を落としながら追い付いた時には彼女が相手の首もとに槍先をつきつけているところだった。


「勝負あり!勝者3―A!」



テトリオは何もしていない。

走っただけで試合は終わってしまった。

三年生という成長途中の子供たちゆえに戦闘経験を含めて実力差が大きいこともあるだろう。

のんびり戦いの準備を始める相手に辻風のように走りより、驚いて何もできぬ間に一撃をくわえてしまう。

戦いに対する本能が違うのだ。

彼女は学校の1行事ではなく、まるで戦争に参戦する前の前哨戦をおこなっているかのような姿勢だった。

見学している父兄や生徒、教師さえも彼女の一撃で目を覚ます。

ここは戦うための学舎であり、手を抜いた者から蹴落とされるということに。

鮮烈さをもって知らしめたのだ。


だが次の相手からは警戒してくる。

スキルだって使ってくるだろう。

かの「戦技」はスキルの使用を禁止していない。むしろ推奨している。

怪我をすれば高位の回復魔術で治してもらえるが、希に間に合わず死亡することもある行事なのだ。

気を引き締めてかからなければならない。




「三年生優勝は3-Aクラス!」

「・・・・・・・・・・・・」

優勝していた。

初戦の速攻勝利からそのままあれよあれよという間に勝ち進んでいた。

「四年生の戦技に参加するか?」

「ん。する」

学年優勝者は上の学年への挑戦権がもらえる。

シード参加になるので連戦ではないが、前の戦いの疲れがぬけず挑戦者は勝ち進むのが困難だと言われている。


「おい、大丈夫なのか?」

テトリオが彼女の状態を伺いながら声をかけるが、見た感じでは彼女に疲れはみえない。

「大丈夫」

それだけ答えてスタスタと待機室に戻っていく。テトリオは何とも言えない感じを抱えながら彼女の後を追うのだった。


完結しちゃうと新話追加できないのか…盲点だった(*ω*)

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