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邪武器の娘  作者: ツインシザー
魔族領
29/222

追加:ラッテ 昔話し

※一部クズな描写があります。

ゴ○といい、なんなのか。本当にUPしていいのか⁉(´▽`*)R指定はしてあった気がする

『痛い目にあわせてやりましょうよ』

そう言ったリッテをラッテは追従しながら内心では困ったなと思いながら見ていた。


リッテとラッテは子供のころからの付き合いだ。

ラッテが8歳の時、向かいの家に越してきたのがリッテの家族だった。

ラッテはねずみの魔族、リッテはリスの獣人であり、どちらも多産の大家族だった。

お互い部屋は兄弟姉妹が入り乱れて寝起きし、パーソナルスペースなんて全く無い環境下で生活していた。

上は12歳から下は3つまで。上の兄姉はこの歳でできる簡単な雇われ仕事をしていたこともあり、幼い弟妹たちの世話は自分たちくらいの歳の者がやることになっていた。

下の世話、食事の世話、遊びの相手に勉強の手伝いまで、やることは多く一人の時間などとれない毎日をおくっていた。

トイレの時間ですら取れないことがままあるのである。


二人は結託し互いの弟妹を集め、協力しあうことでなんとかこなしていた。

「自分だけの部屋がほしいね」

「自分だけのベッドで大きくなって寝たいね」

そんな夢を持つほどに、苦労を重ねていたのであった。


10歳の終わりの冬のこと、二人はそれぞれ両親から呼ばれ、相談をうける。

『家計が苦しいので身受け先を探していいか』と言うのだ。

中層の家庭であれば丁稚奉公のことだが、ここ下層では身売りのことである。

奴隷として売られるのだ。


奴隷といってもその種類はいくつかある。

犯罪奴隷と言われる最下層の奴隷。彼らは殺人や強盗などの重い犯罪を犯したものたちで、長期の苦役や性労働をさせられる。戦争時には敵方の捕虜もここに入れられることが多い。


次が職業奴隷だ。これは一般的な奴隷である。

家が苦しく売られる者や軽犯罪の罪人、移民、人さらいに拐われた者などだ。

手に職があればその職に即した買い主に売られることもあり、職業斡旋の側面ももつ。


あとは上級奴隷。上奴と呼ばれる、特別な奴隷である。彼らは主と配下契約を行い、主と生死を共にする存在になるのである。


リッテも、ラッテも、このうちの職業奴隷になるのだろう。嫌だが、すごく嫌だがしかたがない。誰かが身売りしなければ家族が食べていけないのだ。

こんな環境に生まれたことを恨むことはあっても、家族を、兄弟たちを恨むことはなかった。

こと下層においては身売りなど、どこの家庭でも起こり得ることだったのである。

二人はあきらめ、奴隷となることを承諾したのである。


二人は同じ日、同じ店に売られることになった。

彼らの親が話し合って決めたようだった。

それぞれの男親につれられて来た店は色の濃い色彩の多い店だった。

魔族の領域では木の魔物から採集しやすい青色の家屋が多い。その店は赤と橙、あとピンクの色づかいがされていた。

違和感があった。魔族領でピンクは性象徴とされる。性特性を持つ女性魔族(サキュバス)の体色がピンクだからだ。

リッテとラッテはこっそり顔を見合わせた。

お互いのなんとも形容しづらい顔を見て、(あぁ。)と理解してしまう。


足が止まる。

職業奴隷になることは了承した。けれどこれは違う。

全然違うものだ。

二人の様子が変わったことに気がついた男親たちは、リッテとラッテをなだめすかし店の入り口をくぐるよう指図してきた。

店からは"女"の匂いがした。入り口にガタイのいい男が立ち自分たちを面白そうに見下ろしている。

店の中では疲れた気配の老女が煙草の煙をはきながら感情のない目でこちらを眺めていた。

騒ぎを聞いてか、店の顔をのぞかせる。

顔は白く、化粧の乗ったきれいな女だ。

その女はこちらを見、少し笑った。

「ひっ」

ラッテは女の笑顔を見て震えだした。

そして父親の手から逃れ走り出した。

「おい、ラッテ!」

父の怒った声が背後から聞こえるが、止まれない、止まれるはずがなかった。

あの女ーー穴があいていたのだ。

口に、ぽっかりと。

歯の前の部分が、上の歯も下の歯もなくなっていて黒い穴があった。

ラッテにはそれがひどく恐く思えたのだ。


後ろから自分を追いかけてくる声がする。

嫌だ

あれになるのは嫌だ。

奴隷になるのは仕方ないと納得しても、あんなものにはなりたくなかった。

だから逃げ出した。

友達だったはずの、リッテを置き去りにして。

置いてきてしまった。

どうしよう、けれど止まるわけにはいかなかった。ここで捕まれば自分は色を売らされる。そしてあの女のように、男たちの使いやすいように歯を抜かれるのだろう。

嫌だ

嫌だ!

誰か、助けて!

息があがり、足に力が入らなくなってくる。

もう、すぐ後ろに父親だったものが迫っていた。

「まてっ!」

ラッテはとっさに横に転がった。男の手をすり抜ける。

男は転がるラッテを捕まえようと手を伸ばし・・・ひっこめた。

目の前から馬車がきていた。

馬車の御者があわてたように手綱を引き、馬に止まるように指図している。

馬はラッテから拳一つ分の位置で止まり、避けるように足踏みをしていた。

覚悟していた衝撃が来ない、そのことに気がついたラッテが顔をあげようとするより前に、その腕を誰かがつかんだ。

「捕まえたぞ!、さぁ来るんだっ!」

怒気と走ったことにより顔を真っ赤にした父親がラッテを引きずり起こした。

逃げ出さないように、腕をあざがつくほど強くつかみさっきの店へと引き返していく。


「おまちなさい」


後ろから声がかけられた。

幼い子供のような声。

けれどその声は明瞭で、なぜか自分の耳に残る声をしていた。

自分だけではない。父もそう思ったのたろう、彼は振り返って声の主を探した。

それは声のとおり子供だった。

まだ幼さの残る、6つか7つの子供だ。

金の髪にオレンジと黄色のドレスが眩しい、角の大きな子。


それがラッテと、モルテイシアお嬢様との初めての出会いだった。


「そこの子供。わたしに謝ることがあるんじゃないかしら?」

「・・・え?」

お嬢様は首をトントンしながらため息をついた。

「あなたのせいで首がおかしな感じになったわ。医者料がいるわよね」

いしゃりょう?と聞くとお医者を呼ぶお金よと答えた。

うちにそんなお金はない。

ラッテはゴメンナサイ、とつぶやきながらしゃがみこもうとする。

父は苦虫を噛み潰したよう顔をしながら店の方向と子供の方を代わる代わる見てうなっめいた。

「あ~・・・あんたの馬車に娘が飛び出したのは悪かったと思ってる。けどうちにはそんな金はない。・・・少し待っててもらえるなら金は作ってくるから、少しだけ時間をくれ」

「んま。お金がないのにあるって言うのね。それってウソね。お警邏(けいら)もよびましょう」

"おけいら"というのはわからなかったが、父が焦りだしたのできっと父の苦手なものなのだろうと察し、ラッテはこの子供との会話が終らないよう場繋ぎに全力を注ぐことを決めた。

自分より3つか4つも下の子に賭けたのである。

「あんなとこに売られるのはいやっ」

「し、しかたないだろう!奴隷商より高く売れるんだ。金があれば他の子も売らなくてすむんだからな!」

他の兄弟姉妹も売るつもりだったらしい。

普通の奴隷商人なら二人でも、色店なら一人でいいらしい。

そんなにお金がないなら子供を作るなよ、と言いたい。

種族的に子供ができやすいのは仕方ないとしても、魔物ではなく知力の高い魔族なのだ。きちんと考えてほしい。

「あら、人を売るのに奴隷商人より高い所があるのですのね。どんなお店なのかしら?」

子供の疑問に父は言いよどむ。

父からすればそれは内々にすませなければならない話しだった。


この郷では15未満の子供に色売りをさせるとその親が罰を受ける。ラッテはまだ10歳でしかない。

ならばなぜそんな危険なことをしなければならないかというと、自分たちの種族に求められる性の嗜好性の問題だった。

客となる他種族が求めるのはーーかわいいこと。そして小さいことである。

ねずみ族も、リス族もだ。

だからこれらの種族の娘は若く、小さいほど高く売れる。流石に分別のわからないほどの年齢は忌避されるが、10歳なら十分だ。

小さくてかわいい頃合いで、すぐに大人気になることだろう。

ともあれ、高く売れるが禁止されていることなので店側と結託しこっそり取り引きするのである。


言えぬことに口ごもっていると、子供はラッテに標的を変更したようだった。


「娘。売られるのがお前なのですから、金もお前が受けとるべきではないかと思うのですが、どうなの?」

確かに。自分は自分のものだ。

「・・・そうだね」

「いくらで売りたい?、いえ、普通いくらで売られているものなのですかしら」

希望価格と市場価格を売ったことも買ったこともない人間に聞くなと言いたい。が、希望ならいちおうある。

「・・・ご飯を、毎日食べたい」

「へぇ」

「あと・・・一人で寝れるベッドがほしい」

流石に一人部屋は願いすぎだろう。実現可能と思える希望にしてしまった。

「まぁ。とてもお買い得だわ。ぜひわたしの父に買ってとおねだりしてみましょう。さ、馬車に乗ってください」

ラッテに乗るように促すが、ちょっと待てと横入りしてくる男がいる。

父だ。


「ま、まてまてっ!人の娘をどこへ連れていく気だ!?。ラッテ、お前もついていくな!」

「あら、売りに行くのでしょう?。けれどこの娘はあなたが売りたい店はいやだと言っていますから、かわりに私が買うことにしたんですわ」

「そ、そうよっ。あんなお店はいやっ」

ほらみなさい、とお嬢様は胸をはる。

「ふ、ふざけるなっ!他にどんな道があるっていうんだ!」

父がお嬢様につかみかからんとすると、それまでぼーっとしていた御者の男が剣呑な雰囲気を放った。

「う・・・」

暴力的な気配に身を縮こまらせる。父は家の中で子供に居丈高にふるまうことはあっても、外で大人相手に大きな態度をとったことのない性格だった。

「そ、そのこはうちの子だ!、他人にとやかく言われる筋合いはない!」

お嬢様はコテリと首をかしげて父をながめた。

「でも子を売りに行くのでしょ?。親を放棄する者が、子の何を主張するのですか?」

何を。

結局は金だ。

親として最後に子を売って金銭を得る。

金がほしいからラッテが自分の物だと主張したいのである。

けれど、ラッテはラッテのものだ。自分で決めた。こんな大人のせいで、自分を不幸にすることなんて嫌だった。

だからーーラッテはその大人と決別することを決めたのだ。

「父さん、私はあなたの物じゃない。だから私は私でお金を稼ぐことにしたの。・・・私の代金は家にも入れるから、だからしたいようにやらせてほしいの」

まるで子供の最後のわがままだと言うように、少しのおねだりを混ぜて言ってみる。

あとお金ももらえるよ、というのを匂わせる。

お嬢様との約束では食事とベッドだけなのでお金がもらえるかは怪しい所なのだけれども。

「い、いや、・・・そんな子供同士の口約束なんか、信じられるわけないだろう」

お嬢様が笑う。

「では、あなたもいっしょにどうぞ。大人を交えてお話ししましょ」

父はしまった、と青くなるが後の祭りである。

お嬢様の御者に「乗れよ」と指図されるまま馬車に入っていく。

「娘さん、あなたもどうぞ」

そう勧められるがラッテは足が動かなかった。

まだ、心残りがあった。

顔を上げ、意を決してお願いする。

「あのっ。もう一人、雇ってほしい子がいるのっ、その子も私と同じで・・・」

声が小さくなって消えていってしまう。

ひと一人を雇うのは相当な金銭がかかるだろう。それを、もう一人だなどと頼むのはいくらなんでも無茶がすぎる。

それでも。

叶うならばリッテもあそこから掬いあげてほしかった。

きっと絶望に震えるあの子を、助けられるのは今しかないと思ったから。

けれどそんな決意など関係ない様子で応えられた。

「ふふ。ベッドがもう一つ要りそうね」



色彩の多い店で品定めと称して裸にされていたリッテを、お嬢様はあざやかな手際で救いだした。

この時からリッテはお嬢様に心を預けていたのだと思う。

ラッテはリッテを置いて逃げ出した、という負い目からかリッテがお嬢様に向ける思いほどは

踏み込むことはなかった。

それでもお嬢様が望むのならば、リッテ共々『配下』になろうと決意していた。

けれどお嬢様が選んだのは自分たちのどちらでもなく、どこかで拾ってきた小汚ない娘だった。

きっと自分たちと同じように掬いあげられ、助けられたのだろう。ラッテはそう考え、気持ちを納得させることができていた。

問題はリッテである。

自分がなりたかったモノに後からやってきてちゃっかり収まり、かつ今後はお嬢様と二人でやっていくのだという。

憤慨冷めやらぬ所業である、と。

新しいメイドに納得がいかないリッテを、ラッテは同意しながらも心は一歩さがって観察していた。

ちょっとしたイジワルならいいが、大事になるようならば止めなくては。

そう思っていたのだが・・・。


今、二人の周りには黒いアレがいる。

これが、リッテが『痛い目にあわせる』と言ったことの結果である。

黒いアレはどんどん現れ、そこら中に徘徊していた。

青ざめたリッテがラッテに視線を向ける。

恐怖と懇願。

助けを求める視線だった。

ラッテは内心でため息をついた。

ーーなら、はじめからやらなければいいのに。

後で言い含めなくてはと思いながら、自分の身体を登る微かな気配に鳥肌をたてる。


二人はアレに集られながら、嫌悪で意識を手放していた。


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