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邪武器の娘  作者: ツインシザー
魔族領
28/222

追加:メイドのお仕事3

翌朝は食後から戦場だった。


「一同、鼻マスクと三角巾はよろしいかしら?」

「「はい!」」「ん。」

「ハタキは装備していますわね?」

「「はい!」」「ん。」

いやそれハタキじゃなくてオレだから

「予備武器はよろしい?」

「「はい!」」「ん。」

武器じゃないし。ハリセンだし。

「噴霧器に薬剤は満杯かしら?固形剤も持ちましたか?」

「「どちらも準備万端です!」」「ん。」

シアは噴霧器が稼働するかの確認までしてみせた。右手に持った噴霧器を左手のオレに向かって。

「よし。」

よしじゃないが。真っ白なんだが

パパの視界真っ白なんだが!?

「シア女史、やる気があるようでとてもよろしい。では各々(おのおの)がた、割り決め通り持ち場にてやつらを退治しましょう」

「「はい!」」「んっ。」

「一匹たりとも見逃さないように。敵は"黒いアレ"でございます」



ーーはじまりは何だったのか。

ラッテが朝食の準備中にアレに遭遇したことか。

それとも、執事見習いのカッツェが廊下でアレの気配を感じたことか。

ともあれ、それらの報告を聞いたジョージとギルギットは相談し、朝の午前中を

使って全館の殺虫消毒をすることにしたのだ。


シャコッ

と噴霧器の取ってを引いて中の殺虫剤を廊下に撒いていく。

これは"黒いアレ"に効く特効剤らしく、撒いておけば効果があるらしい。すごいね。

もし"アレ"というのがオレの知っているアレなら早晩耐性を獲得して薬が効かなくなる気がするのだが、この世界の『特効』効果とはそんな生易しいものではないらしい。

特定の種族に対して大ダメージ。それが『特効』らしく、どう進化したとしても"種族"が変わらなければ効果も一律で効くのだそうだ。

なので"黒いアレ"と呼ばれる魔物ーー

『ローチ』

は、この殺虫剤が撒かれている所へ入るのは自殺行為なのである。


・・・ローチだって。

よかった、知らない名前だ。オレの知っているアレではなかったらしい。

しかも魔物ということなのでなおさら知らない生き物である。


「ん、虫。」

シアがサッと視界の端をかすめる"ナニカ"に反応し、オレをふるう。

ふるわれたオレの先っちょには黒いあ


ほぎややああああああぁああああぁあっ!!!!

あびょええぇぇぇええっ!

いぎやああぁあっ!


ガクガクぶるぶるビクンビクン

あばばばばばば


「・・・パパがこわれた」

壊れもするわっ!ゴ○じゃねーかっ!まごうことなき黒光りする○キブリじゃねーかっ!!

ばっちーよっ、オレに刺すなよっ

早く捨ててくれっ

「ん」

ぺいっと先っちょのゴ○が捨てられる。

どうやら・・・ローチとはこのゴ○のことらしい。

どこの世界でも嫌われものなのだ。罪深き種族であった。



廊下が終わったシアは今度は各部屋に撒いていく。

ちなみにシアの担当は1階西だ。

貴金属や貴重品、旦那様と奥様の部屋がジョージ。

お嬢様と壊れやすい物、衣類などの部屋がギルギット。

残りを下っぱメイドたちと執事見習いの四人でわけたのである。


「パパ、ごき?」

ローチって言うらしいけどな。

さっきシアがオレの刃先に突き刺した虫のことだな。

黒くてカサカサ動いて生ゴミを食べるばっちいやつらだ。

繁殖力もある。1匹見かけたら30匹いるって言われてる。今やってる屋敷内消毒も隠れたゴ○を殲滅するためのものだ。

姿かたち食生活から何から何まで、すっごく嫌われてる。

ギルギットやオレの反応のとおりな。

まあ、直接的な実害があるわけではない。

ゴミを食べるから雑菌まみれだというくらいの害しかない。


「へー」

少し淡白な様子だった。

ゴ○が嫌われる感覚がよくわかっていないからだろう。

こればっかは説明しづらいなぁ・・・

おいおい理解してくれることを祈ろう。


さて、二部屋終わり、次は風呂場だ。

タウロン家の風呂場ではなく、従僕用のせまい汗を拭うだけのスペースである。

お湯を溜める湯船はないが、石鹸や水桶、水を入れる(かめ)は置かれている。

シアがシュッシュと消毒液を噴霧していると、開けっぱなしのドアのところからこちらを覗いている二つの影があった。


「新入り、仕事できてるのかしら」

「新入り、何で槍を持って仕事してるのかしら」

リッテとラッテだ。

シアの仕事ぶりを見に来たようだ。

「ん。」

シアは問題ない、と言うように短い返事をかえす。

「でも、黒いアレは細い隙間に入り込むの」

「黒いアレが細い隙間から出てこないようにしないと」

二人はそう言って排水口の蓋を持ち上げた。


「「手伝ってあげる」」


ポイ と固形の殺虫剤を落とした。

ぽちゃん、と音がしてしばらく待つ。が、それだけだ。


「・・・・・・あれ?」

「・・・リッテ、使い方がちがうんじゃない?」

「でもラッテ、撒く時は水に溶かすし・・・」

二人はしばらくヒソヒソと何かを相談した後、うなずきあった。


「「手伝ってあげる」」


二人は手持ちの固形剤をすべて排水口に投げ入れた。

そしてオマケとばかりに魔術を放つ。


「「《火矢(フレイムアロー)》っ!」」


炎でかたちどられた長細い矢印のような火が6本浮かび上がり、排水口の中へと突き進んでいく。

ボンッという音と共に穴のなかから真っ白な煙が沸き立つ。

その煙は誰がどこにいるのかわからないほど真っ白に部屋中に充満していく。

「うぅ、真っ白。」

「ひゃああ、ラッテどこなのっ?何も見えないわっ」

「ごほっ、リッテ、ごほ、私も見えないわ・・・」

シアたち三人は転がるようにして風呂場から逃げ出した。

煙は廊下にまで広がり、リッテは急いで風呂場のドアを閉める。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・し、新入り、何てことをしてくれたの。こんなイタズラをするなんてメイド長に報告しないと!」

シアが首をかしげる。

「新入り、いけないのよ。イタズラしたことをメイド長に告げ口しないと!」

「んー?」

二人はほくそ笑む。

「きゃはっ、これで新入りは叱られるわね」

「きゅふっ、メイド長に叱られるのよ」

どうやらさっき風呂場を真っ白にしたことを、シアのせいにするつもりのようだ。

・・・しかしどうするつもりだろう。シア、言ってやれ。手持ちの固形剤の数を数えればバレバレだが?って

「んっ。バレバレ。」

「?」「?」

はしょりすぎでは。

バタバタと音がして誰かが階段を駆け下りてきた。

「何をやったの?!やったのは誰!?」

怒髪天の形相で現れたのはギルギットだった。

リッテとラッテは立ち上がりシア指差した。

「シアさん、あなたなのですか!、いえ、そんなことはどうでもいいですわっ、いそいでーー」

ギルギットは顔色を変え、こちらを見たまま硬直した。

正確にはこちらの 後ろを見たまま だ。

「ん。虫。」

シアがオレを振るおうとして止まる。困惑しながら。

1匹・・・2匹。

いや、3、4、ご・・・

オレに血が通っていたならば、青ざめて全身鳥肌が立っていたかもしれない。

ゴ○が

あふれたのだ。

食堂から、トイレから、手洗い場から、壁の崩れた穴から。

風呂場から発生した煙が下水管、配水管を通って屋敷の全体へと廻る。

それは隠れていたのを引きずり出すように、殺虫剤のない新鮮な空気をもとめて暗闇にいたはずの大量のアレを地上に追いたててしまったのだ。

カサカサと始まったそれは

カサカサ、かさかさ、ガサガサ、ガサガサ、

ザカザカ、ざざざざ

ザザザザザザザザザザザザザザザザザザっっ!

と、怒涛の勢いで地上に出てきていた。


「キャアアアアァァァァァッ!!??」

「ビャアアアアァァァァァッ!!??」


青ざめ硬直していたリッテラッテがゴ○の波に飲まれる。

シアは青い顔のギルギットの腕をつかみ階段の上へと退避していた。

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