追加:メイドのお仕事2
お嬢様の家は男爵家なので使用人の数はそれほど多くない。
執事のジョージ
執事見習いのカッツェ
メイド長のギルギット
あとはリッテ&ラッテの二人と新入りのシアである。
それとは別に警備の人間も雇われているが、これは外部の組織らしい。館内に入らず正門や庭を見回っている。
さて、そんなわけでシアの上司はメイド長のギルギットになるのだが、細かいことを言うと違うらしい。
配下を得たお嬢様は一人前と見なされるらしく、タウロン家からの庇護はなくなっているのだそうだ。お嬢様がタウロン家家長のズェノフ・タウロンの配下なら別だが配下契約はしていない。なのでシアの正式な上司はお嬢様ということになる。
しかしそれではシアがメイドをするための教育を誰がするのかということになるので、一人立ちできるまではメイド長が教えてくれることになった。
空き部屋に机と椅子が置かれ、シアが座らせられている。
その前をメイド長のギルギットが左右に行ったり来たりしながらメイドとはなんぞや、という講義をしていた。
ギルギットは面長の熟年女性だ。聞くところによるとイナゴ系の血が混じった魔族で、瞬発力と音楽が得意らしい。スズムシ・・・いや、キリギリスかな?
「メイドとは女性の従僕のことをさします。大枠では主に仕え、賃金をいただく職業の一つでございます」
「主の食事を用意する。主の服を用意する。服を清潔に保ち、保管する。寝台を整える。入浴のお手伝いをする。住まう処の掃除をする」
「外出時には移動手段の手配から移動先の把握、事前に約束が必要であるならその手配も。お金や小切手の管理に荷物の把握と運搬方法」
「あとはパーティーやお茶会ね。これは別の機会を設けてやりましょう」
・・・思ったよりやることが多いな。メイドってのは屋敷内の掃除洗濯家事全般をこなせばいいのかと思っていたが、小規模な貴族だからか、個人付きのメイドとなるとハウスメイドだけでなくハウスキーパーの仕事もしなくてはならないようだ。
「?」
ようは、お嬢様に仕えるメイド長ってことだな。今目の前にいる彼女と同じ権限があるってこと。
すぐにとはいかないが、いつかこなせるようになってほしい。
けれどそんな思いとは裏腹に、シアには別の役割もあったのだ。
「これはあくまで一般的なメイドの話しです。あなたは付随して『配下』でもあるので、戦うための訓練もしなくてはなりません」
やることいっぱいだな!
シア、どちらを優先すればいいか聞いてくれ
「ん。どっちやればいい?」
「比重であれば配下を優先していただきます。お嬢様と共に戦場に赴き、盾となり矛となることこそが配下の役目ですから」
むむむ。
まぁ、シアはリザードマンに育てられたころの習慣か、毎日戦闘の鍛練はしている。そこをもう少し時間を取ればよさそうだな。
「なんとかなりそう」
「それは良うございますね。けれど『メイド』でも『配下』でも、絶対に必要なものがございます。これはまだ、あなたが持ち得ていないものでしょう」
ギルギットは背筋をシャンと伸ばす。今までも伸びていたのだけれど、なんだかより伸びた感じだ。
「『主に仕える』ということ」
彼女は、ただ仕事をすればいいと言うわけではないと言った。
心の一部を主に差し上げ、これは何があろうと不変なのだと心に留め置くこと。
特に"配下"は命さえも主にゆだねることがある。心を差し上げておけば、いざという時でさえ主の判断にしたがえるのだと言う。
まぁ、そこまで重く考えずに自己よりも主の方が優先されるという話しらしい。
そういうことも、おいおい理解していってもらいます。と宣言された。
しばらくシアはギルギットと行動を共にしていく。メイドの仕事とメイドの心得、それから配下のあれこれを教わりながら、それとは別に一般的なことも教えてもらっていた。
言語や文字、足し算引き算などである。
オレが言葉だけで教えるよりも紙に書いて教えるほうが理解しやすいらしく、シアはどんどん物事を吸収していった。
ただ、メイドの心得だけはよくわからないらしく、お嬢様が大切じゃだめなの?と首をかしげていた。
そもそもシアはお嬢様と配下契約を交わしてないからな。交わしたのはオレ。オレを契約の魔方陣にくぐらせたんだからな。
そう言うとシアは「ん。」と返事をする。
わかっているのかいないのか・・・
しかし、契約を交わしたはずのオレでさえ、ギルギットの心得の話しは納得できたとは言いがたい。
もしシアとお嬢様がピンチだったなら、オレは必ずシアを救う。オレにとってシアは大切なもの。掛け替えのないもの。シアはオレの娘であり、命を預ける相棒なのだから。
配下としては間違っているのだろうと思うが。
メイド長に世話になっているわけだが、そのせいで割りを食っているメイドもいるのである。
リッテラッテの二人だ。
メイド長がシアにかかりきりになった分、仕事が増やされた二人であった。
「気に入らないわ」
「気にくわないわね」
早朝(夜)である。
以前シアがやらされた朝の仕事は、今は二人の仕事になっていた。
新しいメイドが増えて解放されるかと思っていたあれこれが、減るどころか増えるありさまである。
それなのに件のシアはベッドの上で毛布にくるまりスヤァと寝ている。
怒り心頭である。
殺気だった視線を向けながらも二人は身支度を進めていく。毎日のルーティンワークで体が覚えてしまっていた。
「気に入らない・・・そうだ、仕事で痛い目にあわせてやりましょうよ」
「そうね、痛い目にあわせてやりましょう」
寝ているシアを見下ろしながらヒソヒソと計画を練る二人。
しかしシアにはオレがいるのである。
二人の計画はまるっと筒抜けだった!
全部まるっと筒抜けだった!
睡眠を必要としない体になって、夜が永いことが一番の苦痛だったのだが、こうして役にたてる機会がめぐってきてよかった。
本当に。




