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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
198/222

閑話 魔王


閑話 魔王



殺せ


声が聞こえる。


殺し、そして還元せよ


そう、自分の頭の中で声がする。



最近は一日が早くすぎるような気がする。

魔王になって、体がかわり、今まであったいろいろなモノへの情熱が無くなってしまった。

配下を強化するべく奔走していたことも、魔族すべてが配下になった今、そんな面倒なことをするのにあきてしまった。

スキルや戦闘技術を研鑽することも、配下が強ければ一足飛びに強くなれるわけで、これもあきてしまった。

金を稼ぐことも必要ない。豪華な城で金品財宝に囲まれていくらでも生活できるのだから。

ただ


声がする


その声にだけ、自分は従っていればいい。



「魔王様、次はどういたしましょうか。人間がこの城を目指してやってきているようですよ」

その赤毛の少女は最近配下の魔将が連れてきた少女だった。

「リッチにまかせればいい」

「・・・リッチ様は亡くなられました。あとは賢者ロンメル様とグラフェン様と私たちしかいません」

ロンメルが戻っていたか。けれどあれは守りにしか役に立たない。人を滅ぼすには力不足だろう。

「・・・・・・人がここへ攻めてこようとしているのですから、守りでもよいのでは?」

「・・・我が望むのは人の殺戮だ。・・・思い出した。リッチは良い仕事をした。リッチと同じようにロンメルに仕事をさせればよいだろう」

「リッチ様につけた首輪は失われました。ですが、ロンメル様を魔王様が焚きつければ可能かもしれません。ロンメル様を呼びますか?」

それもいいだろう。

だがその前に確認したい。

「・・・お前がやればよいのではないか?」

「・・・・・・」

その赤毛の娘が黙る。

「覚えている。お前の固有スキルは殺したモノの固有スキルを奪うものだろう。ならば、使えぬロンメルのスキルを奪い、お前が人を殺せばよいではないか」

「・・・よろしいのですか」

驚いた顔でそう聞かれる。

確かに配下を殺して能力をあげろ、などという命令はありえない――ありえなかったはずだ。

配下を大切にしない魔族などいない。けれど、今はそれよりも優先されることがあるというだけのこと。


殺せ

滅ぼせ


そう。大切なことがあるのだから。

「かまわぬ。もしお前がやると言うのなら、我を殺してスキルを奪うことも許可しよう」

「魔王様っ、何を言うのです。そんなことはおっしゃらないでください。・・・それに、配下のいない私では、魔王様の固有スキルをいただいても、使いようがありません」

《指揮下支援》

自分の固有スキルは配下以下すべて者の力と、魔力を上昇させるものだ。

自分の力をあげることができない、役立たずのスキル。

この娘もそんなスキルはいらないと言う。

おそらく――歴代の魔王のなかでも、自分は最弱の魔王だろう。

自分では戦えない魔王。なんのために自分はいるのか。


滅ぼし還元せよ


あぁ、そうだ。殺させるためにいるのだ。そのためだけの存在。

「・・・ロンメルを呼べ。やつが使えるか使えぬのか確かめる」

「はい。わかりました」

使えぬようなら・・・代わりの者にその役割をまかせよう。



赤毛の少女の後に、右肩から木を生やしたゴーレムが歩いて来た。

「きた」

「・・・そのようだな」

ゴーレムから声がしたが、ロンメルの本体は生えている木の方だ。もっとも、神樹の種をとりこんだゴーレムが元らしいから、ゴーレムの精神が入っていないとはいえないが。


「なに」

「間もなくこの真都に人の軍勢がやってくる。どのような方法でもいい。やつらを殺せ」

「・・・毒、なら」

植物性の毒を広域に散布するということか。

「かまわぬ。それで多くの人を殺せるのならな」

「・・・死ぬ。けど街も」

「殺せるのならかまわぬ。だが、どれほどの被害が期待できる?」

ロンメルはしばらく黙考すると首を傾げた。

「いっぱい、いれば」

「・・・・・・そうか」

期待できそうにない。

植物性の魔物を操ることができるというが、その操り主がこれでは戦果は低そうだ。

これならその固有スキルを赤毛の少女に持たせた方が有効につかってくれそうではある。


「・・・ロンメル、他にできることはないか?。貴様が我の役に立つ、そういった能力はないか」

「ある」

「ほう?」

「遠く、見れる」

ロンメルはゴーレムの右手を上げるとそこに透明な実を生やした。

実がこぶし大より大きくなると、何か景色のようなものが実の中に見えてくる。

人間だ。

人間たちが列をなして進軍してくる様子が見える。

この能力は遠くの相手の様子が見えるのか。この能力があれば毒をまくタイミングも計れるのだろう。

能力と毒。二つあわせればかなりの戦力になる。

しかしそうなると、この能力をいかすにはロンメルは後衛の戦力として使うのがいいだろう。

戦闘戦力が欲しかったが難しいものだ。

だがやはり能力が面白い。これは・・・確かグラフェンの所に賢い獣人がいただろう。あれと組ませれば有効に使ってくれると思う。

あれは今どこにいたか。

確か真都の民に”種”を蒔いてくるといって出て行ってそのままだ。

種・・・もうすでにロンメルと仲がいいようだ。

役に立つのならそれでいい。



ロンメルから渡された実は、今も景気を映す。

一週間はしなびず、人間の兵士たちの姿が見えるようになっているらしい。

便利だ。

どうやら奴らは外環部城壁を守るゴーレムにてこずっているらしい。

足元まで来ては撤退するというようにゴーレムの性能を探る偵察をしている。

時間稼ぎの役割はしっかりこなしているようだ。

「・・・・・・人間は弱い。けれどなぜこれほど魔族が負けるのか」

成人した人間と魔族を均一にしたときの能力を考えても、人間は魔族の半分ほどの能力しかない。

なのに魔族は負ける。

横の連携が弱いのもあるが、それは配下契約によって対等になっている。ならば数か。人間は魔族よりも数が多い。代わりに魔族は熟練度上限が高く、スキルの性能が高い。

魔族のスキル数に制限はあるとはいえ、それはそこまで不利になることではないはずだ。

だが・・・そういった小さな積み重ねが負ける理由になるのだろうか。


「・・・・・・」

果実をのぞく時間が増えている。

人間の弱点をさぐるため、次の作戦を察知するためにのぞき見る。

「・・・・・・」

集団によってより強い相手に打ち勝つ。

知っている。

知っていたはずだ。

この戦い方を、自分はよく知っていたはずだ。

なぜ、忘れていたのか。


殺せ


殺して還せ


魂を・・・元素を


根源に還元せよ


人間も魔族・・も すべての生命を根源へと


声が聞こえる。

そう――殺すためだ。

そのためなら配下など

仲間など


心が沈む。

熱が凝り固まり心が振動を失っていく。震えることを忘れていく

心が止まり、自分ではない何かへと――


果実はまだ、映像を映していた。

兵士を映していたはずだが、別のものが映っている。

敵のテントの一画ではあるらしい。

人間の女が男どもに囲まれ、おもちゃにされている図だった。

着せ替え、塗られ、梳かされ、いいように弄ばれている。

「・・・・・・・・・・・・」

違和感があった。

この画像だろうか?、いや、どこか・・・どこかわからないが、違和感がある。

何かがおかしい。

何とかしなくてはまずいことになりかねない。

そう。いつもの声が聞こえない。だが。

声が

声が――

「・・・・・・・・・・・・ぶ」

声がもれる


「ぶひいいいいぃぃぃーっ!」


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