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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
197/222

真都 潜入


 穴を掘る。

 《虚無弾》でどんどん掘る。

 最低限ジェフリーのずうたいが通れるだけの大きさはなくてはいけない。なので1メートル50センチはほしい。ジェフリーには四つん這いになってでも通ってもらうとして。

 どんどん掘る。

 穴の補強はジェフリーの防御スキルだ。

 盾を地面につき立てることで一帯の強度を上げる範囲スキル。

 盾をいくつも切り替え、一時的ではあるが安全な通り道を作ることができる。

「方角は?」

「このままあと二回。そのあと右に変更します」

 羅針石と地図を持って方角を指示するのは王子だ。シアは言われた方を掘る。

 掘った穴を盾をかかげたラザン将軍とジェフリーが進み、穴の真ん中でジェフリーがスキルを使う。

 それから待機していた王子シシールエステラができたばかりの穴へと進んでくる。最後尾の人間はジェフリーがスキルに使った盾を引っこ抜いてくるのも役目だ。

 そんなことをもう何回やっただろうか。

 流石にみんなの表情に疲れの色が見える。


「はぁ、はぁ、少し休みましょう」

 王子の提案で一同は地面に腰を下ろしたり、壁にもたれかかったりしている。

 戦闘や訓練とは運動量も少ないはずだけど、人間は地中を生きる生物じゃないからなぁ。

「そういえば、合流する女性とやらはどんな人なんですの?」

「うっ」

 待ち人のことを話題にしただけでシシールが胃をおさえていた。

「・・・・・・シシール様?」

「う、す、すまない。いや、あいつと会うことを考えると、どうにも気が重くてね・・・おれがどんなやつなのか説明しようか」


 エステラがうなずくとシシールがゆっくりと話しはじめた。

「あいつとは王立学園のころの同期でね。名前はフォルト。字名はない、純粋なエルフ族の女性でな、これがやたらと性格が悪い奴で・・・」

「それはお主にたいしてだけだろう」

「だね。シシールにだけはあたりが強かったよ」

「・・・エルフらしいエルフで気位いだけは高いやつでね、ダークエルフやドワーフをやたらと嫌っていてね。そのせいでずっと成績でははりあってくるし、廊下ですれ違うと舌打ちされるし、かばんにはヘビの死体をいれられるし、たまに机の中に毒草をいれられてたこともあったなぁ。・・・まぁこれは月に一回くらいだったけど。けど要領はいいんだ。美形だし、背が高めのスレンダーでね、女生徒たちからは人気でよくラブレターをもらってたなぁ。ただ、あいつ自身は普通に男性が好きな乙女だったからか、ダリウス王子にあこがれてるようなところがあったな。・・・そのせいで王子の近くにいたおれはあいつに目の敵にされてたなぁ・・・」

 胃に穴が空きそうな話だな・・・。

「あいつを語るうえで一番強烈なエピソードがあるんだ。あれは冬になりはじめたころ、北へと渡るハクホ・・・鳥の群れから置いて行かれたらしい一羽のハクホの子供をひろったんだ。長距離を飛ぶには体力がなかったんだろうな。置いて行かれてこのままじゃ冬はこせないかもしれないってんで、簡単な契約魔術を結んで飼うことにしたんだ。初めは人に慣れなかったハクホがだんだんと慣れてきて、おれの手から餌を食べるようになったりなでさせてくれるようになったりしてな。かわいかったな。けれど聖誕祭が近づいたある日、いなくなったんだ。契約も切れていた。オレは慌てて探しに歩いたんだが見つかりようもない。契約が切れてしまったならたぶん死んでるんだろうと探すのをあきらめたんだが、次の日、見つかったんだ。どこだと思う?」

「・・・わかりませんわ」

「学園にある、おれのロッカーの中に。血抜きされて吊るされてたな。あいつがやったという証拠はないが、矢傷があった。オレより弓の腕がいいのはあいつだけだ。おれは悲しいよりもぞっとしたね。あいつは嫌いな相手にはとことん非情になれる冷血なやつなんだってね」

 ・・・なんというか・・・精神に問題がある人物のような話なのだけれど・・・。

 王子はどうしてそんなのを仲間にして、しかも大事な任務をまかせてるんだ・・・?。

 いや、情を持たないような人材だからこそ、現在のいかれた魔族の領土でもうまくたちまわれているということか。

 こわいわー


 ガクブルしている間にみんなの体力も回復しただろうか。

 薄暗いが、エステラの明かりに照らされるみんなの表情をみると、回復・・・

 してないな。

 なにか息苦しそうに見える。


「・・・空気が薄いかも」

 それだ。

 暗いし、湿気と熱気と閉塞感もあるだろうけど、本当に空気が薄くなってる恐れがある。

 《虚無弾》でできた穴は土がなくなっただけなので、土が空気に変わるわけじゃない。後ろがどうなっているかわからないが、崩落して穴が埋まっていた場合、穴を進めれば進めるほど空気は薄くなってゆく。

「そうですね・・・少し上に穴を開けましょうか。一回斜め上に道を作ってから、虚無弾を一発だけ上に向けて撃ってみてください」

 シアは言われた通りに斜めに足場を作ってから、その足場を盾で保護し、穴の先に進んでから上に向けて一発だけ《虚無弾》をうった。


「・・・すずしい」

 穴から空気が下りてきたらしくシアの髪がゆれる。

 シア、シア。ちょっとオレを穴に入れてくれ。地上までの距離を測りたい

「ん。」

 シアに持ち上げてもらったが、全然距離が足りていなかった。

 うーん・・・空は見えているけど遠いなぁ。思ったより深いところを進んでいるらしい

 それがわかれば十分か。

 と、穴の途中で何かが動いた。

 ん?・・・ん?

 目だ。

 土の中に目がある。

 目があった。土・・・いや根っ子だ。根っ子に目が生えてる。芽じゃなくて目が。

 ・・・・・・シア!目だ!

 シアはオレをもどすと、穴を降りてみんなに合流する。

「敵にみつかった。パパが」

 そうだけど、そうだけどー!

 うぅ、すまん。でもあんなところに目があるなんてわからなかったんだ。

 天井から土が落ちてくる。

 ジェフリーの防御スキルを抜けて根っ子が穴の天井に這い出ていた。

 そしてさっきと同じように根に目ができる。

 明確な意思をもって、この根っ子はオレたちを見下ろしていた。

 オレの刃が一閃し、根をたつ。けれど一時的なものだろう。根っ子が再び伸び始めていた。


「穴を地上にあけるわけですから、見つかる危険はどうしてもあります。今はみつかったことに気をやまず、合流を急ぎましょう」

 王子の指示で急ぎ目に穴を掘り進める。もう何回かの《虚無弾》堀りのあと、穴の先が何かの空洞につながったのがわかる。

 空気が前から後ろへと流れている。シアは王子に目を向ける。王子はうなずいてから、小声でエステラに光を消すようにいう。

「シアさん、警戒しながら様子を見てください。合流場所は枯れ井戸で、ふちに白い布が結ばれているはずです」

 シアは様子をうかがいながら穴の先へ足を進める。

 石積みが縦にのびる・・・井戸だ。下は埋められ、石でふさがれている。

 どうやら王子が言う枯れ井戸のようだ。

 そして上を見ると井戸をおおうように造られた木造の屋根と・・・井戸のふちに白っぽい布が結ばれていた。

 他には何もない。気配も、音も、怪しい物は特にない。

 シアは王子に手旗で安全であることを知らせる。王子は井戸の中に入って来ると、上に向けて小さく口笛を吹いた。

 ・・・しばらく待つと上から縄梯子がたらされる。

 シアはエステラに合図し、井戸の中に《影縛り》の鎖を展開させ、それを足場に――しようとしてずっこけた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 闇無効だもんな・・・これは恥ずかしい

 横で見てた王子の表情も微妙にひきつっているし。

 シアは無言で縄梯子を掴み、登りはじめる。


 井戸のふちからオレの刃先をちょっと出して引っ込め、また出す。・・・うん。誰もいない。梯子を落としたやつも見えないな

「・・・・・・ん、いない。王子、あがる」

 シアはささっと井戸から上がると井戸の前にたって周囲の警戒をはじめる。

 次々上がって来る仲間たちも周りの様子をうかがっている。ここは――どうやら工房の片隅に作られた井戸らしい。

 大きな建物の横にあり、そして周りを塀で囲まれている、他から目につきにくい井戸だ。

 建物の窓から室内をのぞくが、中には何もない。井戸が閉じられていたことを考えると工房としてもつかわれなくなった場所らしい。


「きたね、王子。ひとまずみんな中に入って」

 近くから声が聞こえる。けれど誰もいない。

「エルフの御業だよ。木々に紛れるスキルらしいけどね。ダークエルフが木を加工するスキルを覚えるのとは違う、自然に自分を一体にするスキルだな」

 シシールがそう教えてくれる。

 チッ と、どこかから舌打ちがおこる。

 ・・・いる。確かに説明された彼女がいる。

 エルフ、そうか。自然に隠れるスキルがあるのなら、こういった役割にも向いているのかもしれない。

 いないはずの場所から突然に現れたりするスキルは、確かに昔見たことがある。ミルゲリウスのおっさんの部隊にシアが捕まったとき。あれもエルフがかかわっていたのだろうか。

「あとあれも。魔王の就任の式典の時。魔王を攻撃した矢を、誰が射たのか」

 ・・・あぁ。あの時、矢が射られなかったら・・・、シアとエステラはどうなっていたのか。

「・・・あのとき、助けてくれて、ありがとう」

「・・・いいや、助けたつもりはない。魔王をあそこで殺せなかったのは私の落ち度だ。君はたまたま、そこに居合わせただけだよ」

 近くの茂みから這い出してきたのはきれいなエルフの女性だった。這い出す姿とのギャップがひどい。

 服が・・・土まみれなんですが。自然と一体ってそういう?思ったよりも体を張った種族なのかもしれない。

 きっと胸が薄いのも一役かってるだろう。

 うん。”エルフ”って感じの胸囲だった。

「・・・・・・」

 シアの視線が痛い。

 さて!


 這い出すまではそこにいることに気が付かなかったが、確かに動き出すといた、ということに気が付けた。今まで気が付かなかったのが不思議な感じだ。

 服についた土をはらうと彼女の姿が改めてわかる。魔族に多い服を着ているが、ところどころ一部に緑の布を使って清涼感を残している。・・・この緑が隠れるのにやくだっているんだろうか。

 迷彩服姿のエルフ――フォルトに誘導され、建っている建物の中へと入る。

 廊下を歩き、窓の無い部屋に入る。最後の一人が入室し、扉がしまるのを待って、フォルトは置いてあったランプに火をともした。

「ここは光がもれません。話し声も。唄の練習がしたいのであればすすめないけどね」

「お久しぶりです、フォルトさん。今までの潜入任務、ありがとうございます。そしてこれからの作戦の概要をおねがいします・・・できれば手短に。地中で敵らしき相手に我々の存在がばれてしまいましたので」

「ヴァーダリウス様・・・!。この身、この心、すべてあなた様のために役立ててみせましょう。そのためならば土に這いつくばろうとも作戦を成功させてみせる!」

「え、ええ。ありがとうございます。・・・それで、少し時間がありません」

 微妙に再会のハグを要求しているフォルトの腕の動きに気がついているのかいないのか、王子は作戦の侵攻を優先していた。


 フォルトはハグをあきらめたのか、少しだけ悲しそうに肩をすくめた。

「・・・わかった。地中に敵の虫でもいたのか」

「根っ子です。ねっこに目玉がありました」

「・・・《大森林の賢者》ロンメル・イルクレアだな。樹木などの魔物を好きに操る・・・エルフの敵対者だ。いそごう」

 部屋の中央のテーブルに、城を中心としたの大まかな地図が広げられた。

「ロンメルがいるなら庭園からの侵入は危険だ。食糧倉庫からいこう」

 地図の一つを指さすが、地図には食糧倉庫が3個ある。

 大所帯でも食糧難にならないための倉庫かな。

「・・・迷路みたいな城ですね」

「歴代の魔王が好き勝手に増築を行っていたらしくてね。城なのか城ではないのかもよくわからない有様らしい」

 支配者の入れ替わりがそれだけ激しいということか。

 というか、『魔王』とはどんなやつらなんだ?。先代の建築を引き継いで城として完成させようと考えるやつが一人もいなかったのだろうか。

 今のエピソードだけ聞くと自分勝手で頭がよさそうに思えないんだけど・・・

 魔王ががっかりでないことを祈ろう。


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