新しいスキル
魔族との戦争に非参加を謳っているアクリアとメリーエはユエといっしょにいた。
ベルティナ嬢の天幕の一角でいつの間にかやってきていた商人群からもみくちゃにされているユエを眺めながら、疲れた表情をうかべている。
「アクリ お姉ちゃん・・・?、どうしたの」
「あぁ・・・シアちゃん。ちょっとね・・・魅力目標達成のために、ちょーっとお姉ちゃんも身を切ってみたのだよ」
聞くと、伝説の仕立て屋がやってきていてベルティナ嬢のドレスのかわりにユエのドレスを作ってくれることには承諾をもらえたらしい。
しかし魅力100など無理だと言う仕立て屋に、本当に無理なのか、どんな素材でも採ってこれる、任せろ。と言ったところ彼は口ごもりながら答えた。
「この少女の不思議な髪色に負けぬ輝きを放つなら・・・美しい竜のうろこであれば、あるいは」
うん。
緑龍の蒼く、緑に輝くウロコと、何色だか忘れたが美しかった星くじらのウロコ。
その龍のウロコなら、ユエの色の変わる髪にも負けぬ美しい衣装を作ることができるだろう。
「何枚くらい・・・?」
「いっぱい剥かれたよー・・・。加工から方法を探さないといけないって言われて、実験する分も必要だからってさ。私はしばらくウロコが生え治るまで龍体に変身できない体にされちゃったよ」
どうせ自然治癒力ですぐだろうに。
「よよよ」
妹分にかまってほしくてウソ泣きをしているアクリアを気にせず、シアは持っている杖を突きだして聞いた。
「スキル、鑑定して」
「よよ・・・、おや。面白い武器を持ってきたね。ついているスキルは三つ。魔属性魔術《増加》、無属性魔術《最終詠唱》、そして固有スキルとして特《代償魔術》」
固有スキルのある魔道具か。本当に聖剣並みのレア装備だった。
「《増加》は普通の中級魔術だね。ステータスの”魔力”を増加させるバフスキル。《最終詠唱》は上級魔術。このスキルの効果後、しばらく魔術が使えなくなる代わりに次に使う魔術だけ威力・効果が3倍になるスキル」
魔道具や特殊輝石につく魔術は中級までだと思っていたが、上級がつくこともあるのか。とんでもないなぁ
「最後の《代償魔術》は魂値の消費機会の多いスキルだね。めずらしいな。まず、魂値を使って発動する。と、30秒間だけ魂値を消費して魔術が使えるね。威力は3倍でね」
発動に魂を。そして続く魔術の発動にも魂を消費するわけか。
調子にのって魔術を使いすぎるとすぐ死ぬわけだな。
「ん。これなら・・・パパが《魂吸収》できるはず」
《代償魔術》か?。魔術ではないから魔力がないオレでも発動できる。そして魂値がいっぱいあるから発動しても問題はない。けれどスキル中に使う魔術の消費魂値は魔道具の所有者自身がはらうことになるんじゃないか?オレが魔術を使うわけじゃないからな
「・・・パパにはまだ《変化》の対象になってないスキルがある」
あるな。《風刃》と《円舞陣》のクールタイムはまだ代償にささげてない。・・・行けるな。
うん。魂値消費を魔素消費に書き換えればいいんだ。
よし、やれシア。
オレが吸収することで大分安全に使えるスキルになるぞっ
「んっ。」
ギャギン
という破壊音を響かせ、『魔導王の短杖』はバラバラにされた。
うむ。悪は潰えた
「ん。パパ、スキルが増えた。ストックに《最終詠唱》、特に《代償魔術》」
二つか。けど片方は魔術なのでオレには使えない。
そして問題の《代償魔術》はこんな説明があった。
<要魂値。15s時間の上級までの魔術を魂値消費により行う。魔術威力増加100%>
アクリアの説明では30秒の威力増加3倍・・・増加200%だったろうから、吸収で半分になっている。
・・・消費量は半分にならないのか・・・。
しかし上級までの魔術が倍にしかならないスキルとなると、・・・2発うてばよくない?と思ってしまうな。まぁリッチの《代償魔術》を使った時の効果を考えると、単純に3発分とはいいがたい性能があったけれど。魔術の射程や持続時間も3倍になるのかもしれない。
などと考えつつ・・・たとえばこう
「パパ、変わった」
え、いけたか?
スキル《変化》を使いながら、文面の変更を試していたのだが・・・一回目の試作でいけたらしい。
「・・・・・・あー、そういう変更しちゃうんだー。シアパパ君は怖いなぁ。もたせちゃいけない子にあってはいけないスキルを持たせてる気分だよ」
アクリアがニヤニヤと目を細めながらオレを見ている。
いーやー見られてるーっ
エッチな!
そんなステータスが丸裸にされているオレだが、スキルはこう変わった。
<要魂値。15s時間の上級までの魔術を消費なしにより行う。魔術威力増加100%>
☆撃ち放題☆
やったね!
面白いことができそうなスキルになった。
ちなみに代償にしたのは《風刃》のクールタイムだ。
30%OFFで21秒ごとに撃てるようになった。フヒヒ
とりま、新スキルの試し打ちといってみよう。
陣の囲いの外に生えている青い木にむかい、オレはスキルを発動する。
《代償魔術》っ
続けてシアがスキルを使う。
「《夜槍》」
一詠唱で五つの方陣を描き、五本の《夜槍》が木へと飛翔する。
威力が高いな。30メートルしか飛ばないと言っていたスキルだったが、おそらく50メートルは超える速度が出ている。
そして槍の長さ、太さも今までの倍はありそうだ。
狙いをつけない適当詠唱だったためか、当たったのは一本だけだったが破壊力は申し分ない。木は幹の途中で折れ、音を立てて倒れた。
シア、消費MPはどうだ?
「ない。まったく減ってない。」
よーし。
このスキルがあればあのゴーレムも倒せそうだな。
「・・・でも15秒しかない。《代償魔術》は《龍変化》と同じだと考えると、たぶん一日一回。一日一体ずつ倒す?」
うーん・・・まとめて倒す方法があればいいんだけれど・・・。速攻で倒していけば15秒で全部いけるか?シアの足の速さだと15秒でどこまで走れるか。それに使う魔術か・・・。
《虚無弾》だと着弾までが遅いせいで倒しきれるかわからないしなー・・・
あぁ、もっと当てやすい魔術があるな。
シア、アクリアに聞いてくれ。
「ん?」
ゴーレムや錬金魔術のことを知ってるかもしれない。
本来ならディーに聞きに行くはずだった話しだ。
攻略のとっかかりだけでもつかめればいい。