魔将の遺品
現在護衛任務なディー・ロームがいるはずのベルティナ嬢の天幕にきた。
「ディー様ですか?、確か少し前に「うむ」とだけ言って外に出ていかれましたわよ」
・・・・・・うちのパーティーメンバーはコミュニケーションに難があるのがおおすぎやしないか?
「パパが?」
はははははっ・・・・・・そうね。
シアとしか以心伝心できないのはいつかどうにかなるんだろうかね・・・。
それはさておき。
天幕の外に出てディーを探す。
どうやら昼寝でもしているらしく、地面に敷物をしいてそこに寝転んでいるディーを発見した。
「おじい様。少し・・・」
ディーアの言葉が途切れる。
寝ているはずのディーは少し体色が白く・・・・・・死んでいた。
ピクリともしない。
呼吸も、体動も、脈動もなく、ポックリしていた。
・・・・・・え?
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・ギャグ?
・・・・・・
ひょっこり生き返ったりは・・・えぇ?
「おじい様はそうそう死なないとおもいますが・・・死んでいますね」
死んでるね。
「ディー?、おきて」
シアがまだ硬直しきっていないディーの体をゆさゆさとゆする。
・・・・・・しっかりと死んでるな。
これ、どうするんだ?死因を探った方がいいのか?、また変身能力を持つ魔物が入り込んでるかもしれないしな。とりあえず誰か人を呼ぶか。
ひとまず方々へ連絡をいれることにした。
王子や治癒魔術師やベルティナ嬢の護衛が忙しく行ったり来たりして簡単にだが送りの儀式がとりおこなわれた。
アンデッド化しないように燃やされるディーの体を見て、本当に亡くなったのだと実感する。
儀式が終わり、故人を悼む時間が訪れる頃、問題の死因の話になった。
死因はディーアが解明していた。
「シア様がまっぷたつにしたこのリッチの杖ですが、これは伝説級武器、『魔導王の杖』。使う者の魂を代償に、上級以下の魔術を数倍の威力にすることができる杖です」
「ディーが、拾ってたの・・・」
今、目の前のテーブルにはディーの遺品の一部がひろげられていた。その中の一本、柄の部分で上下二つに分かれた杖をディーアが持ち上げている。
まっぷたつにした杖は戦闘後、誰が持って行ったのかと思っていたが・・・・・・ここか。
ディー自身が持って行ったのか、それとも魔道具にくわしそうということで誰かが持ち込んだかはわからないが、どっちにしろ死霊王リッチの秘蔵の杖ともなれば、魔術に長けたディーなら垂涎の一品だろう。
そしてさっそく杖のスキルを試して――代償の重さに耐えられず、やられてしまった、ということか。
もともとあまり生命力がなさそうな魔将だったからなぁ。普通は魂値を代償にするスキルでも、減りっぱなしってことはない。しばらくすればすり減らした生命力が回復してくるはずなのだ。
けれど、老い先短いディーには魂値の最大値が成人の最大値と違い、低かったのだろう。もしくは”技”スキルとかとは違い、この『魔導王の杖』が魂値を大量に消費するスキルかもしれず、その消費量に見合うだけの魂値が用意できなかったのだ。
はぁあ・・・なんとも運のない魔将がいたもんだ。
「おじい様も十分生きたでしょう。その長い生立ちの最後に、意外性を求めてシア様の配下になったんです。ここ最近はずっと楽しそうにあなたのすることを見守っていましたし、きっと悲しんで死んだのではないと思います」
そうかなー。魔王との戦いの一番いいところを見ずに亡くなったんだ。きっと心残りだろう。
「ん。まぁ、ディーならそれでも満足だったと思う」
・・・おぅ。
「・・・はい。あ、そうだ。後でおじい様の残した魔道具類を分配しましょう。シア様と配下でわけてしまいましょうね。いくつか面白い物もありますので楽しみにしていてください」
孫は切り替えが早かった。
ともあれ、魔道具か。もらえるのはうれしいが、まず目の前にあるこれ、『魔導王の杖』だ。
まさかまっぷたつになっても効力を失っていなかったとはね。
「パパ、魔道具は打ち直せる」
そうだった。
魔道具ならそうだな。魔道具の剣を短剣に打ち直ししても機能はそのままなように、杖の柄の部分を切っただけじゃ長棒が短棒に打ち直されたようなものでしかない。
『魔導王の杖』改め、『魔導王の短杖』といったところか。
リッチが使い、そしてディーを死に至らしめた杖。
割と危険な武器である。
「・・・・・・んー・・・」
シアが眉間にしわをよせている。
どうした、シア。こうなると”曰くあり”の武器だし、エステラにもディーアにも持たせるのは危ない気がするが・・・もしかして自分のサブ武器として使うのか?
パパとしては一抹の不安があるが、”龍核”のあるシアなら魂値の消費にもそんなに危険はないかもしれない。
「決めた。ディーア、この杖、私がもらう。」
「はい、いいですけど、ええとそもそもこの武器の持ち主はリッチでしたし、そのスキルを破るきっかけになったのはシア様ですから、本来はシア様がもらっても良かったわけで・・・」
「いい。ディーの遺品はディーアの裁量で好きにして。私はこれをもらう」
「は、はい」
シアはそれだけを伝えて杖をもらい、ディー・ロームの儀式台に背を向ける。
歩き出すシアの足取りは速い。どうやら行先がきまっているようだった。
どうするんだ?、きちんとした鍛冶屋がいるわけじゃないが、短杖として細部を整えてもらうのか?
シアは首を振った。
「アクリアに視てもらった後、破棄する」
破棄て・・・
伝説級の武器をか。
それはちょっともったいないが・・・一つの用法間違いで仲間を死なせる武器じゃ、無い方ががいいかもしれないな。
「・・・まず、アクリアに診せてから。それによっては、パパにスキルを増やせるかもしれない」
”聖剣”を吸収したようにか。
魂を犠牲にするスキルが付いた武器なら、オレがその武器の魂を取り込めるかもってわけか。