筋肉支配
ユエの魅力はひとまず目処がたったのでまかせることにして、王子軍は魔族領真都に近づいていた。
リッチ討伐以後、軍を邪魔するものはほとんどなかった。
泥のゴーレムを連れた魔物たちばかりで、魔族はほとんどいなかった。
ちなみに泥は焼くか土魔術で固めておいた。また蔦が生えてきても困るので。
先行している偵察部隊からは魔族の存在が確認されている。なら、これはあくまでも時間稼ぎの兵隊であり、決戦のために戦力を温存しているのだろう。
――夏の終わり。
いつのまにか秋が始まろうとしていたその時期にようやく一同はその都を目にすることができた。
そして真都をどうこうという感想が湧くよりも、よりももっと早く・・・
超巨大なゴーレム4体が目にはいった。
「・・・ゴーレムだな」
「そいやおっきいゴーレムがどうとか報告があったな。あれ本気だったのか」
「前の竜より大きくないか。っても、また勇者様が氷弾でなんとかするんじゃないか?」
「ああいうの、どっから連れてくるんだろうな・・・」
ゴーレムの大きさは高さ20メートル、幅が25メートルくらいだろうか。ロボットアニメのロボットくらいの高さだが、横幅のおかげで大分大きく見える。
手前にしげる青い木々がただの茂みにしか見えない。ちなみに青い木々は魔族領でよく生えている木々であり、わりと魔物の一種だったりする。動きが遅いので人間たちも、もう誰も考慮しなくなった魔物だが。
ゴーレムの後ろには真都を囲う外壁が街を覆っている。その外壁にのうえに、杖と弓を持った魔族の兵が多数みられた。
・・・ゴーレムを処理しないと真都の外壁までたどりつけなさそうだな。
しかしあのゴーレム、今までの泥とちがってしっかりと石で体を作っているようだ。レンガみたいなものが交互に組み合うようにして体を覆っている。
ゴーレムならダンジョンでも何種類か倒したことがあった。
オレの攻撃であれば普通に壊せるだろう。それに《虚無弾》も効く。大きさには圧倒されるが怖い相手ではないはずだ。
「主様、王子から攻撃の要請がきましたよ。以前火竜をたおした攻撃をやってみてほしいとのことです」
後方にいたはずのディーアがそう言いながらシアの所まで歩いて来た。
火竜の頭を吹き飛ばした攻撃はディーアが氷の塊を作り、それをシアが《縛縄》でオレに結び、力任せに投げるのだ。
というわけで。
やってみた☆
一つ目の氷を投擲し、でっかい標的をはずすことなく直撃する。ゴーレムは防御のつもりだろう、両腕を前に出して氷をふせぎ、そして・・・両腕を粉砕された。
肘の手前あたりまでの石がなくなり、骨組みであろう内部芯が露出していた。
「たくさん投げれば壊せそうですね」
「ん。一体倒すまでに何個投げればいいか数える」
そうして氷塊二個目を用意するが、
「お、おい、あれ」
「何してるんだ?」
シアから少し離れて待機していた兵士たちがゴーレムの方を見てざわめきだした。
見ると、両腕を無くしたゴーレムが残った内部芯を地面に刺し、そしてゆっくりと引き出している。
引き出した腕は、茶色い土でできた腕だった。
・・・・・・再生してやがる。
石造りだった腕が土の腕になっているので劣化しているわけだが・・・こうなると話がかわる。ゴーレムのHPが100として、さっきの攻撃で15減ったとする。けれど7回復されたらHPを0にするまでどれだけの氷塊を投げなければいけないのか。氷を作るMPだって無限じゃない。ディーアはリッチとの戦いの時に火の最上級魔術を使っている。今はその分でMP総量が少ない状態なのだ。
シアはオレを振り回し、二弾目を放つ。
氷塊はさっきと同じゴーレムにむかって飛び、再び両腕で防がれた。けれど土の腕では防ぎきれずそのまま腕を粉砕し、ゴーレムの胴体にあたる。
ゴーレムの胴の一部を破壊するが・・・ゴーレムは両腕を再びなおした後、地面の土をかき集め自分の体にくっつけた。
うーん・・・
あんまり効果を感じない。
MPもったいないからやめとくか?
「んー・・・、ディーも呼んで土魔術で岩を作ってもらえば、もっと投げれるけど。・・・相談しよう」
「そうですね。あれはちょっと厄介ですね」
ちょっとなのか・・・まぁ、最上級魔術もあるし倒せないことはないんだろうけど、魔術を使わないならどうするか。全兵士の持つ”技”スキルをありったけ叩き込むか。
できなくはない。というか、おそらくそうやって一体ずつ倒していくことになるだろう。
「ディーア、あれを造ったのは誰か知ってる?」
「知るわけではないですけど、おそらくなら。ゴーレムは錬金魔術で製造するので魔将・グラフェン・テスラー様でしょうね」
自分の知識と合わせても、ゴーレムやホムンクルスは錬金術の創造物だ。なのでグラフェン・テスラーで間違いはないだろう。
ただ、今までのグラフェン・テスラーの作成例から考えると、あれはゴーレム素材単体とは思えない。きっと別の生物の特性をもっていたりするんだろう。
体・・・いや、外側の部分を別のモノで代用するあの様子は――殻を交換するヤドカリみたいなものか?。もしくはミノ虫だな。
さて、どっちにしてもあれがゴーレムであるなら体のどこかにゴーレムをゴーレムたらしめる文字が描かれていて、その文字の一文字目を削るとゴーレムが土くれにかわるはずだけど―・・・そんなあからさまな弱点があるわけもない。グラフェンさんはおっちょこちょいではないのだ。
まぁ、別世界の錬金術の知識がこちらの錬金魔術の知識と同じともかぎらないから、体に文字が書かれてるかもあやしいが。
泥ゴーレムには文字なんてまったくなかったからなぁ。今度のも別の倒し方を考えないといけないだろう。
「ですが、どうやって土を補充しているのでしょうね。独立した魔術方陣が組み込まれているのか・・・そもそも魔素はどこから?。いえ、ゴーレムという”種”と考えればそういう特性を持った生き物ということですかね」
ディーアが研究者の目になっている。祖父とともに魔術の最高峰をおさめる魔族として興味があるらしい。
「方陣・・・」
んー・・・あれだな。
ロボットでいう所の電子回路みたいなものか。体の各部を動かすために指令を出し、それを伝達するための通達機構みたいな。
動力炉から動くための動力も運んでくれたりくれなかったり。細かいことはよくわからんが、そういった機能を書きこまれた方陣がきっとあのゴーレムの内部芯あたりにあるかもしれない。
「・・・パパ、方陣はどうやって動いてるの」
そりゃ、魔素、MPを通して動いてるんだろう。方陣を地面に描いただけでは機能しない。そこに誰かがMPを通して初めて魔術が発動するんだ。
方陣の扱い方はリッチが巧みだったなぁ。敵でなければいろいろ話を聞いてみたかった。
「んー・・・・・・んー・・・」
うなってるな。
まぁ、あのゴーレムの内部芯をオレで切断してみればわかるかもしれない。方陣は切断されてしまえば機能を失うだろうから、そうすれば土で代用されたりはしないだろうと思う。
・・・別の内部芯に内部芯を代用するための方陣が書かれていなければ、だがな。
うん。よし、
切断してみよう!
やってみるのが一番早い。
「んー、・・・」
せーつーだん せーつーだん
「えええと?、シア様、あまり先走らず・・・錬金魔術であればおじい様も少し使えますから、話を聞いてからでもいいと思いますよ」
「ん。聞きに行く」
切断してみるのはあとでいいか。
20パーツくらいに分断すれば動かなくなると思うんだけどな。
「将軍に貸してから、パパが将軍みたいになった・・・」
えぇ・・・それは嫌だ。言われてみると、筋肉に支配されかかっていたかもしれない。
ゴメン、気を付ける
「ん。」