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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
191/222

合流



「・・・・・・パパ、すっごい」

 ふふん。そうだろうそうだろう

 刃術《旋風刃》。

 今まで一振りの攻撃に合わせて一個出ていた風の刃が、刃の一つ一つごとに発生するように変更された結果、風の刃が同時に9個発生する凶悪スキルとなったのだ。

 シアが4倍した筋力が《燃力》で15%増え、その筋力で振るわれるオレ自身が《女王花》で武器威力50%増えた武器攻撃力を130%した風の刃が9つ。シアの《旋風刃》も入れて10個。風属性なので緑龍の加護も乗って・・・・・・

 ちょっと何言ってるかわかんなくなる。

 とりあえす相手は死ぬ。

 代償はもちろんクールタイムだ。30%減って21秒で撃てる頭のおかしいスキルになっている。


「止まった・・・のか。シア、お主よくやった。しかし最後のスキルは何じゃ。秘密の必殺技でも隠しておったのか」

 使う直前に変化させたただの《旋風刃》です。


 闇がきえる。みんなはももから下を土に埋められていたが、無事なようだ。闇に呑まれた部分から消失するようなことはなかったらしい。

 わいのわいの言いながら近くの人間同士で土から掘り出しあっている。

「リッチ、倒せましたね・・・やばいやつでした」

「シア様は”闇無効”がありますからね。ラザン様じゃなくてシア様がリッチの相手をしていれば、もっと簡単に倒せたのですわ」

 エステラがスカートについた土を払いながらシアの隣に立つ。

 シアじゃなくてエステラが得意げなのな。

 ともあれ、お帰り、シア。用事は終わったのか?

「ん。レイウッドは何とか。ユエはまだ・・・。でも二人とも、生きるつもりになってる」

 そうか。良かった

「エステラが説得した」

 そうか。彼女がいてくれてよかったな。シアももうちょっとコミュニケーション能力きたえような。

「うぐぐ・・・」


 さて、シアやエステラと情報交換しているあいだにほとんどの兵士が掘り出され、助かったことを喜びあっていた。

 功労者であるシアもみんなからほめられ、感謝される。わらわらと囲まれてガシガシなでられ、はたかれ、担ぎ上げられて胴上げされていた。

 うむ。オレの娘だからな。ふふーん(自慢げ)


 どんちゃん騒ぎは夜通しおこっていた。

 夜の安眠をずっと脅かしていた脅威がなくなったのだ。

 明日の朝までは敵はこない。ぜったい来ない、もう今しか安心して騒ぐことはできない、といった強い思いからか意地でも騒ぐことをやめない勢いだった。

 死を目前にした戦闘後の男たちの意思は固い。

 明日の日中のことなどは無いものとされた。

 そういった騒ぎからは距離をおくシアは、エステラとくだんのユエを連れて王子の天幕に顔をだしていた。


「シア様、もどられて何よりです」

「うむ。やはりその武器はお主の手にあるのがしっくりとくるわ」

 天幕にいるのは王子とタルティエ、そしてラザン将軍だった。夜の護衛ではなく将軍が報告ついでに護衛しているのだろう。

「その武器殿には助けられた。まさか、わしの《断空閃グラン・ゼロ》を使えたとは驚かされたわい。あのとき《断空閃グラン・ゼロ》が無ければ死んどったかもしれん、武器殿には非常に感謝しとる」

 そう言ってラザン将軍が、オレに頭を下げる。それから続けて武器を貸してくれたシアにも頭を下げた。

「ん。役にたったなら、よかった」

 おう、シアにまかされた仕事はこなせたようだな。よかったよかった

「パパもお疲れ様。ん。・・・王子、エステラが話があるって」

 そう言ってエステラとユエに場所をゆずる。


「えぇ。お話というのはユエ様の”昇位”に関してですわ」

「『大王海月』は魅力の数値が100になれば『女王海月』に昇位できる、でしたか。・・・正直方法が思い浮かびませんが、エステラ様には目処があるのでしょうか」

「ええ。本来なら大王海月は長命であり、月の光を浴びながらゆっくりと体に輝きを蓄積していく生き物らしいですわ。そしていつかその輝きが大王海月を昇位させるのだとか。時間があったならどのように輝きを貯めるのか見てみたいところですが、今はその時間がないのですわ。なので・・・・・・外部の力をお借りしようと思いますわ」

 外部・・・聖龍の作ってる空の上に上る機械で月の周回軌道にでも彼女を送るのだろうか。

「あ、もしや、アレですか」

 タルティエが手をポンと叩きながら納得した声をあげる。

「あれ、とは何だい?」

「ダリウス様。イズワルドで上級貴族の結婚が当日に破談になった事件を知りませんか?」

「あぁ・・・確かロイドハイン伯爵の御子息とベッテルアレン伯爵の御令嬢の結婚式典のことかな。不幸な事故があったと聞いたけれど」

 エステラがちらりとタルティエに視線を送る。

 他国のエステラの耳にさえ届いているのにどういうことか?という視線だろう。

「コホン。・・・まぁ、あの時の事件の詳細は男性よりも女性の方が身につまされる内容でしたからね。ダリウス様が情報を知らないのもしかたないかもしれませんね」

 微妙なフォローを入れているが、結局どんな事件だったんだよ。

「あれは5,6年前の初夏のころにですね―――


 ベッテルアレン伯爵家には仲の良い姉妹がいた。

 姉はたおやかで美しく、笑顔の魅力的な娘で、婚姻の申し込みも多くよせられていた。

かわりに妹は醜かった。

 姉より背が高く肩幅があり、肩から下の起伏も乏しく、なによりも首から上の形状がオークと見まごうようなありさまだった。

 姉の心を射止めたロイドハイン家の御子息は姉ばかりではなく、その妹にもやさしい青年だった。

 だからだろう。御子息と姉の結婚式の場に、妹も当然招待されていた。

 彼女は心優しい娘。

 外見が人から眉を顰められる物であろうと、家族を愛し、祝う心を忘れず育んできた心の美しい娘だった。

 ゆえに、悲劇がおこってしまった。

 妹の心根をおもんばかった、貴族御用達の仕立て屋がいままで培ってきた全スキル、そして取り寄せた全素材を使い、一世一代の衣装をしたてあげた。

 それは金と銀にきらめき、陽光にキラキラと輝き、光が流れ落ちるようなとても美しい衣装だった。

 肩幅のある彼女の肩を強調するように肌を見せ、背の高さを逆手に取り、スカートが上から下へと流れ、広がる衣装。そしてオークだと形容される容姿は少し丸みはあるが、あいらしい魅力のある姿へと化粧によって飾り付けられた。

 姉の新しい夫は言った。「美しい。もし叶うのならば私はあなたを独り占めしてしまいたい」

 結婚式典の場での発言である。

 辺りがざわめく中、姉が言う。「いい考えですわ。いっしょに結婚しましょう」

 妹をずっと心配していた姉としては、結婚後に離れ離れになることなく、姉妹ずっといられるその案は非常に歓迎するものだった。

 こうして3人は結婚した。

 そして夜。初夜に新郎が言ったらしい。言ってしまったらしい。・・・何を言ったのかはわからない。寝室での発言を知っているのは当事者の3人だけなのだから。

 衣装を脱いだ場で何がおこったのか・・・それは不明のままだ。

 けれど、結果としてこの婚姻は一日にして終わることとなったのだ。


「・・・という話しです」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「欲のままに行動すれば、失うものは大きいということじゃな」

 いやぁ・・・そうなのか?。

 これ、この話は仕立て屋がとんでもないってことだろ。

 美しくなくても美しく仕立て上げる。

 魅力のブーストができる仕立て屋か・・・。

 けれど衣装や化粧でどれだけステータスに加算されるのか。《燃力》なんかはステータスの数値は変えずに筋力を増やすスキルだけど、それと同じでステータス外で加算されるだけじゃないかなぁ。

 ということをシアに言ってもらったところ、その仕立て屋を知っているらしいタルティエから「否」の声があがった。

「・・・いえ、どうやら違うらしいのです。その仕立て屋の持つスキルは対象の本当の美しさを衣装として見えるようにするスキル。おそらく固有スキルだと思いますが、そのスキルによってつくられた衣装は本人の”魅力”そのものなのだそうですよ。だからステータスにも反映されるし、飾り立てて増加させることもできるのだとか。今回のユエ様の昇位にはこれ以上ないスキルだと思います」

 彼女の内面が魅力100に到達するほどかはわからない。けれど、可能性として一番高そうなのがその仕立て屋のスキルだということか。


「ん。やろう」

「ですわね」

 ユエが助かるのなら、やらない理由はない。

「タルティエ、その仕立て屋に仕事を頼むことはできるかい?」

 王子がタルティエにそう聞いた。

「それが・・・非常に腕の立つ仕立て屋でして、仕事の予約が10年先まで埋まっているという話しです」

 10年て・・・。

 休みなしかいっ

「・・・仕事の合間には別のことをやっていますわ。私も一昨年、彼の新作水着を一着購入しましたし」

 エステラが王女をやっていたころだな。

 なら、突然のたのみにも対応できるよう、時間の調整ができるんじゃないか?

「それが・・・なんだか最近大きな仕事が舞い込んだとかで新作衣装のお披露目が取りやめになっていましたよ」

「それは・・・・・・困った」


 王子の力であれば無理にでも作ってもらうことは可能かもしれない。

 けれどそれは人としてどうなのか。権力を振りかざすべき場面なのか。

 ユエの命がかかっているとはいえ、王子がやっていいことなのか非常に悩ましい問題だった。

「近日の仕事の相手がわかれば、交渉もできるのだが・・・手紙で聞いてみてもらえないだろうか」

「あら、知っていますわ」

 ふふん、と鼻を鳴らしながらエステラが言った。

「だからここに来たのですわよ」

「えぇっ、し、知ってるんですかっ」

「あら、タルティエ様が知らないとは驚きですわ」

 エステラの言い方からすると、タルティエが知っていてしかるべき情報ということだろうか。タルティエは少なからずショックを受けている。

 貴族間の情報網から遠ざかって久しいだろうに、どこでそんな情報をしいれてくるのやら。


「ベルティナ・ロスクート様ですわ。護衛の時にそういう話しをたびたびしましたもの」

「ベルティナ・・・嬢?」

 ベルティナ嬢って王子の婚約者だよな。今も王子からの要請を守ってこの軍に参加してくれている、非常に辛抱強い人だ。・・・まぁ、血まみれの男性に魅力を感じるからとかそんな不穏な話もないわけではないけれど。

 早く彼女を平穏な日常にもどしてあげてほしい。

 ともあれ、そんな彼女は戦争後の王子との結婚式典のために、早めに式典用のドレス――ウェディングドレスの準備をはじめたようだった。

 国をあげての結婚式。

 ならば、そこで着る衣装も最高のモノを。

 そうして選ばれたのがイズワルド王国きっての最高峰クリエイター・服飾商会サンジェロアのリオール・サンジェロアだった。

「ですが・・・ベルティナ様は今、ここにいらっしゃいますよね?。服を仕立てるにしても、実際に会って採寸などしなくてはだめなのではないですか」

 彼女は王子の要請でここから離れられない。・・・となると。

「・・・・・・もしや、ここに来るのですか、仕立て屋が?」

「・・・・・・おそらく、そういうことでしょうね」


 王子とタルティエが呆然とした顔を見合わせている。

 それもそうだろう。ここは魔王と戦争を繰り広げている、その最前線なのだ。そんなところに衣装を作るためにやってくる仕立て屋など聞いたことがない。

「とんだ命知らずがいたものだな。だが、それだけ仕事に熱意を持っておるということか。はっはっは、なかなか面白いわ」

 呼ぶほうも呼ぶほうだが、来るほうもちょっとどうかと思う・・・けど

「おかげで、出向かなくても済む。」

「えぇ、そうですわ。またシア様が戦線から抜けなくてすむのですわ」

 オレも貸し出されなくていいのか。あー、よかった

「・・・・・・本当に来るのですか」

「えぇ。いつかはわかりませんが、一月以内にいらっしゃる約束らしいですわ。くわしくはベルティナ様にお聞きください。・・・ですが、それよりも」

「えぇ、わかっています」

 タルティエがうなずく。

「ベルティナ様を説得するのは、こちらでやりましょう」

 助かるな。本来なら王子たちには関係の無い話だけど、協力してくれている。


「・・・ありがとう。ユエのために。みんな、ごめんなさい」

「ユエ様、謝ることではありませんわ。生きたいのなら助ける。ただ、それだけのことですわ」

 なんてことのない話。

 ただ縁のあった人が困っていたから助けるていどのこと。

 配下だからでもなく、貴族だからでも、神の遣いだからでもない。

 ただ、助けられるから。

 それだけのことだ。


「・・・ありがとう」




「・・・あ、あの、もう結婚式典の準備が進んでいることに不安を覚えるのは、私だけでしょうか・・・」

「え、王子?、その段階なのですわね・・・」

「・・・・・・そうですね、・・・進めておく分にはいいのではないですかね」

「うむ」

 周りから固められていることがわかっているのか、いないのか・・・やれやれ。


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