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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
190/222

将軍の戦いの終わりに


「手はオレたちにまかせろ」

 シシールがスキルで地面から生える腕を攻撃している。

 ジェフリーは前に走り、ラザン将軍を守るように浮かぶ腕から放たれる魔術を防ぐ。

「《障壁》っ。将軍はそのままリッチを押しつぶしてくださいっ」

 まるで断末魔のように、リッチの腕から放たれる魔術の頻度が異常なほどになっていた。マシンガンか何かのように、攻撃魔術が放たれる。

 戦術も何もない。MPの枯渇さえも一切考慮しない魔術の連射。

 それを受けるジェフリーは防御スキルを次々と切り替えていく。

 オレを振り下ろしたままのラザン将軍のこぶしに力が入る。

 早く

 早く!

 リッチのMPでも、何でもいいから尽きてくれっ


 けれど先に尽きたのはスキルの持続時間だった。

 《断空閃》の刃が細く、糸がほどけるように風が虚空へと消えていく。

 その消えていく刃を一気に吹き飛ばして死霊王が立ち上がる。

 ローブはボロ布へとかわり、体の骨もあちこちが欠け、ひび割れて、存在として立っているのが不思議なくらいだ。

「《爆矢バーンアロー》っ」

 護衛騎士の矢がリッチの脇腹に当たり、中規模な爆発を生じさせる。左の肋骨がほとんどふきとんでいるが、それでもリッチは生きているらしい。

 ふらふらと揺れるリッチに、護衛騎士たちのスキルが次々と叩きこまれる。

 鎖骨が、肋骨が、頸椎が、胸骨が、顎骨が、頭蓋骨が――次々と砕かれていく。


「まて!」

 ラザン将軍の指示に一同が攻撃の手を止める。

「・・・・・・首輪がない!、偽物じゃっ」

 ・・・あっ。

 そうだ、最初に見たリッチには首に首輪のような物をはめていた。けれど《断空閃》から現れたリッチにはそれが無い。

 その声に反応するかのように、もう背骨くらいしか残っていなかったリッチらしきものの骨が崩れて地面にカラカラと転がった。

 そして

 地面から闇が沸き上がる。

 《断空閃》から現れたリッチと同じ個所に同じダメージを負った、首輪のあるリッチが。

 そのリッチは杖を持っていた。

 赤い血がしたたり落ちるような、気持ちの悪い意匠の黒い杖を。


 リッチは黒い杖を地面につく。

「人は、滅びねばならない・・・滅び・・・滅せよ・・・《代償魔術》 解放

 《増加ブースト》 《超増加ハイブースト》 使用―――


「と、止めろ!何か大きな魔術が来るぞっ」

 リッチが言葉を紡ぐたびに、地面に撒かれていた墨が形を変え、次々と別の方陣を描き出していく。

 護衛騎士たちはそれを止めるためにスキルや攻撃を放つが、浮遊する二本の腕によって邪魔をされる。


 ―――喰らえ 喰らえ 我と我が配下たちの魂元のひとしずくまで。すべてを、ささげ、喰らえ・・・《最終詠唱》・・・《深淵解放アビスゲート》」


 杖から地面に闇が広がる。

 瞬く間に広がった漆黒の大地は、まるで底なし沼のようにそこにあるすべてを呑み込み始める。

「あ、足がっ」

「り、リッチを止めろ!」

 けれど味方のスキルが届く前に、リッチは骨の端から灰にかわってゆく。

 サラサラと

 サラサラとリッチは灰になり・・・そして滅びた。

「し、んだ・・・?。リッチが、死んだぞ?」

 チッリが付けていた首輪が地面に落ち、その首輪も闇へとしずんでいく。


 リッチは確かに、死んだ。

 なのに

 魔術は終わらない。


 地上のすべてを呑み込む闇は広がり続ける。それは、同じように灰になるアンデッド軍団に戸惑っていた味方の兵士たちも呑み込んで広がっていく。

 ただ一つ、地面に刺さった黒い杖だけを残して。

「杖を・・・!、誰かあの杖を倒すのだっ!」

 ラザン将軍はそう言いながら《旋風刃》を杖に飛ばす。けれどびくともしない。まるでリッチの意志を体現しているかのように、そこにいる人間すべてを呑み込むまで止まらない呪いのように。

 魔将リッチがその生命を捧げてまで行った魔術。

 止めることは・・・人にはできないのか。


「・・・伝説級武器レジェンダリーウェポン

 誰かのつぶやきがもれる。

 伝説級。それは”聖剣”とは違う、ダンジョンが生みだした最高傑作の装備品。

 お伽噺や酒の肴として人の口に上るが、実際に見ることはない伝説上の武器だ。

 けれどリッチは持っていた。

 そして・・・魔王を追いつめる人間たちに、決定的な一撃をあたえた。

 王子軍は負けたのだ。

 魔王に届かず、ここが終着点だった。


 ・・・シアなら何と言うだろうか。


 ――まだ。

 ――まだ終わりじゃない。


 絶対にそう言うな。

 ならわかっている。オレはオレのやるべきことのために思考を止めない。

 何もできないオレには、それしかできることはないから。


 兵士たちのざわめきが、止まっていく。

 腰まで埋まったラザン将軍は後ろを振り返ることはできないが、後ろから兵士たちの声が消えていっていることに気が付いた。

「く・・・すまぬ。魔将をあなどっていたわい・・・みな、すまぬ」

 将軍の頬に涙がつたった。

 ちがうぞ将軍。兵士たちは闇に呑まれたんじゃない。

 見ているんだ。


 ただ一人、闇の上をトコトコ歩いている少女を。

 少女は将軍の隣に歩いてきて、涙を流す彼の様子に首をかしげた後、「ん。」と言って右手をだした。

「・・・・・・ぬ?」

「ん。パパ返して」

 言われるままにオレを差し出した。

 少女はオレを一振りした後、満足そうに笑う。


 お帰り、シア

「ただいま。パパ、やるよ。」

 おう


 シアは駆け出す。すべてを呑み込むはずの闇の大地の上を。

 ”闇無効”

 それがシアの持つ、唯一の無効耐性の名前である。

 ・・・威圧無効もあったっけ。まぁいいか


「パパっ、あわせてっ」

 シアが振りかぶり、渾身の一撃にスキルを合わせる。

「《旋風刃エアスラッシュ》っ」っ!

 ギイィイン

 ラザン将軍の《旋風刃》ではしなかった音が杖から響いた。

 真っすぐに立つ杖の半ばに斜めの傷がつく。

 硬い・・・っ、けれど通らないわけじゃないっ

 もっと火力がいる。

「・・・パパ、クールタイム」

 《旋風刃》の再使用までを計りながら合図する。

「《龍変化ドラグニール》。《龍力ドラグニカ》」

 筋力が倍の倍で4倍になる。けれど、それだけではおそらく足りない。

 なら、足りない火力はオレが補う。


 ・・・・・・いいぞ、シア、準備できたっ

「んっ。パパ・・・いくよっ――《

                 旋風刃》っ!


 振り切られた蛇腹状のオレの刃から――刃の一つ一つから、小さくなった風の刃が一斉に噴出した。

 それはあまりにもあっけなく、杖を二つに切断した。


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