ステータス
オレとシアは花の咲く丘の、3本生えた木の下に住むことにした。
”花”というものをシアが気に入ったのだ。
前のところだと蓮の花くらいしか咲いていなかった。ここだと色とりどり、とまではいかないが、いくつも違った花が咲いていた。
家は丈が長く、丈夫な草を編んで作る。乾燥したものは敷物に、乾燥していないものは囲いとして使う。
少しずつ、何枚も重ねて丈夫に作る。だいたい夜寝るまでにちまちま作っていく。火はコモンリザードマンが小さな火打石を置いて行ってくれたので困ることはない。
そうして作った草編みには一部長い部分を作る。それを横の木の幹に結わえるのでそうそう風で飛ばされたりしない。
昼間は狩りに行く。
少し遠いが川があるのでそこで魚を獲る。あとおおきな山椒魚みたいなのも獲る。これは大分でかい。牛くらいはあるんじゃないかと思う。オレなりに燻製の作り方を教えたが、作り方があっているかはわからない。だが肉がそれほど無駄にならなくなったので一匹狩ればしばらくは暮らせる。
林にオオカミがいる。こいつらは強い。一匹でも強いが集団で行動している。こいつらとの戦闘であやうくシアが死にそうになったことが3回くらいある。
なので林にはあまり近寄らない。秋は果実がよく成っているのでその時期だけは慎重に入る。
家を作った丘には蛇のモンスターがいる。こいつらは草の茂ったところが好きだ。隠れて獲物を襲うのに好都合だからだろう。家の周りの草を刈ったらあまり現れなくなった。
狩って食料にしていたら数が少なくなっていた。食事でも毒耐性が上がるらしく、オレは全滅させないようにシアにお願いした。
春から夏の時期はハチがよく飛んでいる。オレの知っているハチより図体が大きいが、モンスターなのかはわからない。花の蜜を集めている。
シアはこれも食べる。おかげで麻痺耐性があがった。
一番こまるのは冬だった。食料が少ない。
暖はなんとかとれる。狩りでとった動物の毛皮を大量にため込んでいたからだ。やはり先見の明があるアドバイザーがいるのといないのでは大違いだ。
ただ、それでも食料だけは足りなくなった。
あまり積極的にやりたくはなかったが、石の下の虫を探した。あとは林に住むオオカミに襲撃をかけた。
そうして冬をなんとか生き延び、春を待つ。
3年も過ぎただろうか。オオカミは脅威ではなくなっていた。
《風刃》
俺がスキルを放つと3メートル先にいたオオカミの胴が二つにわかれた。
返す刃でシアが風刃を放つ。横から襲って来ようとした3匹のオオカミが切り裂かれる。
スキルのクールタイムを狙ってくる相手でも、オレとシアの連携スキルの前には意味がない。
まぁ、威力が低いころは2連スキルでもピンチになることが多かった。使い続けて威力が増し、攻撃距離が増し、やっと有利に戦えるようになってきたのだ。
・・・けれども、やっぱり上限がある。これ以上はスキルの性能向上は望めない。
《風刃》は熟練度100で上限か。ステータスの数値でも増えなくなったしな。初めが30㎝くらいだったので10倍になったのかな。次のスキルがほしいけど、どうやって覚えればいいんだろうか。
「パパはパパの持ち主が使ってれば覚えられると思うけど」
そのためにはシアが使ってくれないといけないわけだろ。シアはどうやってスキル覚えたんだ?。
「・・・教わったから」
まぁそうだよな。世の技術というのは教え、教わって覚えるものだ。リザードマンがスキルを一つしか使えなかったのは、それしか伝授できなかったからなのかもしれない。
本格的に強くなろうとしたら、人の中に交じって活動するしかないかもしれないな・・・。
人であればスキルも豊富だろう。なんなら魔法をかじってもいい。怪我や病気が治せるようになれば、一人で暮らしてても安心だし。
「・・・・・・うー・・・」
シアは賛成しかねるらしい。
とりあえず今のステータスを確認するか。
オレは『シア』のステータスを開く。
個体 シア
種族 亜人(人間/龍/魔族)
筋力 20
耐久 9
器用 13
感覚 15
知力 9
魔力 5
魅力 8
速度 22
毒耐性12
麻痺耐性6
魅了耐性3
挑発耐性3
冷気耐性2
・剣術《風刃》100
・水術《潜水》20
・龍術《竜力》5
特
《龍胆》
初めてシアにステータスの開き方を教わってから魔力が1も変わっていない。使わなければ変わらないことを考えると、あれがオギャーと生まれた瞬間の初期値だろう。
ちなみにこのステータス、自分のステータスは開けない。なんでだよって思う。
『開く』と言うが、イメージとしてはウィンドウを開けた感じだ。他人からは見えない。自分の視覚にしか表示されない不思議機能だ。
風刃は剣術スキルらしい。確かに槍のイメージは突き主体の攻撃方法だ。
耐性にめずらしい挑発耐性がある。別名「煽り耐性」。ネット戦士をしていたころには必須のスキルだったが、この世界でもあるらしい。パーティー行動で一人が挑発に乗って前に出てしまい痛い目をみる、なんてことは確かにある。目に見えないが命に係わる能力なので存在するのだろう。
ちなみに獲得したのは日常会話の中でであった。うん。子供相手に大人げないねてへぺろ。
スキルの潜水はリザードマンの集落で覚えた。確か初めは23くらいあったのが、使ってないので数値が落ちた。一度習得すればずっと維持されるというわけではないらしい。世知辛い。
ただ、耐性は今のところ落ちていないようだ。ラミア相手に獲得した魅了耐性はずっと変わっていない。
竜力というのは良くわからない。ドラゴニック・パワー。ちょっとだけカッコイイ。たぶん火事場の馬鹿力と同じようなものだと思う。
特・龍胆も良くわからない。胆力があるってことだろうか。戦闘で肝が据わっているのはいいことだ。
一番気になるのは種族の所だ。
種族 亜人(人間/龍/魔族)
亜人。人にあらざるモノ。人に似せて作られたまがい物。デミ・ヒューマンとも呼ばれる。
龍にかかわるスキルがあるのはシアに龍の遺伝子が入っているせいだろう。
そして人間。これはまぁ、わかる。
最後の魔族。これがいまいちわからない。
人と龍が入っていればいい気がするが、魔族の恩恵って何だろうか。シアを作った存在はどうしても魔族を入れたかったのだろう。
シアの右目が金色なのは龍の遺伝子のせいか。良きモノである。
言ってしまえばリザードマンもトカゲなので竜種ではある。シアの瞳の中の龍を感じてよくしてくれたのかもしれない。
シアは7歳になった。
4歳のころに外見10歳くらいだったのが、12歳くらいにはなっている。初めの成長っぷりから考えると成長速度が落ちてきている。第一次性徴が早熟で第二次性徴が永いのかもしれない。
シアはきれいになった。魅力が8なのはあれだが、きちんと身なりを整えれば美少女だろう。元の世界でもハーフは比較的容姿が良くなると聞いたことがある。
三つも種族が混じりあうと美少女が生まれるのかもしれない。
「・・・・・・」
この頃は誉めるとシアがもにょもにょしている。面白い。
ガチン
痛いやめて石を殴ると欠けちゃうのおぉっ
「・・・・・・ふふっ。今度は、パパの」
シアがオレのステータスを開いて数値を教えてくれる。
個体
種族 魔動槍
属性 無機/魔
耐久 100
魔力 0
・剣術《風刃》100
ー
ー
ー
ー
ー
ー
特
《変化》
《魂吸収》
オレ、生まれたときは槍ではなかったはずなんだけど、もう槍としての槍生を歩んでいるらしい。
尻に入れられた柄はいつのまにか体の一部になっていた。今では癒着してしまい抜けないらしい。
しかし、シアと比べてスッカスカなステータス欄である。武器だから頑強でありさえすればいいってことか!魔力は何だ?属性付与のための欄かな?。
スキル欄はうん。これもおかしい。
まるで覚えられるスキルに個数制限があるかのような表記である。
シアにはなかった。
・・・・・・スキルがいくらでも覚えられるのは人間の特性ということかもしれない。
オレは7個。
・・・・・・泣かないもん
《変化》はオレの形状が変わったアレのことだろう。魂吸収で稼いだ《可能性》みたいなものを使って形を変えるのだ。なお質量が増えることはないのでもっぱら減らす方向でしか変化しない。がっかりスキルだ。
がっかりスキルだ!
魂吸収はあれだね、イビルウェポンとしての特徴的なアレだよね。イビルウェポンといったらこれってやつ。ラミアといったら魅了みたいな。
ちょっとカッコイイ
ダークヒーロー的なカッコ良さ。
そうだ、ステータス欄を見て思うことがある。
レベル表記がないことも気になるが
オレの個体名がないことだ。
前世の名前でも、シアに呼ばれる「パパ」でもないらしい。
そもそもオレを武器に作った鍛冶屋が命名しているわけでもないのだ。無名の魔剣。
カッコイイ
剣ではないが。
とりあえず保留している。槍っぽい名前を付けて後で柄が取れて剣になりましたでは恰好がつかない。
後付けでよいのはありがたい。自分の命名権は大切にしたい。
というような詳細なんだけれども。
やはりスキルが欲しい。
種族に”人間”が入っているシアにはできるだけ多くのスキルが欲しい。
成長期に多くの経験を得て、強く育ってほしい。
なので、
人間の拠点に行こうと思います。
「えー・・・・・・」
魔族も群れで生活してるならそっちでもいいが、そもそもどこにいるのかわからない。
人間であれば3年前にいたので、探せば拠点も見つかるだろう。
龍は・・・人間の所で情報を得るしかないかもしれない。
そもそも龍種のスキルは覚えられないかもしれない。火龍から炎ブレスを教われるのか?教わって使えるようになるならやってもいいと思う。口が火傷しそうだ。
というわけで
我々は異世界ファンタジーに生まれ、7年目にしてやっとファンタジーな人間の町に向かうことにしたのである。
「いや。」
したのである。