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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
189/222

将軍の戦い2


 こちらが動くよりも先に方陣を展開したのはリッチだった。

 黒い方陣が4つ――展開の速い下の二つから黒い鎖が伸びる。

 斧の一振りでその鎖を切断すると、今度は上の方陣から黒い霧が噴出する。

 攻撃魔術が来ると思ってたけど、近寄れなくしたのか?それとも術を隠すために?。

 霧でリッチの姿が見えづらくなる。

 射程にとらえようと近づくラザン将軍から身を隠すために霧の中へと沈み込んでいく。


「《旋風刃エアスラッシュ》っ」

 風の刃で霧を払う。けれどリッチはすでにいない。広がり続ける霧にまぎれてしまった。

 まずい、魔術師を見失った・・・!

 そして黒い霧の中から《影縛り》と《夜槍》が飛び出して来る。方向をつかもうにも方陣の位置を細かく変えているのか、どこから撃ってきているかわからない。

 霧から距離をとることでその攻撃をうけることはないけれど、代わりにこちらの攻撃が一切できない。

 しまいには霧が黒一色ではなく、紫の色も帯び始めた。


 なんだあれ、毒か?死体には効果がないだろうが、こっちには効果がありそうな色の霧だ。

 リッチはどんどん自分に優位なフィールドを築きあげていく。

 けれどここが野外でよかった。もし洞窟などの閉所だったなら、その効果はもっと凶悪だったに違いない。

 今ですら近寄れないというのに・・・いや

 霧の中を、いくつもの光が輝く。

 闇をはらす輝きはエステラの光魔術《浄化》だろう。生者には効かず、死者だけに効果がある魔術。霧の中からリッチをあぶり出すこともできるだろう。

 ラザン将軍は霧へと飛び込んだ。

 オレを振り回しながら《風刃》を放つ。


 ――《麻痺網パラライズウェブ

 今まで聞こえなかったリッチの声が聞こえ、そしてラザン将軍を捕えようと網が放たれたのがわかる。

「そこか!《旋風刃エアスラッシュ》っ」

 網ごと霧を切り裂いて風の刃が走る。

 手ごたえが――ない。

 けれど方陣と、方陣を展開する腕が見えた。

 宙に浮かぶ腕

 そういうことか。やつは腕だけを浮遊させて魔術を撃ってきていたのだ。

 腕を動かすのにも魔術がいるらしい。右腕と左腕、常時二つの魔術を展開しながら攻撃魔術や妨害魔術を使うという器用さ。・・・けれどそれだけなら怖くはない。

 同じ魔将でも高威力の魔術を使うディー・ロームにくらべ、嫌がらせや足止めばかりしてくるこいつは本当に魔将なのだろうか。


 ――咎人よ、生を貪り奪うモノよ・・・強奪せよ 掠奪せよ 剥奪せよ 求むるモノへ 手を伸ばすのだ


  死霊術《栄光の手ハンズオブグローリィ


 聲が闇に溶けるように消える。

 闇・・・漆黒の霧が水滴となって地面に落ちる。それはまるで墨汁のように地面に別の模様を描き出した。


 巨大な魔方陣


 最初から霧の中に隠していたように、最上級と思えるほどの大きさの方陣がそこに出現した。

 方陣の扱い方が巧みすぎる。やばい、もしかするとこれまで全部、リッチの思惑通りの展開かもしれない。そうなるとこの後も・・・


 方陣から白い枯れ枝のようなものが伸びる。人の腕だ。

 皮と骨ばかりのミイラのような腕が、地面からラザン将軍を掴もうと伸ばされてくる。

「《地裂・・・「《夜槍ナイトランス》」

 地面を叩こうとした将軍に、それをさせまいと姿が見えるようになったリッチから魔術が放たれる。

「ぬう、《風刃スラッシュ》!」

 浮遊する腕から別々に撃ちだされた《夜槍》を一振りの《風刃》で払い散らした。

 けれどそのせいでミイラの腕に腰から下をがっちりと掴まれ、引きずり倒されそうになる。

 リッチが骨のほおをあげた。――笑ってやがる。

 《旋風刃》も《風刃》もクールタイムが終わっていない。

 そして《夜槍》は物理的な魔術ではないため、属性の無い武器やスキルだと薙ぎ払っても少なからず通過してしまい、ダメージを受ける。

 動きも制限され、スキルもほとんど使えない。

 リッチの左右に浮かぶ両腕に4つずつ・・・合計8つの黒い魔法陣がならんでいた。

 ラザン将軍の手の緊張がオレに伝わる。ギリッ、と込められた力に、彼がまだあきらめていないことがわかる。

 あぁ。

 まだだ・・・まだ負けてないっ!


「――《夜槍ナイトランス》っ」


 8つの方陣が黒く輝き闇をはらんだ槍が連続で襲いかかる。


 斧を振る。

 一つ

 斧が大きく傾いだ。


 オレを振るう。

 《風刃》っ 《旋風刃》っ

 二つ 三つ


 傾いだ斧を投げる。斧は槍に当たり甲高い音を立てて壊れた。

 四つ


 兜がとんだ。

 赤い血飛沫が散る。

 後ろに倒れそうになる体に力を込めて。

 地面から生える腕をふりはらい、一歩前に。

 ラザン将軍はありったけの力で


 オレを振るった。


  最後の、最期の、ありったけの力で



 ―――剣技


    《断空閃グラン・ゼロ》!!!


 ラザン将軍の目が驚きに見開かれ、そして楽しそうに細められる。

 このスキルはあんたからもらったものだ。

 剣のかわりにオレを持ち、何度もスキルを使ううちに、オレの内にも同じスキルが覚えられるようにストックされていたものだ。

 オレが”剣技”をストックしていること。それを教えてくれたのはシアだ。

 頭上をアクリアと通過するときに、それだけを教えてくれた。

 オレは防御術《風突》を削除してスキルを放つ。


 剣技《断空閃グラン・ゼロ


 風の属性を持つ巨大な剣身が向かってくる夜槍ごとリッチを押しつぶした。――けれど

 両の手が刃を回避していた。

 手からおそらく最後の――《夜槍》が放たれる。まっすぐに、胸元へと。

 ラザン!避けろ!

 無理なのはわかっている。刃を振り下ろした体の勢いが残っているのだ。

 夜槍がまっすぐに迫るのを、ラザン将軍の眼は捕えていた。


 瞬間、その槍が別の何かで散った。

 それはそのままリッチの足元へと突き刺さる。

 ・・・槍だ。

 銀色の、質量をもった槍。

 槍投げスキル《投槍ジャグレート


「将軍っ、待たせたなっ」

「ラザン将軍、お待たせしました」

 シシール、それからジェフリー。あまり見覚えのない夜警専門の守護騎士もいる。その後ろにはエステラと・・・おいおいおいおい

 後ろを振り向いた将軍がしかめ面になった。

「王子・・・本末転倒じゃろう。護衛対象が前線に出てきてどうするのじゃ」

「あなたを、仲間を守れますよ」

 青い聖剣を手にした王子が明かりを手に駆けよってきていた。


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