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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
188/222

将軍の戦い1


 ラザン将軍は騎士の一人に声をかけ、オレを預ける。

 獲物はいつもの大斧だ。

 オレを持った騎士を連れて前線に合流する。


「将軍!、敵の勢いが止まりませんっ、奴ら狡猾さが増してやがる!」

「炎にもひるみません!」

 刃物が効きにくいアンデッドなのに、火にもひるまず襲い掛かって来るとなると止める方法がない。

 ”技”スキルを主体に戦法を組んでいるイズワルド兵士が多い王子軍では、ただでさえ魔術使いが少ないのに・・・。

「わしが合図をしたら盾をあけろ。”斧技”を使う」

 斧・・・?、剣技も使ってたし、二つ目の技スキルか。流石将軍。


「押すぞっ」

 最前線で盾を抱えている兵士がタイミングを合わせてゾンビとスケルトンを盾で押しやる。

「開けよっ」

 ラザン将軍が飛び出した。

 斧の一振りで数体のアンデッドが粉砕される。そのまま頭上に振り上げた斧を、・・・将軍は勢いよく振り下ろした。


「《大地裂斬ガイアスマッシャー》!」


 叩きつけた斧からまっすぐ地面が分かたれ、左右に土の針山が現れる。真ん中の大地を削り、その土ですべてを串刺しにするスキルだ。その効果は戦場を二つにわけた。

「槍っ」

 ラザン将軍の右手が後ろの伸ばされる。

 騎士から将軍へとオレが手渡され一振り刃先を回したあと、気合のこもった一撃が放たれる。


「――剣技《断空閃グラン・ゼロ》っ」


 裂け目の右にいるアンデッドが風の大剣で木っ端みじんにされながら裂け目へと払い落とされる。

 ・・・あれじゃ再生もできないだろう。できたとしても穴から這い上がることもできない。数十体。それだけの数を箒であつめたゴミのように、一瞬にして倒してしまった。

「く・・・流石にきついわい・・・」

 そりゃそうだろう。”技”スキルは生命力を代償にするんだったか、それを2連発なんてすれば老体には毒だろう。

 けれど今ので流れはかわった。

 まだこのあたりだけだったが、味方の眼に希望とやる気がもどってきた。

 ラザン将軍は弱音を吐くより、ここで無理をする方を選んだ。


「わしに続け!、奴らを裂け目へと突き落とすのだ!」

「「「おうっ」」」


 兵士たちが盾を手に、アンデッドへと体当たりをかます。だがアンデッドもこちらの狙いが分かっているかのように盾をおさえ、隙間から武器を伸ばして来る。

 この付近のアンデッドとは一進一退を繰り返しつつなんとか戦線の維持ができている。けれどまもなく横の戦線が崩れた。味方の戦線だ。

「下がるぞ、穴をふさげ!」

 負傷した兵士を引きずり戦線を下げながら横から盾持ちの兵士がアンデッドたちを抑え込みにかかる。けれど一度できた勢いは止めることができなかった。

 魔物がこちらの中衛に襲い掛かり、混戦になる。前線が崩れていく。


「・・・穴を埋めねばならぬな。今一度、突出するか・・・武器殿、お付き合い願おう」

 大丈夫かよ。

 ”技”スキルの疲労も回復してないだろう。無茶をすれば死ぬぞ。

 けれどラザン将軍は再び盾を持つ兵士に合図して敵陣を押し返す。

 その合間をすり抜けるように駆ける。

「《闘衣》っ」

 青い光を纏いながら敵陣の、その先へと。

 体の外側に無数の刃物傷を受けながら、それでも致命傷となる所は守りながら駆けた。

 けれど先へ進めなくなる。この先に敵の大将がいるのだ。それを守るために、多くのアンデッドがラザン将軍へと殺到してきていた。

「ぐっ、頃合いかな。武器殿、頼みますぞ、・・・《闘衣・反転》!」

 体に流れていた青い光が赤に変わる。

 バフスキルか、それともカウンタースキルかわからないがまかせろっ


  神技《ノコギリ草》!


 オレの中の魂値を消費し、刃先から無数の花びらが放たれる。

 花弁は魔物を千々に刻み、細断していく。アンデッドには効きにくいはずの《ノコギリ草》がアンデッドたちを再生不可能な大きさへと細分していく。

「《旋風刃エアスラッシュ》!」

 風スキルによって花弁がより荒々しく辺りを蹂躙していく。

 ラザン将軍へと殺到していた者たちは残骸として転がっていた。

 《闘衣》・・・すごいスキルだな。カウンター系のスキルっぽい。

 花びらの絨毯の中にたつ将軍は、先を見据える。

 漆黒のローブに身をつつみ、宙に浮かぶ禍々しいガイコツ。


 不死の王 リッチ


 あいつがいるからこのアンデッドたちが凶悪なことになっているんだ。

 けれどまだ遠い。リッチまでの距離にはその配下が数十たむろしている。

「・・・・・・」

 ラザン将軍の眼に迷いが見える。

 引くか、それとも進むか――

 右後方に赤い火の玉が現れる。ディーアの最上級魔術《超新星爆発》の火球だ。

 魔法陣を描いてるところに入ってしまったか。火球が収縮し始めていた。

 あれは収縮してから爆発するので・・・、

 今もどると巻き込まれる。


「ふっ、退くことならず、なれば一意専心であれを獲るか。・・・・・・まいるぞっ」

 前へ踏み出す。敵の真っただ中へと。

 花弁に足をとられているハイスケルトンの群れに飛び込んで、体を、蛇腹槍を振り回す。

 力任せのそれを補助し、次々と敵を倒していく。

 けれど、数が多いっ

「ぬうぅぅっ、《風刃スラッシュ》!。どぉけぇい!、《地裂斬アーススラッシャー》!」

 《旋風刃》っ。

 花びらがしおれ始め敵に囲まれ出す。

 襲い掛かってくるハイスケルトンの斬撃を避け、防ぎ、力で押し返す。

「《裂斬スラッシャー》!・・・届かぬかっ」

 押し返しきれなかった奴らから次々に攻撃をくらう。


 防御術《三段突き》っ


 オレの防御術でも防ぎきれない。将軍は痛みに片膝をつき、苦痛の表情を見せる。

 将軍っ、下がれ。これ以上は無理だっ

 将軍っ!

 言葉は届かない。

 跪いたまま、ラザン将軍は立ち上がることができない。

 辺りが明るくなる。音と風が吹き荒れ《超新星爆発》の余波があたりのハイスケルトンをたおし、吹き飛ばした。

 ラザン将軍は体を低くして爆風をやりすごす。

 ・・・なんだよっ、傷が深いのかと思ったら爆風に備えてただけかよっ

 まぎらわしいわ


 けれどやはり怪我が体に負担を与えているようで立ち上がるのに苦悶の声がもれる。

 それでも立ち上がり、二本の武器を構える。

 その表情は厳しい。

 時間さえ稼いでくれればオレの持っている《女王花》のHP自動回復が効いてくるだろうが、そんな暇はなさそうだ。

 さっき吹き飛ばされたスケルトンたちも体勢を整え、こちらへと殺到して来ようとしている。

「すまんな、どうやらこのあたりがわしの終点らしい・・・」

 くそっ、くそ

 この状況を覆せる方法はないのか!

 何かっ、何かスキルを・・・オレのできることは・・・!?


 光が降り注ぐ。

 白い光だ。

 まるでラザン将軍を囲うように。光の波が広がってゆく。

「・・・何だこれは・・・」

 光は丸く円を描き、一度強く輝きを放つと円の中にいるアンデッドがただの”死体”へと浄化されていく。

 あぁ、きたか。


 光魔術《浄化》のスキルで彼女たちの帰還を知る。

 よしっ、助かる目が出てきたぞっ

 《浄化》は発動させる方陣円を描くのにいくばくかの時間を要する。大きさは上級ほどの方陣円ではないが、『方陣円の内に効果』というスキルのためか、方陣円が普通の中級魔術よりも大きいのだ。

 大きいから時間がかかる。

 そして光魔術の方陣は暗いところではよくめだつ。

 特定種族への即死級特効魔術としては避けやすい魔術だったが、エステラのそれはMPの暴力という、魔術だからこそできる外法でそのデメリットを解消していた。


 避ける場所もないほどの、圧倒的な方陣数で。


 ラザン将軍の周りから始まった光の輝きは、終わることなくどんどんと広がり続けていく。

 撃てばあたるアンデッドの大軍相手に、魔素吸収100%超えで還元率もおかしいことになっている。アンデッドが一体入れば一発分の消費は無かったことになる。2体入れば倍撃てる。方陣円の広さなら3,4体入ることも十分ありえる広さだった。

 きっと今頃エステラが歓喜で狂喜乱舞してるだろうなぁ・・・。あのマーダーメイドは終始MP切れで肉肉つぶやいているのがデフォルトだったから。こんな入れ食い状態は初めてだろう。

 そんな光の奔流の中、声が降って来る。

 上から。そして大きな何かが頭上を通り過ぎていく。

 シアだ。アクリアの背に乗っているらしいが・・・通り過ぎるのか・・・

 え?、通り過ぎるのか

 ふーん

 ふーん・・・


「あやつら。しかたない、まだ終わらんらしい。お付き合い願うぞ」

 シアはどうやら上空にいる敵たち、魔術を振らせている霊体モンスターを処理するようだ。

 ラザン将軍の足に力がもどっている。

 動かなくなった死体の中を進み、ラザン将軍は敵陣の最奥――死霊の王リッチの前に立ちふさがった。


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