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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
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閑話 シエストリーネ2

閑話 シエストリーネ


 方針が決まった一同は、聖龍の城までもどってきた。

 出迎えたのは聖龍の幼女――ラナ・D・ウロボロスだった。

「おや、ラナちゃん。君が出迎えとはめずらしいね。何か君の気を引くものなんかあったっけかね」

 アクリア様の揶揄やゆに溜息一つで答えたラナ様は、「ん」と顎一つでみんなを先導していく。

 向かうのは保健室だった。

 ・・・男の叫び声が聞こえてくるような。


 部屋の扉をガラガラと開けると、ちょうど愁嘆場しゅうたんばの最中だった。

「死なせてくださいっ、死なせてっ、もう、みんないってしまった。ボクがっ、ボクが手にかけた仲間もいたんですっ。すぐいくからって。追いかけるからって!。だから、死なないと待たせることになるからっ」

 中では保健室の先生によってベッドに拘束されているらしいレイウッドがいた。かなり暴れたのだろう、手首と手首のベルトの間にかませてあるタオルには赤い血が付着しているのが見て取れる。

「・・・何ですの」

「レイウッド、おきた。」

「あれじゃよ。ちと元気になったのはいいのじゃが、かわりに死にたい死にたいとさわいでばかりじゃよ。初めは魔術使って自殺まで企ておったぞ。手のかかる患者じゃ」

 レイウッドの胸の上に三つの宝石の入った置物が置いてある。あれが魔術やスキルを阻害しているのかもしれない。あと、彼の邪武器はベッド枕元に置かれていた。何も施されていないのでスキルが使えるはずなのだが、邪武器の主は沈黙をたもっている。


「あぁっ、シアさんっ、き、君がボクをここに連れてきたんだって聞いたっ。なんてことをしてくれたんだ、もうほっておいてくれ!」

 ご主人様を見つけてさっそく苦情を言ってくるが、当のご主人様はそれを取りあわず、先生にもう一人の少女の居場所を質問した。

「ユエさんなら湖の方ですね。散歩がしたいと言って外にいってしまいました」

 散歩したいってことならレイウッドのように凝り固まった決意で「死にたい!」なんてことを繰り返したりしないだろう。

「・・・エステラ、あのこのことまかせていい?」

「いいですけど、こちらのほうが大変なんじゃ?」

「飛び降りたら、困る」

 そういやここは浮島だった。

 島の端からなら容易に飛び降り自殺できるだろう。

「・・・行ってきますわ」

 まだ騒いでいるレイウッドが気になりつつも、私は保健室をあとにした。




 城を出て外縁沿いを小走りで走る。

 見つからない。

 左回りに来てしまったが、少女は右回りに歩いているのだろうか。そうだったらもうしばらく見つけれらないだろう。

 私はいったん速度を落とし、湖の方に顔を向ける。

 確か城に近寄りすぎると矢と魔法がふってくるのだ。なので湖はあまり確認していなかったが・・・

「・・・いましたわ」

 湖の真ん中に、何かが浮いていた。

 ここからでは水面に出ている部分しか見えないが、その出ている部分が動いていた。あきらかに何かの生物である。

 矢と魔法のふる湖に大きめの生物がいるとも思えない。

 なのであれがそうだろう。

 ・・・・・・泳いでいくしかない。

 見ている人もいないし、いいか。


 木の枝にメイド服をかけ、下着姿で湖に飛び込んだ。

 ゆっくりと近づくと、10メートルほどの距離で少女がこちらに顔を向ける。

「・・・だーれ?」

「・・・エステラですわ。邪武器をもつ主の、配下です」

 きれいな少女だった。仰向けで浮かんでいると、ウネウネとウェーブを描く髪の毛が広がり、不思議な色を描いていた。

 ――いや、これは違う。

 深い緑色をしていた髪が、毛の先からゆっくりと赤色に変わっていく。

 色の変わる髪。

 これが、『大王海月』の血が混じった亜人なのか。

「・・・それ以上近づくと、危ない」

「危ないですか?」

 矢の降ってくる範囲だろうか。

「赤は、警戒色だから」

 あんたがか。

 私が警戒されているということだ。

「ユエ様、私はあの洞窟からあなたを連れ出したシア様の配下ですわ。シア様は今、レイウッド様を説得にかかっています。・・・レイウッド様が死ぬんだと喚いていますから。だから私があなたを探しにきたのですわ」

「そう。大丈夫だよ、ユエは死にたくない。死のうなんて考えてない。体が痛くても、暑くても、ぼーっとしてても、生きれるなら生きるよ」

 そう言って目をつぶり、水面に体をあずける。

「あなたたちが助けてくれるって言ったから、ユエは生きるよ」

 警戒色そのままで、そう言われてもね。



 ユエさんをつれて保健室にもどるとレイウッドが青い顔でぐるぐる巻きにされていた。体には包帯、口には布でクツワを咬ませてあった。

「・・・・・・いったい何があったんですか」

 疲れた顔のご主人様と保険の先生に質問した。ちなみに龍の方々は遠巻きに見ているだけのようだ。彼らからすれば生きる、生きないは他人事なのだろう。あくまでご主人様のやりたいことを手助けしてくれるというスタンスなのだ。

「レイウッド、ウソついたから」

「拘束を解かせてから自殺するつもりだったようですね。・・・ただ、思考に体がついてこなくて目論見通りにいきませんでしたけど」

 決意は固いのか。

 そこまでして生きたくはないなら、死なせてあげればいい。

「・・・・・・シア様、ユエ様は生きるそうですわ。最期まであきらめないで、私たちの話を聞いてくれるそうです」

「ん。よかった。」

 ほっと、ため息がもれる。

 まだまだ問題は山積みだが、生きる目的を持ってもらえたのならば一安心だ。

 そして残る問題は、とみんながレイウッドを見下ろす。


「・・・シア様、私が話してもいいでしょうか」

「エステラ?」

 ご主人様はレイウッドに負い目がある。

 彼の意思を無視して生かそうとしたという負い目が。

 仲間の邪武器を捨てさせ、仲間を説得して終わる決意をさせ、そして見送ってきたレイウッド。

 その心にはとんでもない重圧があっただろう。葛藤があっただろう。そして悲しみがあり、今もそれらすべてが心を閉じ込めて離さない。

 その心を解きほぐすのは誰にも無理かもしれない。

 仲間を殺してしまったと言う呪縛は、それほどに重いのだ・・・。

「エステラ・・・」

「さぁさぁ、みなさん退室してください。先生にはいていただきたいですわね。それ以外は席を外してください。それと・・・失敗しても怒らないでくださいな」


前後に分けたので終わりが中途半端です。

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