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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
181/222

夜襲1


 そう思っていた時期が我々にはありました。

 あちこちに放置されたままだった泥の小山から何かの草の芽が生えていることに、後方の兵士たちは気が付いていた。

 彼らは育つのが早いかな?とは思っても、そのことに疑問を持つことは無かった。

 夕方、通り雨が降った日の夜にそれは起こる。

 急激に成長した蔓植物は周囲の物に巻き付きながらある目的を持って蔓を伸ばし始めた。

 その目的は――捕食。

 植物でありながら栄養を得るために移動する、植物性の魔物だった。

 さて、夜間の襲撃ということであれば、夜の部の騎士たちが対処するはずだった。


「おきろおきろおきろっ!敵の襲撃だっ。食料置き場が狙われてるぞっ。おれたちのごはんがぁっ」

 貴重な補給物資に蔓が伸びる。どんどん伸びる。

 人も襲うが、それは刃物でなんとかなっている。蔓に捕まった仲間がいれば数人がかりで剣や斧で救出していく。

 問題は食料だった。

 初動で人を襲撃に来た魔物だろうと夜の騎士が対処していたため、他の場所の確認が遅れたのだ。

 そのせいで気が付いたころには食料置き場の木箱が蔓でぐるぐるまきにされ、簡単には取り戻せなくなってしまっていた。

「うわぁ・・・どうすればいいんだこれ。木箱に傷がつく分にはしかたないが、中身に傷つけるなとなると・・・」

 集まっている騎士・兵士たちは伐れるところから伐っていた。けれど食料を吸収した蔓がどんどん太く、硬く成長している。


「ぬふう、わしにまかせるのだっ」

 ラザン将軍は片手に斧、片手にオレを装備しながら寝間着姿で起き出していた。

「・・・将軍、食料に傷をつけないようにしてくださいね」

 ・・・・・・無理だろう。

「うおおおぉぉっ」

 ザクザクと蔓を切断し始める。

 けれど切った部分から新しい蔓が伸びる。

 元気だなぁっ、そんなに食料が欲しいのかこのいやしんぼめっ

 何度も伸びてくる蔓を見てるとげんなりしてくる。

「本体を倒さないとダメだな。おい、この本体を探して倒すんだっ」

 陣の様子が慌ただしくなる。もう朝の部も夜の部もない。全員が起き出してきて植物の排除にかかりだしていた。


「襲撃!スケルトンの軍団です!」

「この忙しいときに!」

 敵からすればこちらが忙しいからこそ襲撃しに来たのだろう。

 自陣からすぐに出れる人を集め、スケルトンへの対処に向かわせる。

「根は水場に多く集まってるぞっ、あそこなら火が使える。火魔術師を何人かまわしてくれ」

 方々からそんな声が上がるが火魔術師はスケルトンにも有効なため、そっちからも声がかかっている。

 手が足りていない。圧倒的に足りていない。


「ぬふう、ここはわしがふせいでいるっ、他の者は別の対処へまわれっ」

「は、はいっ」

「よし、食料はあきらめるぞ、今はスケルトンの対処を優先しろ!」

 おそらく指揮階級の者の言葉にみんながスケルトンの対処に行動を始める。

 ・・・さらっと食料をあきらめたな。

 将軍は高火力なかわりに細かい加減ができない。

 食料をあきらめてしまえば植物はちょっと邪魔な段差でしかない。


 ラザン将軍は奮闘している。斧と蛇腹槍の高切断武器の攻撃に蔓はどんどん細く、弱くなっている。将軍一人でも残っている食料は守れそうだった。

 一人ぽつんと残された将軍だけれど、体力仕事はしっかりとこなす。

「うむ。伸びてこなくなったか。根の方が始末されたか・・・?」

 蔓は止まったみたいだけどすぐにここを離れられるわけでもなく、しばらく武器を構えたまま様子をうかがっていた。

 そこへ後ろから声がかかる。

「すいませーん、こっちにシアさんがいるって聞いたんですけど・・・あれ?」

「む、シア殿がもどられたのか?。しばらく用で抜けるとは聞いたが早かったな」

 女だ。それも、年若い少女――王子軍の騎士の恰好をしているが、こんなこ、見た覚えが・・・・・・


 ――ある


 薄暗い中、兵士の兜から一房の髪が垂れていた。

 色は赤。

 赤だった。

 こいつ・・・

 ヒュリアリア・M・アウグステンっ!

 シアッ じゃないっ ラザン気を付けろ!

「えーと。聖剣を使う黒髪で金目の人って、いませんか?」

「・・・それを聞いてどうするつもりだ」


 瞬く間に剣呑な雰囲気へと変わったこちらに、騎士姿の彼女も失言を理解したようだった。

「あらら、何か怪しまれること言っちゃったかな。シアさんとは学園時代からの知り合いなんですがね」

 そう言われてもラザン将軍の警戒は解かれない。

「・・・シア殿はおらん。それを知らない騎士は・・・騎士団にはいない!」

 斧を横一閃に振り切る。

 兵士はそれをひらりとかわしながら、邪魔になった兜を投げ捨てる。

 真っ赤な髪の、少女。

 ヒュリアリアがそこにいた。

 彼女は振るわれる斧と蛇腹槍の攻撃を避け、そして両手の籠手ではじいていく。

 それは黒い手甲。

 ・・・まさか、邪武器かっ

 レイウッドがグラフェン・テスラーに邪武器を送ったと言っていた。その中の一つを手に入れていたとしても不思議はない。

 心のリンク機能がなくても装備することはできる。オレとラザン将軍のように。

 無いと思うが、邪武器ならスキルを使ってくるかもしれない。


 くそっ、将軍に危険を知らせる方法がないっ

 気を付けてくれっ

 そんな心配をよそにヒュリアリアと将軍は武器をかち合わせていく。

 片手でオレを振り回す。けれど両手ではないため、どうしても隙が大きくなる。その隙を狙い、ヒュリアリアがラザン将軍へと肉薄しようとするが、それをもう片手の斧が阻む。

 斧を武器として牽制したり、盾の代わりにしたりと器用に使いこなしている。

「っと、」

 何度目かの打ち合いのあと、ヒュリアリアの袖がオレの刃にひっかかり、少し上半身をグラリとよろけさせた。

 ラザン将軍は今までほとんど前に出なかった足を大きく踏み込む。そのままオレを大振りでヒュリアリアに振るった。

 その瞬間、ヒュリアリアは笑った。口の端をゆがませた嫌な笑い――誘われた!?


「《支転掌》!」


 やつの迎え手に触れたと感じた瞬間、オレの分裂していた刃はその部分から縦に回る。横に薙がれたはずが、まるで90°折り曲げられたように。

 ――けれど次の瞬間、ヒュリアリアは大きく後ろに跳ねた。

 ラザン将軍はオレを振るったまま、もう一歩足を踏み込み、今度は斧を――投げた。

 ヒュリアリアの顔に驚きと、そして焦りが見えた。


「《鬼神力》いぃぃぃぃああっ!」

 ヒュリアリアは大きく吠え、両手の手甲で斧を防ごうとする。

 邪武器の硬度は非常に高い。けれど壊れないわけでは無い。ラザン将軍が投げた斧は手甲の片方に大きく食い込みながら、ヒュリアリアを向かいの天幕までふっとばした。

 追い打ちをかけようと歩き出したが、ヒュリアリアはくるんと転がりながら立ち上がる。

 あれだけの攻撃を受けてすぐ立ち上がれるとは。さっきのスキルは耐久力をあげるスキルかなぁ。奴も短時間の超強化スキルを持ってるみたいだな・・・

 スキルが切れるまでは近づかない方がいいかもしれない。


 けれど――引いたのはヒュリオだった。

 さっき斧を防いだ左手から血が流れ落ちる。浅くない傷を負ったようだ。

 ヒュリアリアは左手を負傷し、ラザン将軍は斧を投げてしまっている。今どちらが優勢かで言えば、少しだけヒュリアリアが優勢だと思う。

 だけれど、陣営の中で戦闘音を響かせていたのだ。襲撃を警戒している兵士たちを呼び込む結果になった。

「・・・攻めきれない、かな。鞭とは思ったよりもやっかいな武器だね」

「逃げるのか。貴様、魔族であろう。最後に名前をなのっていけ」

 兵士が集まりだす前に逃げようとしたヒュリアリアは一瞬止まってこちらを振り向いた。

「・・・ヒュリアリア・アウグステン。魔将、ヒュリアリア・アウグステンだ」

 ヒュリアリアは、己を”魔将”と呼んだ。




 赤毛の亜人が闇の中に消えた後、ラザン将軍は兵士に食料の警備を頼んだ。蔓はもう動かないので監視だけでいい。

「・・・魔将だと?。確かに強くはあったが、恐れるほどではないな。タルティエの言うように、魔王は人材が不足しているのではなかろうか」

 確かに。まだ蛇腹槍の扱いに慣れていない将軍とさえ、うまく戦えていなかった。・・・それとも、”魔将”という昇位で新しい能力に慣れていなかったのだろうか。

 シアが”龍族”になったあと、熱で倒れたように・・・

 しっかし、どこにいるのかと探していたヒュリアリアがこんな所にいたとはね。

 ”魔将”ってことは、今までSランクモンスターを1000体倒していたのか。姿を見ないわけだ。

 なんでそんなことを・・・と思うけど、そっか。思い浮かぶことがあるな。


 『聖剣を探す』


 そのために高難易度ダンジョンを攻略していたのかもしれない。

 魔将はそのオマケだろうか。

 わからないけれど、真都にいるのならちょうどいい。シアが帰ってきて、魔王ともども倒してしまえば心配事が一気に解決するだろう。

 ふふふ、それまでその命、預けておくぞ

 ・・・・・・なんて心の中でつぶやくが、オレの言葉は届かない。ヒュリアリアでさえオレには気が付いていないようだった。

 まだシアと別れて数日だけど、これはつらいな。

 ラザン将軍にヒュリアリアのことを伝えることも、邪武器のことを伝えることもできない。

 主を無くした邪武器たちはこんな思いをしていたのか。レイウッドたちと分かれてしまった彼らを思う。

 心通わせる存在がなくなった彼らは、自分の意思でグラフェン・テスラーの所へ行くことを決めたのだろうか。

 それはいったい、どれほどの覚悟をしたのだろうか・・・

 わからない。

 オレにはまだ。

 シアを失うことなんて、考えたくもないな


 ラザン将軍は急ぎ足で護衛騎士の天幕に向かった。けれど誰もいない。

「誰かおらぬかっ?」

 ただの夜襲ではありえないことだ。

 将軍は何か予感があったのか、足早に夜襲をかけてきたスケルトン軍団を対処している指揮所に飛び込んだ。

「ヴァーダリウス殿、どうなっておる?」

 指揮所にはヴァーダリウス王子とタルティエ、ダークエルフのシシール、寝ているディーに、それからベルティナ嬢とその護衛やらメイドやらがいた。

 護る物を一カ所に集めてきたらしい。


「ラザン殿、死霊王リッチがでました。そのため、戦場にいたスケルトンが全て進化しました。すべて・・・ハイスケルトンに。他にも死霊系の魔物が大挙してやってきています」


 死霊王リッチというと、アンデッドの魔術系最上位な魔物だな。この世界でもそんな感じなようだけど、種族全員進化させる魔術まで持ってるのか。

 スケルトンとハイスケルトンの違いがわからないが、王子軍のほぼ全軍で対処している様子からすると相当強いらしい。

 いや、そもそもスケルトンはそれ自体で種族ではない。人間が死んで骨になったものがスケルトンになる。なので、生物ではないスケルトンが進化するなんてことは普通は起こらない。

 その唯一の例外が”王”の存在である。

 ゴブリン種に”王”が現れた時、種族全体が賢くなるように。

 スケルトンは”王”によって戦闘のための記憶を取り戻すのだ。

 ・・・というような説明をタルティエがラザン将軍にしてくれている。

 戦闘の記憶って・・・戦闘経験やスキルや魔術ってことか。それはほとんど人と同じなんじゃ?、いや、死への恐怖がない分スケルトンの方がよっぽど強いかもしれない。

 やばいなー

 不死の軍団が本気を出してきたってことか。

 まともにやり会うのは面倒だな。どうにかまとめて屠れないものか・・・

 範囲浄化魔術・・・浄化・・・・・・

 あ、浄化の魔術を持ってるのがいたなぁ。エステラだ。光属性魔術の中級だっけ?。《雷光》が中級外発で、《浄化》は・・・もしかして内発か?。《失力》と同じように内発であり、外発だったりすると相手に触れなければ効果を発揮しないことになる。外発であってほしいが、そもそもエステラがいないっていうね。

 エステラカムバッ

 《浄化》を使うタイミングは今しかないぞーっ


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