パパはしょんぼりした
「治癒魔術、ということならルデリウス神聖国が一番技術も人材もそろっていましたわ。けれど・・・」
ルデリウス神聖国は無くなってしまった。そこにいた人材はグラッテン王国や他の周辺国に流れ出ているが、拾い切れていないのが現状だった。
一般の治療機関に二人を任せることも可能だけれど、それはシアの望む結果につながるかわからない。
いや、おそらくはろくな延命もできないだろう。
ならどうするか。
「知恵を拝借ってことなら黒龍様が豊富だねー。生き字引って意味で。技術ってことなら聖龍が何歩か進んだ技術を持ってるねー」
聖龍に二人を預けて黒龍の知恵を拝借するか。
「どうにかするには、昇位させる」
そうだな。昇位させられれば寿命が延びるだろう。・・・何なら昇位できるんだ?
魔将になるのは今からでは無理だ。
Sランク魔物1000体討伐がどうしようもない。
人の昇位は不明だ。シアが”人”から”人族”への昇位の達成条件を得てもステータス欄の記載が変わらなかったことを考えると、人による種族の変化は難しいものだと思う。
「人の昇位?、”人族”が最高位だよ。人は昇位しても姿もスキルも変わらないからね。本質的には昇位ではないかもしれないね」
”亜人”を押しのけられるほどの変化は起こせない。
そうなると残ったのは最後の種族だ。
レイウッドは確か、馬だ。えーと、・・・そうそう『一角馬』、ユニコーンが混ぜられている。
ユニコーンの昇位って何だろう
「『一角馬』の次は人化して魔族になるか、それか『一角天馬』、ベレロフォーンになるかのどちらかだね。昇位の条件まではわからないけど・・・黒龍が知っていればいいね」
一応目処があるならいい。希望がないよりは確実にいい。
あとはもう一人の方か。彼女のことはわからない。どんな種族が混じっているかも不明だ。
「お姉ちゃん、お願い」
「ほいほい。・・・あぁ、なるほどね。この二人が生き残っていたのも理由がわかってきたよ。このこは『大王海月』。自己再生力を持つ大きなクラゲの魔物が混ぜられてるね」
ユニコーンは治癒能力持ち、クラゲは再生能力持ち。
寿命に抗うには単純に回復力をあげれば効果があるってことか。
「『大王海月』の昇位は・・・うーん」
アクリアが悩んでいる。流石にそこまでの知識はなかったか。
「・・・『女王海月』」
メリーエがつぶやく。
「それだ。流石くじらの親類」
「・・・親類とは、違う」
星くじらが海洋生物に詳しいかはわからないが、昇位先があるってわかっただけでも前進だ。
あとは条件を調べるだけだな。
よし、行こう。この先は行動あるのみだ!
「・・・・・・あと一個だけ」
何かあったっけ
「ある。」
シアは苦渋の表情でそう答えた。
王子軍に戻ってきたシアはみんなへのあいさつもそこそこに王子への面会を頼みに行く。
シアと龍二人の圧力にタルティエは二つ返事で許可を出さざるをえず、シアは王子の準備が終わるのを待って彼の天幕へと招かれたのだった。
「こんな真夜中にどうしました。確か東の島に行くとは言っていましたが、何かありましたか?」
「・・・ん。島の洞窟で、仲間を見つけた。けれど、弱ってる。だから、この後彼らを治療する方法を探しに行きたい。・・・いい?」
シアはエステラに説明をまかせ、仲間たちの状態と考えられる対策法とそのためにまた移動しなければいけないことを説明してもらう。
「・・・・・・そうですか。わかりました。早い帰りを待つことにしましょう」
「ダリウス様・・・」
タルティエが青い顔で何か言いたそうにしていた。
魔王のいる真都まで目前にして、ここで戦力の一角が抜けるのだ。青い顔にもなるだろう。
しかしレイウッドのことは人任せにはできない。少なくとも、状態を安定させられるまでは・・・言い出しっぺは責任を持たないと。
なので、シアはどうしても抜けることになってしまう。
「ちょっとだけ、行ってくる」
「はぁ・・・そうですか。早く帰ってきてくださいね」
タルティエは悲しそうに言った。
「ん。がんばる。・・・・だから、はい」
シアはオレを王子にポンと渡した。
ポンと
オレを
オレを渡した。
オレ、渡された。
「え、シア、様?」
「パパを預ける。大事にして。絶対に、後でかえしてもらう」
そ、そうだね。返してもらわないとね。
「・・・・・・わかりました。お預かりします」
「んーん。使って。パパならやってくれる」
うん。
まかせろ。
うん。
うん?
まって、パパ相談されてない。
まってまってまって
冷静になって考えよう
ひっひふーひっひっふー
今やろうとしているのはレイウッドたち、亜人二人の治療だ。必要なのは”龍”に会い、交渉し、情報をもらうための既知友好度合い。できるだけ同じような知識があればなおさら話が早いだろう。
これはシアが主体になってみんなの協力を得ているのでシアは外せない。
そしてシアが外せないということなら、もう一つ。
護衛騎士として、聖剣スキルを持つ勇者候補としてこの戦争に参加すると言う大役だった。
間もなく魔王のいる真都へと攻勢をかける場面で、シアが抜けるというのは非常にいただけない。
シアは抜けられない。
・・・・・・いや、正確には『聖剣スキルを持った勇者候補が抜けられない』ということ。
それがシアである必要はない。
《ノコギリ草》が使えて、敵を蹴散らせるのであれば誰でもいいのだ。
というわけで、オレはシアといっしょじゃなくてもいいわけかっ
なんてこった
「ん。パパならきっとやってくれる」
・・・・・・おう。まかせろ。
娘の期待には応えなきゃな