閑話 リッチ2
短いです。
閑話 リッチ2
おかしい。
人間どもの戦力が異常である。
想定のはるか頭上を飛び越えている。
強大な竜による威圧をあたえつつ、国境付近の砦を囲み持久戦の布陣を構築したまではよかった。
これで朝、夜と襲撃を続ければ人は瓦解する。生命のある存在は自分の死の軍団と違って疲れ知らずとはいかないのだから。
・・・・・・なのにである。
巨大な氷の塊を投擲し、竜一匹を一撃で殺したのだ。
戦力数千に匹敵する竜を、一撃で。
阿呆かと。
馬鹿なことだと。
やってられるかと。
人間とはそこまで個に優れた存在が発生しない種族のはずだ。だからこそ”聖剣”などに頼らなければまともに戦えない弱小種族なのだ。
――そのはずだった。
竜が死に、逃げたせいで前線が崩壊。砦前に布陣していた魔族軍も散り散りになり砦の外は丸裸になってしまった。
そしてその軍を指揮していたはずのビルグロの行方が知れない。
逃げたのか、殺されたのか、逃げる分には構わないと思う。どうせ今代の魔王もそのうち討ち取られるだろう。それがこの世界の常だ。我々はそれに巻き込まれないよう、安全な場所で見ていればいい。
だが討ち取られるのはおしい。
知恵足らずなジャハルレアなどよりよっぽど魔族の将来に有用だ。
まったく、どうなっているのか。
それもこれも、人の戦力を計り違えた結果だった。
「リッチ様、わたしたちはいかがしましょうか・・・」
大隊長のウィズがそう聞いてくる。
前線を支えていたビルグロの軍がなくなったのだ。その代わりを自分の軍でできるとは思えなかった。
散り散りになった兵力を集めながら後退することを考えた方がいいだろう。他の魔将に馬鹿にされようと、ここで軍団を使いつぶす選択は無かった。
砦は砦で時間稼ぎしてもらう。
自分たちは緩慢な後退をしつつ、他からの援軍を待つ。
ウィズにそう命令してリッチは考える。
もし人間がそのまま魔族領までせめてくるとしたら・・・どこまで下がれるだろうか。
自分の軍団をできるだけ減らさないまま後退を演出するにはどうすればいいか。
リッチはすでに魔王を守ることを放棄しはじめていた。