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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
176/222

水龍


 訓練をしていた兵士たちが空を見上げてざわめきだす。

 どうやら客がやってきたようだ。

 エステラが空に向かって数発の《雷光》を放つ。

 こちらを確認した龍は広場の上空を一周した後、真ん中に降り立ちながら人間へと変化した。・・・背中に乗せていた人間をべちゃっと落下させながら。

「お姉ちゃんきったよー」

「お姉ちゃん。ようこそ」

「・・・アクリア様、何か落としましたわよ」


 シアに抱き着こうとしたままアクリアがピタリと止まり、後ろを振り返る。

 地面につっぷしている人間はアクリアを恨めしそうに見ている。

「・・・・・・シアちゃ~ん」

「あわあわ、あわあわ」

 シアに抱き着いて髪をもしゃもしゃしている。

 ほおっておかれた人間は泣きながら立ち上がり、アクリアの後ろに来てめそめそし始めた。

「アクスタリアちゃん・・・落とした・・・落とした・・・落とした・・・」

「あーあー、もうっ、悪かったわね。あんた重いのよ。私がしょって飛ぶのは大変なのよ。ほら、今紹介するからっ」

 アクリアはその人・・・深い紺色から薄い水色へと変わる、不思議な髪と瞳を持った女性をシアたちの前にずいっと押し出してきた。


「これが”水龍”。メリーエ・D・ティアマトよ。すぐに泣きだすから泣いてても気にしないようにね。いちいち取り合ってると気がめいるから」

 ひどい紹介だけど、これがあの星くじらか。

 宙を飛んでいるときには雄々しく優雅でこんなすごい生き物がいるのかと驚いたものだけど・・・。

 アクリアに紹介されてもめそめそしている。

「・・・シア・D・ファフニール。よろしく」

「ぐすっ、よろしくね。新しい子はうれしいんだけど、うれしいと泣いちゃうから、我慢しないと・・・」

 すでに泣いているが。

「・・・お姉ちゃん、星くじらには夏に会いに行くんじゃなかった?」

「待つのが嫌だからつれてきちゃった」

 てへへと笑っている。

 こらえ性の無い緑龍である。

 しかしありがたい。魔王との決戦前に加護がもらえるのはすごく助かる。

「・・・ありがとう、お姉ちゃん」

 シアはアクリアにお礼を言ってメリーエに視線を向ける。アクリアもメリーエにさっさと加護を与えるように促す。そこは間を取り持つように話を持っていけよ、と思わなくもないが。


「あげたいけど・・・なんだか、汚れてる」

 汚れてる?

 シアの額がか?。洗ってくるか・・・

「・・・水、もらってくる」

「シア様、私が少しもっていますわ。ぬぐいますわね」

 エステラが手持ちの水筒から水を布にしみこませ、シアの顔の汚れをぬぐう。

「できましたわ」

「ん。」

 シアの顔がきれいになる。けれどメリーエはまだ躊躇していた。

「・・・・・・あの、わたしがやっちゃっていいですか?」

 メリーエは戸惑いつつそう聞いてきた。

 やっちゃっていいですか、と。

「・・・待ちなさい。何をするつもりなのか説明してから」

「ん。やって」

 シアが承諾すると、メリーエが右手をスッ、と上へ上げた。

 何かと思うと、青空の中から水滴がぽたりと落ちてくる。そしてその水滴は雨になり、土砂降りへと変わる。

「雨だ!」

 周りの兵士たちから歓声があがる。

 水の使用制限と暑さにまいっていたところにこの雨だ。乾いた心に潤いがしみ込むように。兵士たちは雨に喜んだ。

 そして雨粒は水泡になり、周り始める。横に、周り始める。

 まるで銀河のような渦巻を作りだす。いや、むしろこれは・・・洗濯機か。

 体中の汚れを水が洗い流していく。

 水が引いたあとにはきれいなシアときれいなエステラと、きれいになった兵士たちがいた。

 これってスキルなのか?、洗浄スキルあるじゃないかっ。規模からすると上級かもしれない。けれどいつか覚えたいなぁ。


「・・・これでよし、ですね」

 メリーエがシアに手をさしのばしてくる。

 シアがその手をとってそっと目をつむる。

 やさしくメリーエの唇がシアの額に触れる。

「・・・終わったよ。これでシアさんも水の祝福を得られたよ・・・」

 そう言ってポロリと涙を流す。

「おめでとう」

「・・・ありがとう。」

「ご主人様、おめでとうございます」

「ん。ありがとう」

 シアは水の加護を得て、全属性の全攻撃が強くなった。

 メリーエは満足そうに微笑んで噴水の縁に腰を掛ける。

「さて、それじゃ、シアちゃんと・・・」

 アクリアが話し出す横でメリーエがエステラを手招きしている。アクリアの視線に気が付いたメリーエは少しシアたちから距離をとった。

「・・・お姉さんと、その武器くんとお話かな」

 うーわー、あまり話したくないなぁ。この雰囲気。仕事でミスした時にあるやつだ。


「それで、どんなスキルを入手したんだっけ?。お姉さんに説明してごらんよ」

 シアは悪魔を消滅させた後に増えていたスキル、《再器一式》の説明を始めた。

 最初、《再器一式》は50%の確率で装備品がもう1個増えるスキルだった。

 それをオレの《変化》で50%の確率で付与スキルが1個増えるスキルに変更したのだ。

 物品が増加するよりはましだろう、と思ってのことだけど。・・・世界の掟を守る”龍”としてはどうなのか。いいよね。これくらいは許されるよねっ

「まー、変更前はダメだね。物が増えるなんてあきらかに掟に反しているから。変更後のスキルが増えるのなら問題はないよ。スキルが複数つく装備品は普通にあるからね」

 おしゃー!許されたー!

 良かった。

 ”悪魔”のスキルってだけで全部が全部ダメなわけじゃないんだ。”掟”に反していなければ許される。

 ふー、これで一安心だな。

 今後、もしまた”悪魔”のスキルを入手したら、こうやって《変化》させていけばなんとかなるだろう。

 よかったよかった


「あ、そういえば実際に入手したモノってある?。どんな感じなのか見たいなー」

 アクリアにそう言われてシアは王子からもらった特殊輝石を見せる。

「・・・・・・・・・・・・えぇ?」

 アクリアは目をしばたいていた。

「ん?」

「・・・・・・えーと。シアちゃん。斬属性強化の付与があるけれど、これ持ってから色々なものが良く斬れるなぁ、とか思わなかった?」

 よく切れる?。あいかわらず蛇腹槍になるとザクザク切断できていたし、確かにいつもより切断速度が速かった気もするけど。

 特殊輝石分くらいは強化されているよな

「ん。普通に切れやすくなった」

「そうなんだ。・・・他にも何かスキルが増えた装備品とかないかな」

 シアは話し中のエステラに目を向ける。エステラはメリーエに額にキスをされて加護をもらった後、どうやら洗浄スキルを教え込まされているようだった。メイドとして主の整容をしっかり整えておけということか。

 しかたなくシアは《魔素治力》の赤い宝石をアクシアと行ったり来たりさせはじめる。

「あげる・・・ちょうだい。あげる・・・ちょうだい。あげる・・・ちょうだい、あ」

 何度目かのやり取りの後、宝石がうっすら輝いた。

「・・・どう?」

「・・・・・・増えたね」

 アクリアはその宝石を難しい顔で見つめていた。


「増えたね・・・《魔素治力》の付与スキル30%が・・・、二つ」


 ん?

「ん?」

 ふたつ?。

 ふたつ・・・同じスキルが二つってことか?。

「《魔素治力》が、二つで60%になる?」

「そうなるかなー。二つだし、そうなっちゃうだろうね」

 シアはもう一個の《斬属性強化》の石を持ち上げた。

「それじゃ、こっちは」

「《斬属性強化》25%が二つついているね。合計すると50%強化されると思うよ」

 ・・・増えるのは、まったく同じスキルなのか。

 ・・・・・・強すぎないか?

「もともとは装備が増えるスキルだったんでしょ?、鎧・・・黒い鎧を手に入れたら黒い鎧がもう一個手に入るスキルだったわけね。黒い鎧を手に入れて白い鎧が手に入るわけでも、黒い鎧を手に入れてピンクの兜が手に入るスキルなわけでもない。同じ装備がもう一個手に入るスキルなわけよ。だからスキルを変化させた今でも、同じものが手に入るっていう所は変わってないんじゃないかな。同じスキルが付くのはそのせいだろうね」

 なるほど。

「・・・でもねー、同じスキルを二つ持った属性種族がいないように、同じスキルが二つついた装備品も存在しないはずなんだよ・・・だから、あえて言うならこれは・・・”掟”の誤動作ってところかな」

 誤動作。バグってるってことか。

「これは、ダメ?」

「うーん・・・装備品を増やすのは物質を作った星神への”掟”破りだけど・・・、これはどうかなぁ。スキル付与の時に設定された”掟”がなぜか作用しなかったとも言えるから、やっぱり誤動作としか言いようがない、かな。星神の不手際だと思うから、いつか世界がそうなされるまでは気にしなくていいと思うよ。一応星神様に伝信しておくから、100年後くらいにはきちんと別のスキルが付くようになるはずだよ」

 なげーよ


 ・・・まぁ、削除されなさそうなので良かった。スキルが付いた装備もそのままでいいっぽいし。

 しっかし、倍になるのか・・・。いろいろといけないことを考えてしまうな。

 くくく、シアの鎧を受け渡しすれば・・・あ、スキルが二個ついている場合はどうなるんだ?二個とも増えるわけはないだろうし・・・どっちか片方が増えるのかな。てことはエステラの包丁もか。《魔素吸収》だけ増やすことはできないのか。・・・一個のスキルなら単純にうれしい結果になるが、もともと二個以上スキルが付いた装備は難しそうだな。

 ちなみに今一番付与スキルが多いのは3属性耐性がついている短いマントだ。お店の付与魔術師によって火・水・光耐性付与が付いたもので、付与されている性能自体は弱い。

 弱くても増やしておいて損はないし、あとで増やしてしまおう。

 ふふふ、シアの命にかかわる部分だ。遠慮なんてせずに積極的に悪用していこう。

 ”悪魔”のスキルが思ったよりも強力だったようで、オレはうれしくなってしまう。

 ふふふふふふふ

「・・・みんなきれいになったのに、パパだけが汚い」

 失敬な。

 龍が許可したんだからオレは悪くない(他人事)

 ともあれ、これでようやく一つの懸念事項が終わった。

 一安心だ。



 そういやアクリアを「お姉ちゃん」呼びしてたけど、何かあったっけ?

「次に会う時は、『お姉ちゃん』で、って言われてた」

 そうだっけ。微妙にニマニマしてたし、喜ばせておけばちょろいっぽいからそのままでもいいか。

「ん。」



 行った装備品のスキル修正と、ちょろアクリアによる数値の鑑定をまとめておこう。


 シアが

オレンジの宝石のペンダント 《斬属性強化》 25%+25%

赤いパイロープの宝石のペンダント 《魔素治力》 30%+30%

特殊輝石 《筋力+》 10+10

白銀の胴鎧 《自動修復》 10%+10% 《自然治癒》 15%

黒いマント 《火耐性》 3%+3% 《水耐性》 3% 《光耐性》 3%


 エステラが

特殊輝石 《魔素吸収》 20%+20%

特殊輝石 《魔素吸収》 15%+15%

包丁 《魔獣特効》 10% 《魔素吸収》 5%+5%

包丁 《水生特効》 10% 《魔素吸収》 5%+5%

包丁 《竜特効》 10%+10% 《魔素吸収》 5%

黒いマント 《火耐性》 3% 《水耐性》 3% 《土耐性》 3%+3%

短剣 《速力》 + 《速力》

盾 《斬耐性》 5%+5% 《突耐性》 5%

鎖衣 《斬耐性》 3%+3% 

メイド服 《熱耐性》 1%+1%

指輪 《水泡》 + 《水泡》


 ディーとディーアの装備に手は入れてない。この二人までやるとなら王子も、なら護衛騎士も・・・と際限がなさそうなので。王子たちと別れたあとも二人がシアといっしょに行動するようならその時考えようってことになった。

 ただ、ディーアの眼鏡が《知力+》だったのでそれだけは増やしておいた。

 やはり眼鏡は知的であるべきだからな(満足)

 それにしても、魔道具のスキルは効果が増えるのではなく、スキルが増えた。いや、増えるスキルを使ってるから間違いではないんだけども、どうなんだろうか。

 武器の術スキルならクールタイムがあるからスキル二つあっても意味はある。倍撃てるようになるからね。

 けれど魔術スキルはMPがあるかぎり連射できるわけだから、スキルが二つあっても意味がない。いや、・・・両方にMPを流せば効果が倍になるかもしれない。

 うーん・・・・・・。それでもあまり意味はなさそうだけど。


 エステラの指輪は”水龍”メーリエからあずかったものだと言う。洗浄用に使われていた《水泡》のスキルを覚えていないから、覚えるまで使っていいと言われたらしい。

 あの洗浄スキル、どうやら水魔術と魔魔術の混成魔術だったらしい。エステラは洗浄力を挙げる魔魔術も覚えていないのでどのみちしばらくはきれいにならないのだが。

 複数スキルの装備は、やはり増える物はこっちで選べないらしい。何が付くかは運任せだった。

 たとえ選べなくても、強いなー・・・。エステラとか《魔素吸収》が自身の固有スキルを含めて合計100%超えてるんだけど、どうなるんだ?。撃てば撃つほどMPが増えていくのか?。おもしろい。

 ともあれ、これでこの先の戦いへの準備は終わった。


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