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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
173/222

黒豹


「では・・・離れていてください。爆発の余波で天井が崩れるかもしれませんから気を付けてくださいね」

 溶解竜から十分距離をとってディーアが溶解竜の真下に魔法陣を描いていく。

 描かれている最中でも奴は微動だにしない。攻撃に対しては反撃しても、魔法陣を攻撃とは理解してないのか動かない。

 しかし方陣が完成し、方陣の上――溶解竜の体内に火の玉があらわれ、どんどんと大きくなる。溶解竜は慌て始めた。体を伸縮して自身の体の不調を確かめ、辺りを捜索しはじめ、そして近くに敵なる物の存在が無いことがわかるとまるで首をかしげるように体を曲げる。

 ――それが溶解竜の最期だった。

 火の玉が収縮し、赤から白へと輝きを変え・・・そして大爆発が起こる。


 火属性最上級魔術《超新星爆発》


 それは溶解竜を消し飛ばし、1階層と2階層の半分を土砂で埋め、術士自身も爆風で壁に叩きつけて気絶させるというとんでもない威力を発揮した。

 土砂の崩落がおさまった後、騎士たちは悟った。

 人力で出口を作るのは無理だな、と。



 二日後。

 ダンジョンの自動修復機能のおかげで魔術で破壊された階層が元通りになった。

 ディーアも回復し、騎士たちは慎重に1階層の調査を開始する。

「・・・いないな」

「はい。どこにもいません」

「ダンジョンの入り口までは確認終わりました!、この先はまだ、魔族がいます。遠巻きにこちらを囲んでいる様子っ。溶解竜の姿はありませんっ」

「・・・どうやら本当に溶解竜はいなくなったようだな。ディーア殿の魔術のおかげか」

 人に恐れられていた古代のスライムも、人に飼われるようになってしまってはこんな簡単に排除されるようになってしまう。

 入り口を封鎖するように命令されていなければ、体内に火球ができたあたりで逃げていただろう。おかげで完全勝利だ。


 さて、入り口が開いたので外に出て行くわけだが・・・外は囲まれている。

 まず入り口周辺の確保のために盾を持った騎士たちが一気に飛び出し、円陣を作ることになった。

十人ほどの騎士が外へと突撃すると、程なく外を風の刃が押しつぶすのがわかった。


 剣技スキル《断空閃》


 広範囲、高火力スキルを喰らった十人はみんな倒れ、回収を余儀なくされた。命に別状はない。昏倒しているだけだ。

「だめか。”技”スキル持ちがいるとはな。何人いるかわからないが、次の盾を突っ込ませてみるか?」

 盾、と言われてジェフリーが青い顔をしていた。言ったのはクラウニードである。クラウニードは二刀なので自分に関係ないと思い、盾を消耗品あつかいしている。ひどい話だ。

 ひどい話だけど、作戦は悪くない。

 ”技”スキルのクールタイムは基本的に一時間。その一時間の間なら、スキルを打ち終わってしまえば次のスキルが使えない。何度も使わせればスキル持ちも尽き、ようやく入り口の確保ができるだろう。

 しかし、”技”スキル持ちってそんなにいただろうか。確か部隊長が持っていたけれど、持っていなければ部隊長になれないわけではないはずだ。

 ここを囲む人数はわからないが、それほど多くの”技”スキル持ちがいるとは思えない。

「よし、それでは次の盾を・・・」

「私が行く」

 シアがオレを携えながら立ち上がった。

「シア様、あなたはうちの一番の戦力なのですからここぞという所で・・・」

「行く。かき回して来る」

 王子の言葉を断ってシアは入口へと歩いていく。途中に騎士たちが集めていた盾を一枚拾う。

「借りる」

「待て」

 ちらりと振り返ると不敵な笑みを浮かべるラザン将軍が、王子の肩を掴んでずいっと前に出てきた。

「わしも行こう。盾をもらって行くぞ。後のタイミングは王子がとれ。わしらを見殺しにはしてくれるな」

「将軍が行くならおれも行こう。3人で分ければ効率もいいだろう」

 同じように立ち上がったのはクラウニードだった。

 ラザン将軍は知らないが、クラウニードの速度なら敵陣をひっかきまわすことができるだろう。頼りにできそうだ。

 いろいろあきらめた王子に安全配分だけは多めに取るように言われながら、3人は準備を終える。


「シアはあっち、将軍はそっち、おれはこっちだ。いいか、1,2,3,で行くぞ」

「ん。」

「うむ」

 クラウニードがタイミングを計る。「1,・・・2,・・・」

 3

 シアは飛び出した。

 盾をかかげ、後ろを振り返らずにダンジョンを飛び出す。

 自分たちを取り囲む敵の動揺が肌に感じられる。

 けれどその動揺はすぐに消え、魔術と矢弾とともに殺意として自分に向けられたのを知る。

 シアは時折走る方向を変えながら、敵の中へと飛び込む。

 ――分隊単位で固まっているな。周囲に3個の分隊がある。合計60人弱だ。

 シアはその一つに飛び込み、オレを振り回す。

 一凪で数人の魔族を倒しながら移動していく。

 シアに近寄れるものはいない。相手の武器の攻撃範囲はシアにとってはすでに確殺範囲でしかない。たまにタイミングを合わせたように魔術と弓矢による攻撃が飛んでくる。

 それをシアは《爆風》で適当に散らし、散らなかったモノを回避する。近くの敵をあらかた倒したら木々の間を移動しながら次の分隊を探す。


 三つ目の分隊に襲い掛かった時だ、シアに鋭い攻撃が飛んできた。

「つっ」

 ギリギリでその攻撃をかわす。

 これは、投げナイフか。

 しかも黒く塗られていて視認しにくくなっている。

 シアの動きがぎこちなくなる。

 今の攻撃、だれが撃ってきたのかわからないのだ。

 またどこかから攻撃が飛んできてもいいように周囲を警戒する。代わりに他の魔族を減らす速度が落ちてしまう。

 暗殺界隈の魔族でも紛れていたか?厄介だなぁ。

 それでも魔族を減らすためにシアは動き続ける。しかしシアが魔族を狙えばその時々にナイフの攻撃が飛んでくるのだ。

 脚に二本、背中に一本。毒が塗られていないのは僥倖だったが、シアはナイフを体に受けていた。

なのに、どこから投げられたのかいまだにわからない。

 そんなことってあるか?シアだけじゃない。オレも警戒しているんだ。その二人分の目をかいくぐり、ナイフを投げてくる。

 できるのか?

 これは、思い違いや見落としがあるな・・・・・・

 シア、もう少し頑張ってくれ。オレが探す

「ん。」

 シアは魔物を減らすことに意識を向けなおした。

 それを感じたのか、投げられるナイフの数が増え始めた。

 くそ、何もない、何もいないっ、飛んでくるのを偶然見ることができた。けれどナイフが飛んできた場所の草葉はまったく揺れていない。まるで、ナイフだけが飛んできたように。

 ナイフに目は無い。

 邪武器ではない。

 なら、そんなことができるのは・・・

 シア、走れ。辺りをジグザグに移動しながら走れっ

「んっ」

 シアは攻撃を捨て、辺りを走り回る。

 それを追いかけるようにいくつもの気配が感じられる。

 よし、シア、迎撃だ。追いかけてきたのを処理してくれ。

 反転し、さっきの気配を倒していく。

 向かってくる気配を倒すと、再びシアに走るように言う。

 まだ追いかけてくる気配がある。自身が隠れることを優先している気配。

 かなり小さいな。

 どうやら背が小さいらしく、着ているマントくらいしか見えない。武器を持っているようにも思えない不思議な相手。

 シア、あの小さいのを狙ってくれ

「んっ。」

 小さい追跡者にシアが真っすぐ駆け出す。

 自分に向かってくる存在に気が付いた追跡者は急いで逃げようと身をひるがえらせる。

 けれどシアの速度にはかなわない。

 今までわからなかった姿が見えてくる。


 それはゴブリンだった。いや、ゴブリン似の魔族だ。おそらくはゴブリンから昇位したのだろう。体が小さく、草木に隠れながらシアの後ろをずっとついてきていたらしい。

 ゴブリンはシアが武器をふり被ったのを見て、その周囲に複数のナイフを浮かべた。

 サイコキネシス。物体浮遊能力者。念動力。テレキネシスとも呼ばれる。

 手を使わずに物を浮かべそしてそれを動かすことができる固有スキルを持った相手。

 この世界に超能力があるかはわからないが、理屈としてはそうなのだろう。

 シアは放たれたナイフ群を《爆風》で吹き飛ばす。

 その間にゴブリンが木の幹を足場に、サルのように木を駆け上がる。

 シアはオレを横一線する。

「あぎぃっ!?」

 倒れる木から落ちてくるゴブリンを空中で切断する。

 姿がわからなければ厄介だが、見つけてしまえば戦闘力のないゴブリンでしかない。


 ナイフ遣いを処理し、シアがダンジョン入り口近くに戻ってきたころにはすでに騎士たちがダンジョンの入り口を確保し、魔術師によって周囲への攻撃を始めていた。

 エステラたちが頑張っている。どうやら”技”スキルは撃たれていないようだ。一発目の”技”スキルから30分。この様子なら次のスキルを撃たれる前にこちらの騎士たちが外に出られそうだ。


「ぐうっ」

 どこかで辛そうな声が聞こえた。

 クラウニードだ。

 クラウニードの前には彼より頭三つ分は大きい黒い影がいる。

 その影の攻撃を、クラウニードは刀でふせぐ。

 鋭い斬撃がクラウニードに襲い掛かる。彼は防戦一方になりながらもその攻撃をしのいでいたが、刀を持つ手が限界だったのだろう、片手の一本をはじき落された。

 振り下ろされる剣。

 体をそらせようとするクラウニード。

 そして、とっさに手をのばし、《夜槍》を飛ばそうとするシア。

 クラウニードは左肩を斬られながら後ろに転がり、シアの飛ばした《夜槍》は大分タイミングを逃しながら影へと飛び、簡単に避けられてしまう。

「クラウニードっ」

 シアが影に攻撃を繰り出しながらクラウニードの前に体を割り込ませる。

 これは・・・・・・っ

 ゴポリ、とクラウニードは血を吐いた。傷は肺まで達している。

 ――助からない

「っ」

 シアは影を・・・黒い姿をした豹の魔族を牽制していた。

 くそ・・・すまない、そっちに集中しよう。

 クラウニードの戦闘術はシアの槍より上だ。そのクラウニードが剣で負けた。シア、そいつの間合いには入るなっ、相当やばいぞっ


 蛇腹槍で黒豹を攻撃するが、黒豹はそれを受け流し、攻撃が効く様子が見えない。

 右手に長剣、左手に短剣を持ち、軽鎧に身を包んだ双剣の剣士。

 しかしその技量はかなり高い。シアの斬撃を片手の剣だけで払い、軌道を変える。

 この戦闘力・・・部隊長だったリグナント・リルシャーク以上か。こいつが部隊長だろう。

「くくく、力はさっきのよりは強いようだな」

 黒豹が楽しそうに笑う。

「そのうえ厄介な武器を持っているようだ。・・・しかし、それだけか。それだけだな。それならもう、理解した」

 シアの攻撃がやすやすと振り払われ始めている。攻撃に慣れてきている。

 こちらが黒豹の攻撃に慣れるよりも、もっと早く。

 ――経験の差か。

 こればかりは早々に埋まらない技術だ。

「つっ、・・・くっ」

 少しずつ、シアが押され始める。

 払われた攻撃の合間に黒豹はこちらに近づきつつある。

「本当にそれだけか。もっとあるだろう。本気を出さねば次は貴様だぞ。・・・《影走り》」

 地面を走るように左手の短剣が伸びる。

 シア、右からもだっ

 短剣を追い越すように右からも剣が振られている。速度を変えての同時攻撃。シアは自分の目の前に円を描くようにオレを振りまわす。

 下と横からの攻撃を同時に弾き飛ばすことはできたが、代わりに正面がまるっとがら空きになってしまう。


「《衝咆グラハウル》っ、ウアオォォォゥっ!」


 黒豹が吼え、シアの体をビリビリとした空気の衝撃波が通り過ぎて行った。勝ちを確信したように黒豹が足を踏み出し、右手の剣を振り下ろした。

 シアはその、さっきまでよりも気の抜けた剣戟をかいくぐり、大きく踏み込みながら《風突》を放つ。

「!?、《土壁アースウォール》!、咆哮が効かぬのかっ、面白いではないか」

 流石魔族の部隊長クラス。知らないスキル構成だ。今の咆哮は受けると動けなくなるような奴なのか・・・?、シアに効かないとなると、闇属性か威圧のどちらかだろうな。

 効かなかったおかげでもらえた隙だったが、《土壁》で防がれてしまった。

 どうする・・・次の撃ち合いはもう隙なんて作ってくれないだろう。

 本気でくるぞっ。


 シアは小さく深呼吸した。

 気持ちを入れ直し、強者に対するための準備を終えた。

「・・・《龍変化ドラグニール》っ」

 龍へと変化する。角と尻尾を生やし、筋力と耐久力が増強される代わりに器用さと速度を犠牲にする。

 シアの斬撃が今までとはあきらかに違う速度で黒豹へと襲いかかる。

 斬撃を受け流せていた黒豹に驚きの表情が現れた。

 より重く、鋭さを増した攻撃に黒豹は後退を余儀なくされる。


「・・・《旋風刃エアスラッシュ》!」

「《旋風刃エアスラッシュ》っ」

 黒豹の《旋風刃》をシアの《旋風刃》で相殺し、さらに黒豹の体を切り裂く。

 やっとこちらの攻撃が入った!と思った瞬間に黒豹が踏み込んできた。

「《二連撃ダブルアタック》!」

 黒豹の一撃目を刃で受け、二撃目を柄で受ける。

 ――防御術《三段突き》っ

 黒豹はとっさに体をひねり《三段突き》の一撃目を軽傷で交わす。けれど二撃目、三撃目が体を穿つ。

 よしっ

 黒豹は下がりながら剣を振るう。下がるための剣。シアから距離をとり、膝をつく。

 もしかして硬いか?、《三段突き》が入ったのに致命傷を負わせられなかった。

 けれど防御術は有効だ。

 防御と攻撃が一体になったこのスキル、剣士であれば非常に嫌な攻撃だろう。

 相手がこれまでと同じようなスキルを使っている限り、アドバンテージはこちらに傾いている。


「・・・驚いたな。そんな小さな体でおれを下がらせるのか。娘、名前は何という?」

「・・・・・・シア」

「そうか。シア、お前はすごいぞ。すごい娘だ」

 黒豹はそう言いながら笑っていた。膝をつかされているのにだ。

 そして笑いながら言った。

「お前は、今のうちに殺しておこう。悪いな、シア」

 そう言って立ち上がる。


「《獣退行ビステイア》」


 黒豹の体が震えたように見えた。

 大きくなる。

 黒豹の体が、一回り。

 腕が、脚が、そして体が。

 筋肉がまるで音を立てるように盛り上がる。

 体についた傷が筋肉によってふさがっていく。

 おいおいおい

 おいおいおいおいおいおい

 大きく一つ吠え、踏み込んでくる。

 剣が重い。

 あきらかに強くなっている。

 けれどシアの《龍変化》ほどではない。あれは筋力と耐久が倍になる。この《獣退行》はそれより弱い。

 黒豹の斬撃を防ぎ、こちらの攻撃を叩きつける。

 少しずつ、少しずつだが黒豹に傷が増えていく。

「く・・・あぁっ!」

 大きく振りかぶってから剣を振り下ろして来る。大振りの攻撃。

「んっ」

 シアはそれにオレを叩きつける。武器と武器の激突。

 それは、片方の武器の破壊と言う結果として現れた。

 黒豹は砕けた剣を投げ捨てる。


「・・・《獣退行ビステイア》っ」

 なっ!?

 クールタイムが無いのかっ

 スキル中に同じスキルを重ねがけだとっ

 さらに体が大きくなる。目が血走り、牙をすり合わせ四肢で大地を掴み、まるで獣のようにうなり声をあげる。

 そして

「・・・・・・《獣退行ビステイア》」

 さらにスキルが使われた。


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