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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
172/222

洞窟に閉じ込められて


 強い決意に一同が意気揚々と歩を進める。

 けれど3階層まで戻ってきたときだった。

「緊急っ、緊急ですっ!。外部より魔族の襲撃ですっ」

「報告こっちへっ」


 数人の兵士が進行方向から走ってくる。

 彼らは王子の所までくると、ほっとした表情で報告を行った。

「このダンジョンを囲うように多数の魔族が現れました。おそらく魔族軍かと。外の騎士がダンジョンを守りながら戦っていたのですが守れず、洞窟内まで撤退。そして・・・その」

 兵士が言いよどむ。代わりに別の兵士が報告を引き継いだ。


「入り口に溶解竜が侵入してきまして、・・・完全に封鎖されました」

 ・・・・・・何だって?

 溶解竜が封鎖?

 ・・・・・・・・・・・・出られなくなった?。

 ダンジョンから出られなくなった・・・・・・。

「閉じ込められた?」

「・・・・・・はい。端的に言えば、そうなります」


 溶解竜はスライムの古代種。

 その体内に取り込んだモノを溶かし、吸収する。倒すためには体内のどこかにある核のようなモノを壊さなければならない。

 おそらく、砦の所にいた溶解竜だろう。どこかに逃げたと思っていたが、どうやら魔族軍と合流してこちらの様子をうかがっていたらしい。

 まだ制圧しきっていない地域で、王子が軍団を動かしたのは少し軽率だったか。

 これだけの人数を動かして敵に把握されないわけもなかった。

 そしてその多くがどうやらダンジョンの中へと入ってしまった。これは好機かもしれないと、敵は考えたわけだ。

 入り口付近の敵を包囲し、ダンジョンの中へと逃げ込ませ、そして入り口をふさいでしまう。


 一網打尽


 そういうことだろう。

 アリの巣に水を流した時のことを思い出すなぁ・・・あれはどうなったのか。雨が降ったら毎回水没するとも思えないから、どこかで水の流れを制御しているのかもしれない。

 けれどダンジョンは入り口がふさがれることを想定して作られていない。

 他に脱出する出口はないのだ。

 ・・・・・・掘るか。

 できなくはないな。数日すれば穴が戻ってしまうが、戻る前に地上につながればいいだろう。

 もしくはダンジョンの魔素を枯渇させてから掘れば、穴が戻ることもない。


「・・・・・・聖剣を試してみていいでしょうか」

 2階層での対策会議の中、王子がそう言いだした。

 見に行った護衛騎士によれば、がっつりと入り口が封鎖されていたそうだ。火や氷の魔術では焼いたり凍らせたりしてもすぐに吸収されて元通りになってしまったそうだ。

 そして攻撃してきた相手を捕まえるように、粘着性の体をこちらに伸ばしてきたという。

「王子、攻撃すればこちらを捕えようと反撃してきます。もし聖剣があの中に取り込まれでもしたら、もう取り戻すことができなくなるかもしれませんよ」

「ですが、他の穴を作ってそこから出るといのは良い作戦とは思えません。魔族軍は上にいるんですよ。穴を開けても出してくれはしないでしょう。それに」

 王子は一度言葉を切った。


「これは、溶解竜を倒すチャンスだと考えます」

 入り口をふさがれていると言うことは、相手があそこから動かないということでもある。

 本来なら魔族の軍が近くにいて溶解竜と一対一になれる場面はなかった。けれど今は違う。攻撃しなければ、かなり近い場所まで近寄ることができるのだ。

 こちらの攻撃を試すことができるほどに。

「今ここで決定打となる攻撃方法を探し、溶解竜を倒します。別の入り口を作ったのではあれの脅威を後々に残すことになってしまう。それは危機回避の観点からも良くないと思いませんか」

 確かに。別の出口から出た場合、溶解竜と魔族軍、両方を相手にしなければならなくなるかもしれない。

 なら、まずは一体。溶解竜だけをどうにか排除しようということだ。


「そうですな・・・確かにまだ時間はある。食料は第二陣地に持ってきていたのであと5日は何とかなりましょう。穴を掘るのは二日でできなくはない。ないな?」

 ラザン将軍が騎士団の隊長に確認を取る。

「・・・・・・一層の壁はかなり硬いです。それに、スコップやつるはし類はそれほど持ってきてはおりません。確実とは言えませんが、・・・できなくはないと思います」

 ぴし、とシアが手を挙げた。

「ん。《虚無弾アーマーン》があるからすぐ掘れる」

「あーまーん?」

 首をかしげている騎士が多かった。

 無属性魔術はイズワルド王国でも不人気らしい。

 シア、見せてやれ

「ん。」

 シアは立ち上がり、近くの壁に手を伸ばす


「《虚無弾アーマーン》。」

 手慣れた調子で術名を一度詠唱しただけでいくつもの《虚無弾》が現れ、壁を穴だらけにする。狙いをつける工程がはぶけるからできる方法だ。

「ほう・・・、これは面白い魔術ですな。これなら穴はいつでも開けそうです」

 ふふふ、<穴掘り名人>の称号は伊達ではないのだよ。

 脱出路の確保が確実だとわかると、幾人かの騎士から安堵のため息がもれた。

「この魔術、堀った土とかは虚無に消える。だからスライムもこれで量を減らしていくことができる」

 何度も《虚無弾》をあてることでだんだんと質量を削ることができる。

 シアが提示した、溶解竜の別の倒し方だった。


「・・・遠距離魔術なのか。ダリウス様が聖剣を持って近づくより安全ではないか?」

 シシールがそう言うと王子がショックを受けていた。

「い、いえ、自分の体が削られているのに何もしないわけがないでしょう。無駄に溶解竜を怒らせることになるかもしれません。この氷の聖剣で一気に凍らせた方が安全ですよ」

 ・・・王子は聖剣が試したいらしい。

 その気持ちはわかる。

 新しい装備を手に入れたらウキウキして試し打ちしたくなるもんなっ

 先日すごい特殊輝石をもらって試し打ちしたシアはうんうんと頷いていた。

「決定打となる攻撃方法を探す、だったか?。ならやってみてはどうだろうか。聖剣の能力もわからないんだ。凍らせられても全部を凍らせられるという保証はない。なら、少しでも量を減らして一撃で倒せるくらい小さくしてから凍らせればいいだろう」

 騎士団の方からそんな声が上がる。

 特に反対されることもなく、賛同する声もあり、話はその方向でまとまりはじめた。

 おずおずとディーアが手を挙げる。


「あのう・・・動かないのなら、私の最上級魔術をスライムの体内で発動させればいいのでは・・・」

 ・・・・・・。

 あれ、すごく簡単に倒せ・・・る?

「・・・・・・火属性の、大爆発する、あの魔術ですか?」

「はい。あの魔術です。一発分はストックがありますし、前の分もあと数日で制限解除されますから、撃ってしまってもいいかなと思うんですよね」

 スライム大爆発。

 もし入り口が崩れても数日で元通り。もしすぐに開けたいならシアが《虚無弾》すればいい。

 核が壊れるかはわからないが、やってみて損はないだろう。


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