洞窟探索4
「・・・なぁシア、お前さっき《斬月》を使ってたよな。もしかして斬術スキルにも興味あるのか?」
そう声をかけてきたのはクラウニードだ。
迷宮内が安全なため、帰り道でもわいわいと話しながら移動している騎士たちは多い。
「ん。《斬月》はパパがかっこいいからって覚えた」
「そうか。このスキルのカッコよさをわかるやつがいたか。なら、他の”月”スキルも興味あるか?」
なん、だと
”月”スキル、”月”の名を冠するスキルシリーズってことか。ぜひとも興味あるな
「・・・興味、あるみたい。《斬月》しか知らないけど、他にもある?」
「おう。あるぜ。《弧月》、《盈月》、《朧月》、《氷輪》、《空鏡》。おれが知ってるのはこれだけだな。なんでも東方のスキルらしいが、おれが持ってるみたいな片刃の剣じゃないと使えないスキルもある。興味あるなら今度見せてやるぞ」
めっさ興味あるっ
ぜひとも見たいなぁ。
東方かー。ってことは剣ってよりもやっぱり刀で使うことが本来の使い方だろう。
うわー、かっこいいなぁ。オレが刀だったらなぁ
そしたらどんな戦いをしてたんだろうな
想像もできない
でもいいなぁ。ワクワクしてくる
「・・・パパがすっごく喜んでる。帰ったら見せて」
「おう。ははは、まさか”槍”が剣スキルに興味あるなんてな。おもしれーわ」
そう言って笑う。
しかし、”月”か。もしかすると月だけではなく、星や太陽を冠するスキルもありそうだな。興味は尽きない。
いつか時間が出来たなら東方にいってみたい。
シアといっしょにスキル修行の旅もいいかもしれないな
「・・・ん。戦争が終われば、それも叶う」
そうだな。楽しみにしていよう
「いてっ」
そう声を上げたのはクラウニードだった。
「ははは、何転んでるんだよ。足腰が弱いんじゃないのか」
そう言いながらシシールも転んだ。
どじっこ二人である。
「何で君らは魔物の居ない階層で怪我をするんだよ・・・」
そう言って物資を持っている騎士が回復ポ-ションを渡すか、渡さないか悩んでいた。
「くれ」
「うーん・・・なめとけよ」
流石に擦り傷にはもったいないらしい。
シアは彼らのことを少し眺めていたが、気にしないことにして歩きの流れにもどろうとした。
「あたっ」
また誰かが転んだらしい。
・・・・・・シア、ここ何層だっけ?
「6層」
ミノの所だな。滑る床があって交差路で戦わざるを得なかった場所だ。
この下は?
「7層」
ペンギン集団のとこか。滑るのはきっと下の氷のせいだな。上である6層の床まで凍らせてるのか。
ペンギンの下は?
「8層」
竜騎士か。通路に排水機構のある通路だったな。・・・けど通路全部に機構がついてるわけじゃなかった。
「・・・・・・王子っ」
シアは早歩きで王子を探した。
振り返って手を挙げている王子を止まらせ、王子とシシールの描いた地図を照らし合わせる。
6層と7層と8層の地図を。
「今いるのがここ、そして水面が凍っていたのがこのあたり、水が流れていたのがここですね」
「・・・・・・これは」
「・・・はい。そうかもしれません」
一同は転身して元来た道を戻る。
7層、氷鳥族のいた階層。そしてその一番氷の厚い場所へと。
シアの探索眼を使うまでもなかった。
厚い氷の塊の中に、蒼く透明な剣が見える。
美しく、流麗であり、そして恐ろしく力を秘めた何かを感じさせる剣だ。
剣は白く霜の張った氷の中にあった。
霜のせいで見落としていたらしい。
「これが聖剣・・・」
王子が引き込まれるように氷に手をあてる。
――そう。聖剣はあったのだ。ダンジョンの途中に。
ある聖龍は自分の湖を浮かせるために、聖剣を湖底に据え付けたらしい逸話がある。
同じようにここも聖剣によって環境を変化させられたのだ。
氷鳥族がいたから7層が凍っていたのではない。凍っていたから氷鳥族を入居させたのだ。
ここは最初から凍っていた。
聖剣のせいで。
氷を丁寧に砕き、削りだされる。
透明な湖の色を閉じ込めたような、蒼く澄んだ色の聖剣だった。
「水属性を帯びた聖剣は、”竜”の星神の聖剣です・・・。銘は『クリオロフォス』。王族が持つべき聖剣の一本です」
それが今、王子の手の中にあった。
王子は剣をかかげる。
護衛騎士が自ずと片膝をつく。それは騎士団にも波及し、みなが王子にひざまづいていた。
「・・・蒼き尊き天上の一つ星たる”ロウデンハイドン”神の御力を私はここに一振りの聖威としてお借りする。聖剣『クリオロフォス』。私と共に正しきおこないを成さんと欲する。・・・・・・行こう、これより魔族軍との戦争に終止符を打つぞ」
「「「おうっ」」」