管理人
短いです。
一同は一日休んだのち、奥の部屋の扉を開けることにした。
昨日の対策として、盾を持った騎士が5人ついてくることになった。
数を増やせば幻術にかからない人数が増える。
そのための人員であり、もし危険ならすぐ退室する人たちだった。
「では・・・開けます」
一つ目の門扉より小さい。けれど両開きの扉を押し、開ける。
明るい。
これは魔術の光か。
炎に揺らめくあかりではなく、辺りを一定の光量で照らす、電灯に近い明るさ。
しかもこの部屋はきちんと削られ、整えられ、家具や囲炉裏まで作られている。タタミに。和箪笥に。障子もある。
「いらっしゃい。まさかあたしの幻体がやられるとは思わなかったコン」
コンとか言った。
囲炉裏にはヤカンがかけられ、お茶をすする一人の女性が座っていた。座ってくつろいでいた。
青い巫女装束のような服を着て、少し長い耳にキツネのようなしっぽを生やした20代の女。
キツネ女だった。
幻体ということは・・・こっちが本体ってことか?。そうか・・・そうか。
「ん。あれを倒せば、ボスドロップがある」
理解の速い娘である。
「なんだと、あたしを倒せるつもりの奴がいたのかコン」
ギロリとシアに目を向けてくる。
「倒せない、とでも」
キラリとシアの目が輝く。獲物を見つけた目だった。
「・・・あのう、あなたはいったい・・・ここで何をしているのでしょうか」
「ふむ。あたしはこのダンジョンの管理者コン。それでお主らは何の用コン?。新しい入居希望者かコン」
入居て。
このダンジョンは階層で種族ごとにわかれすぎていると思ったら、管理する存在がいたのか。
え?、じゃぁ聖剣は無いのか?、階層ごとに敵が強くなるのではなく、ただ単に入居希望者ごとにただ適当に階を割り振っただけだったのか。
「入居希望では、ないですね・・・。ここには”聖剣”を探しに来たのですが・・・ええと、困ったな・・・」
王子が非常に困惑している。
まさかダンジョンの一番奥でのんびりお茶を飲みながら意思疎通できる相手と対峙することになるとは思わなかったのだろう。
「きっとアレを倒せば聖剣が出てくる」
シアは管理者の討伐推進派だった。
「そんな物は出せんコン。ここには何もないコン。用がないなら帰るコン」
うーん・・・家探しするか?。けれどそれほど物があるわけでもないし、どうなんだろうな。
「ボスドロップ」
「ああん?コン」
シアと管理者とやらが火花を散らす中、王子と護衛騎士たちが丸くなって話し合いを開始していた。
「聖剣の入手というのは、もっとこう、厳格な雰囲気で行われるものだと思っていました」
「まるで大型の住居のような扱いですね。これはハズレなのでは・・・」
「ボスドロップとシアが言ってるが、ボスドロップ品はボスが入手した物がドロップするんだよな?。聖剣もそうなのか?、魔物や魔族が聖剣を入手すると消えると聞いたような記憶があるんだが」
「それならまず、管理人が魔族なのか確認した方がいいのでは?、獣人に見えますよ」
「管理人とやら!」
ラザン将軍の声が洞窟内に響いた。
「なにかコン?」
「お前さんは魔族か?それとも獣人か?」
「あたしは”妖”コン。まぁ、あえて分けるなら魔族だと思っていいコン」
再び王子たちは相談を始める。
妖とは何か。妖なら聖剣は手に入れられるのではないか、なら倒せば聖剣がドロップするのか、そもそも敵対的ではない相手を殺していいのか等々。議論は長い時間にわたった。
面倒な議論をする気がないシアは早々にあきて和風な品々をいじっていたし、話を聞くのが楽しそうなディーアは議論に交じっていた。まぁディーアは発言をするのではなく、話を聞いているのが楽しいっぽかった。エステラは管理人の飲んでいるお茶に興味があるらしく、囲炉裏に座って管理人とお茶を飲んでいた。
そうしてようやく。
帰ることになった。
「ここには何も無い。もしあったとしても、話し合いができて敵ではない相手から殺して奪うようなことはしたくない」
やさしい対応だった。
温いとも言うが、当の王子がそう言うのなら本人の希望にまかせるのみである。
このダンジョンの唯一の拾得物は、もしかすると”妖”のキツネとの邂逅なのかもしれない。
・・・それくらいしか思いつかないという理由で。
エステラがしっかりとお茶の料金を奪われながら、みんながダンジョンを戻る。
管理人はさっさと帰れ、という態度で見送ってくれた。
新しい入居者を探さなければいけなくなって少し不機嫌そうだった。