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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
169/222

洞窟探索3


 動かせる騎士団員1600名がダンジョン入り口付近の整地と天幕を張っての陣地作成。

 それから第5層までの魔物の討伐を行い、第二陣地を作成していく。


 第6層――ミノタウロスの住処は護衛騎士を4パーティーに分けて攻略し、その後を騎士団によって制圧していく。

 さくさくだった。

 これだけの人数がいると心強い。そして後ろが安全だという信頼があるせいで疲労の度合いに違いが出てくる。

 一度目よりかなり楽だった。

 シアの斬属性が強化されたのもある。前よりもサクサク切断できる。

 エステラは・・・あまり変わらない。

 魔素に困窮するまでの時間が伸びはしたが、結局どうしても足らなくなる。

 ザクザクとミノタウロスの死体を切り刻むエステラの姿を騎士団が怖い物を見る目でみている。

 エステラの残念さが広まっていくなぁ。


 そして日をまたいでから第7層の戦闘が始まった。

 今度は騎士団から多くの盾騎士を投入して壁を作りながらの侵攻である。

 相手は氷鳥族。跳べるペンギンである。飛ぶでなくて跳ぶあたりが短い翼の限界だった。

 盾に阻まれ、盾を飛び越える者は棍棒で撃ち落とされ、落ちたところを槍で突き殺される。

 水中に隠れたペンギンも探し出して処理していく。

 3日かけてすべてのペンギンを殲滅していった。


 そしてようやくもどってきた――第8層。

 竜騎士との戦いはシアを先頭にして少数ずつ減らしていく戦いだった。

 シアは竜騎士二体までならエステラ、ディーア等の補助有りで難なく勝利できる。

 常に一本道で戦うことで複数を相手取らなくて済むように、そして制圧した道は崩してでも回り込まれないようにする。まぁ数日後にはダンジョンの力で戻ってしまうのだけど、毎回崩して安全を維持していく。

 少しずつ、少しずつ進んでいく。

 そして三日後、8層の制圧が終わった。

 この先は未踏の場所だ。

 メンバーは今参加できる護衛騎士8人全員と王子だ。合計9人で1パーティーを作り、攻略する予定だ。


 しかし、第9層は他とあきらかに違った。

 8層を降りたとたん、巨大な門扉が現れた。

 大きな金属の扉だ。どうやらボスの部屋らしい。


「王子」

「うん。ボスがいるだろうね。このまま9人で行く。ジェフリー、シア様、ラザン将軍を前に、あとはパーティーごとに。ジェフリーが左、将軍が右。シア様は真ん中で、できるかぎりシア様を守ることを優先して動こう」

「わかった」

「盾はまかせて」

「わしもだ。今回は拾った盾があるからな。惜しげもなくつかえるわい」

 竜騎士の持っていた盾を何枚か持ってきている。ラザン将軍にも一枚持たせてあった。

「それじゃ、行くよ」


 王子が扉に手をかけ、何人かが手伝い押し開けていく。

 そこは洞窟だった。

 ところどころ、岩で作った燭台に灯る、青い炎に照らされた青い大きな空洞の部屋。

 その部屋の真ん中に、白い大きなキツネが丸くなっていた。大量のフワフワのしっぽに頭を乗せて眠っているように見える。

 全員が部屋に入ると狐の眼がゆっくりと開く。

 口がニィっと吊り上がる。

 狐は体をぶるりと震わせ立ち上がった。・・・大きいとはいっても、竜騎士ほどじゃない。普通の牛くらいの大きさだ。けれどそのしっぽは体より大きく見える。本数がおおいからだろう。

 狐はトコトコとこちらに近づいてくる。

 みんなは武器をかまえて狐の攻撃を警戒する。

 狐は30メートルくらいの位置で止まって鳴いた。


「ケーン」


 部屋の明かりがフッと消え、目には白いキツネの残像が残る。暗闇に目が慣れる前に明かりがゆらりと灯された。



 シアの攻撃をラザン将軍は盾で受ける。

 けれどそれだけで止めることができず、大きく後ろ飛びになってなんとかしのいだ。

 ラザン将軍は次に放たれたシアの蛇腹槍にスキルを合わせる。

「《重剛剣グラディエート》っ」

 けれど重力スキルによって蛇腹になった刃が地面に落ちてしまうことは、ヘビ王との戦いで一度やられている。

 スキルを喰らう前にシアはオレを槍に戻そうとした・・・が、待て待て。

 何をやっているんだ?

 シア、何でラザン将軍と戦っているんだ?

「?」

 いや、そんな意味不明、みたいな顔をされてもこっちが困るんだが。

 くそっ、シア、《異常消去》をかけろっ

「・・・《異常消去クリア》。・・・あ」

 気が付いたか、よかった、シア気を

 フッ

 と、部屋の明かりが消えて再び灯った。


 シアは王子の刃をオレで受け止める。

 こんな近くに寄られてしまうとは・・・。これでは王子の方が有利に戦える。

 だからどうしてそうなるのか。

 幻術か?。幻術だな。さっきから狐にいいように化かされている。

 全員が全員とも、仲間と戦っている。誰一人意識を正常に保っているやつがいない。

 シアはしかたない。脳にまで筋肉がまわってしまったのだろう、幻術にかからないと言う選択肢はなさそうだ。

「へー?」

 シア、それは敵じゃない。けれどいいか、よく聞け。けっして《異常消去》はするな。

 消去しても意味はない。新しい幻術をかけられるだけだ。なら、一番安全を確保しなければならない王子をシアが相手にしているかぎり、オレが王子を傷つけることをとどめることができる。いいか、シア。今戦っている相手を、決して傷つけるな。


 ・・・しかし、何でオレだけ幻術にかかっていないんだ?。

 狐に認識されてなかったからか。範囲スキルではなく、個別に相手を狙ってかけている術なのだろう。

 幸運だった。

 けど、どうする?

 どうすればこの状態で狐を攻撃できる?

 奴はシアの攻撃範囲に入ってこない。

 30メートル。

 この距離を狙うことは《夜槍》でギリギリだ。

 そしておそらく、一度外してしまえば次からは警戒される。

 決定的な一撃がほしい。


 シア・・・アレはできるか?

「・・・たぶん。それに、敵がわからない」

 それはオレが指示する。

 ・・・・・・オレを信じてくれるか?

「ん。パパを信じる」

 よし。

 ならシアはスキルに集中しながら王子を適当に転がしておいてくれ。


「ぐっ」

「この魔物、強いぞっ」

「くそっ、きついな」

 そして急がないと。味方がどんどん傷ついていく。

 シアっ、準備はっ?

「・・・ん。いい。いつでもいいよ、パパ」

 ・・・よし、シア、ゆっくり槍先をまわしてくれ。高さはあと2センチ下で・・・

 オレはシアの指す向きが重なるのを待った。

 あと少し、あと・・・・・・シア、そこだっ!

 シアは槍を一凪ぎして構えた。たった一つを貫き通すために。


 それは信じること。

 そして感じること。

 武器は自身であり、その攻撃は結果である。

 貫く意思があれば、それはすでに行われている。

 光が瞬くほどの間に到達しえる絶対必着の技


「槍技《大十字グランド・クロス》っ!」


 シアの手元に光が現れたと感じた瞬間に、それは狐のしっぽではじけ、十字に刻んだ。

 狙った一点での横方向への爆発は、いくつものしっぽを無慈悲に切断せしめた。


「ギャウッ」


 くそっ、しくじった。

 少しのズレができてしまったか。練習もなく、いきなりこんなことをした割には十分な結果なのだろう。けれど、これで狐は警戒してしまう。・・・その前に畳みかけるっ!。

 シア、走れっ、目をつぶりながらまっすぐにっ

 シアが走り出すのと狐が明かりを消すのがほとんど同時だった。明かりが灯ると、シアは走っていた。

 前へと。


 シア、オレが指示する。オレの言う通りに動いてくれ。

「んっ。」

 シアは目をつぶったまま、オレを振る。

 狐はシアの攻撃を避けながら、青白い炎を出現させてシアに放ってくる。

 右上っ、左下膝横っ、右腰前、左に避けろっ、前へすすんで攻撃っ、何でもいいっ。

 避けられた、次はっ

 シアの左脚に青い炎が触れ、燃え上がる。

「つっ」

 シアが震える。スマンシアっ

「指示をっ!」

 く、前へ、右真横から振って、前へ!

 左脚を踏み出す。炎が消えきっていない脚で大きく前へ。けれど狐はシアが目をつぶっていることに気がついている。青い炎が直線的ではなく、ゆるい弧を描いてとんで来るようになった。

 時間をかければやばそうだ。シア、次の合図で《風刃》を頼むっ

「んっ」

 ――今ッ

 シアの《風刃》でいくつもの炎を吹き散らす。

 風でできた一時の空白に、シアが刃を止め、腰だめに構える。

 前に出るでもなく、武器を振るでもなく、その一時をすべて構えることに費やした。


 シアの瞳が開く。まっすぐに。

「―――《斬月》」

 その攻撃は決して狐には届かない。

 横凪に振られた槍は、金色の弧を描いて半円の月のような輝きを軌跡上に残した。

 届かない。

 けれど、

 狐は瞬間的に跳んだ。

 薄暗闇の中、光を放つ攻撃。

 それは狐の脳裏に脅威として鮮烈に刻み込まれていた。まるで目の中に光の影を残す残影のように、しっぽを千切られた痛みが体に残っていた。

 光を放つ攻撃は自分に届くものだとして、体が反射的に回避したのだ。

 ――シア。まっすぐ、叩きつけろ


旋風エア

 風刃スラッシュ》っ」


 オレとシアの《旋風刃》を乗せた蛇腹槍が振るわれ狐の体を切り裂いた。

 下半身を失い、ぼとりと地面に落ちる。

 けれどやつの目はあきらめていなかった。

 空中に青い炎が湧く。

 やつは最後の力を振り絞ろうとして、

 やつの眉間を矢が撃ち抜いた。


 炎が消失する。

 ・・・やったか。・・・動かないよな?

「ん。終わった。幻術も、とけた」

 シアは後ろを振り向くと、キョロキョロしたりあわてたりしているみんなが見える。そんな中、弓を狐に向けているシシールがいた。

 シシールは幻術が解けていたのか。

 彼の他にも幻術にかかっていなかった味方がいるみたいだ。

 ともあれ、大怪我をしているのはいないようなので良かった。

 みんな何かしらの傷は受けているようだったけど。



「あれはおそらく”仙狐”と呼ばれる魔物だろう。初めて見たが聞いたことはある。長く生きれば生きるほど、しっぽの数が増えていくらしい。そしてしっぽの数だけ、術を使うことができるらしい」

 隠れ長生きのシシールがそう教えてくれた。森に棲み、長命で知識をおろそかにしないダークエルフの言うことだ。きっと本当だろう。

 動物系の魔物にはくわしそうだし。

 しっぽの数だけ、ということは、シアの《大十字》が数本のしっぽを切断したことで、何人かの幻術が解除されたわけか。

 そのうちの一人がシシールだったと。


 しっかし、いろいろな幸運がからんで犠牲者を出さずに勝てた戦いだった。しっぽの数だけしか幻術で人を惑わせられず、オレを一人と認識できなかったせいでオレには奴がずっと見えていた。そして何より、シアが《大十字》を放ち、そして奴に当てられた。

 ラッキーがいくつか重なった結果だな。

 はー、勝てて良かった。

 こういう心臓に悪い戦いは年に一回でいいな。

 シアの脚にできた火傷はもう治っていた。自然治癒力。シアは自動回復力が高いので。

 みんなが手持ちの回復ポーションで傷を治しているのを待つ。怪我が少なかった誰かが上の階層に人を呼びに行ったらしく、物資を持った騎士がみんなを周っていた。


 うーん

「パパ、どうしたの?」

 ボスドロップが無い。

 いや、ボスを倒したからって確実にあるわけじゃない。

 そのボスが宝を貯めこむタイプじゃなければ普通に無いからな。

 けれど、こんな多くの階層のあるダンジョンだぞ。しかもBランク以上の魔物が湧いている所のボスなら、AランクかSランクの魔物だったわけだろ。

 なのにドロップが無いとか・・・とんだがっかりボスだ。

 そもそも聖剣はどこに行ったんだよ。

「・・・・・・パパ、あそこに扉がある。」

 シアが刺したのは部屋の一番奥。

 ここが終着点ではなく、まだ先があるらしい。

 まさか、二体目のボスじゃないよな・・・?

 このダンジョンは普通のダンジョンではない。さっきの狐が前座のボスだとしても不思議はなかった。

 うわぁ・・・

 しばらく英気を養いたい。おもに温泉あたりで。

 パパは脳みそを酷使して疲れたのだ。

 シアにパパにも脳みそが?みたいな目で見られるが普通にある。・・・あるはずだ。


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