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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
166/222

聖剣探し3


 帰りの荷馬車に揺られながら、シアよりも表情が暗い人物がいた。

 タルティエだ。

 彼は今日、何も得られるものがなかった。

 魔族軍がしっかり略奪していたせいだが、なんともがっかりした結果になってしまった。


「ハァ~・・・・・・」

「・・・・・・ちょっと、辛気臭いですわよ。シア様でさえ普通の振る舞いをしているのですから、あなたも辛気臭い顔をやめなさい」

「・・・すいませんね」

 すいませんと言いつつも顔色を隠そうとはしない。

 砦の情報が手に入らなかっただけでそこまでガックリ来るものかね?。これはまだ何かあるな

「・・・何があるの?」

 シアがオレに変わってタルティエの消沈理由を聞いてくれる。

「はい?」

「あなたが気落ちしている理由を聞いていますわ」

 そしてシアの言葉をエステラがさらにわかりやすく変換してくれる。エステラがいてこそのシアだった。


「はぁ・・・。そのですね、グラスマイヤー領の情報が欲しかったんですよ。特に山と湖にかんする情報・・・民話や噂話なんかの話でも」

「山と湖?。グラスマイヤーだけにあるわけではないのでしょう?、グラスマイヤー限定なのはなんでですの?」

「いえ、他の場所も調べられるなら調べさせています。ただ、この場所はすでに人がいなくなってしまいましたから、そういった情報があるならグラスマイヤーの領主館かと思いましてね、期待していたのですが・・・」

 噂話や民話があるだろうか。それなら自警団の本部とか探しても良かっただろうに。


「・・・もしかして、”聖剣”関係の探し物ですか」

 エステラの質問にタルティエはそうです、と答えた。

「聖剣の噂話はいくつかありましてね、曰く、”流れ星の落ちた山に消えないほむらと共に一本の剣があった”とか、”龍のいる湖の底に一本の剣が刺さっている”とかそんな話があるんです」

 流れ星・・・星はこの世界では神にかかわる何かだ。そして流れ星というのは星くじらを筆頭に、龍を現す表現の一つになっている。

 あながち的外れではなさそうな探し方をしてるな。

 それにしても・・・

「龍のいる」「湖・・・ですか」

 うん。

 あれだな。

「聖龍のいた湖」

「ですわよね」

「・・・・・・知っているんですか?」

「知ってるもなにも、こないだ行ってきましたわ。ひどい目にあいました」

 湖に落とされて矢弾や魔術の雨にハチの巣にされそうになったな。

 あそこは島がういている浮島だった。湖に島がういている浮島ではなく、島が浮いていて島の中に湖がある浮島だ。

 あの湖の底に聖剣があるのだろうか。

 ・・・・・・たとえば重力スキルのある聖剣を、島を浮かせるために活用していたとしたら?

 ・・・・・・

 あのお子様聖龍であればやるかもしれない。

 そんなことをシアからエステラを介してタルティエに説明してもらう。


「島を浮かせるために、聖剣を使っている・・・ですか。そんなバカな話が、と言いたいですね・・・。しかし、もし本当であればその聖剣を借りることは難しそうですね。島を下ろさなくてはいけなくなりますから」

 借りて返しに行けばいいような気がしなくもないが、貸してくれるかねぇ・・・。代わりに聖龍が喜ぶようなものでもなければ交渉できないだろう。

「その聖龍は知識、特に数学や理工学が好きで、そのうえ私たちの知っている知識より、さらに未来の知識を有する龍なんですよね?。・・・交渉に使えるものはないですね」

 まぁ無いな。

 お菓子で釣られるレベルであれば何とかならなくはなかったが。

 聖龍はあきらめよう。聖剣があるっぽいということだけでいいか。


「聖剣、なかなかありそうなところが無いですわね・・・。パイを作ったりとかじゃなくて、もうちょっと期待できそうな情報は無いんですの?」

「ほかに特異な聖剣の情報はなかなか・・・。一般的にはダンジョンの奥にあるとも言われていますが」

 ダンジョンかー。たいていどこかの冒険者が潜っていたりするからなぁ。なのに聖剣の情報は聞こえてこない。

 隠された場所にあるのか、見つけにくいダンジョンなのか、Sランク魔物がわんさかいて攻略できないのかそんなところだろう。


「なんでも聖剣のあるダンジョンは毛色が違っているらしいですよ。階層ごとに全く生体の違う魔物がいたり、階層を進むごとに魔物の強さが飛躍的に強力になっていたり。けれどそんなダンジョンの話は聞いたことが無いんですよね・・・」

「そうですわね・・・」

 うん。まったく。なんてこった。

 なんてこった。

 なんてこった。

 なんてこったい。

 知る知らない、なんてもんじゃなかった。


「それ、私が生まれたダンジョン。」


 そうだね。

「・・・・・・ええと?」

「知ってる。」

「・・・・・・・・・・・・」

 シアは赤ちゃんだったころだから、知っているといってもうろ覚えの記憶だろう。道案内できるかどうかはオレの記憶を当てにしてだろう。流石にシアがあのころのことを覚えていたら驚きである。カマドウマを主食にしてたころだからなぁ・・・。

 しかし、そうか・・・。シアを洞窟から連れ出したリザードマンたちが、何か探しながら洞窟を進んでいたのは”聖剣”を探していたからか。魔道具を集めていただけってこともあるが、背中にたくさんの武器防具をかかえて潜っていた理由がわかった。

 まさか今更あの洞窟のことが重要になるとはなぁ・・・。

 あぁ、もしかすると特殊なダンジョンだからシアたち、亜人を育てるための揺り籠として選ばれたのか。きっとその揺り籠では与えられる魔素量が豊富だとかそんな感じなんだろう。

 ダンジョンにはダンジョン内に落ちている武器防具がダンジョンの魔素を受けて魔道具化することがある。後付けの何かでもダンジョンからの恩恵を受けられるのだ。もちろん魔物も同じ。外からやってきた魔物も、ダンジョンで過ごしているならその恩恵を受けられる。では、亜人なら?しかも赤ん坊なら?後から連れてきた赤ん坊でも同じだった可能性がある。赤ん坊を、より強く育てるために。

 シアを作った魔将グラフェン・テスラーは、だから人間領のダンジョンに魔王の囮としての赤ん坊を置いて行ったのか・・・。

 憶測でしかないが、いろいろ不思議だったことに答えが出た感じだった。



 さて、シアから特殊なダンジョンのことを聞いたタルティエはさっそくそのことを王子へと報告した。

 王子は再び守護騎士を集め、ダンジョン攻略用のパーティーを編成することにしたのだった。

 まず、パーティーは二つ用意された。

 中層までは下への階段を早く探すために二つのパーティーで探索する。


 メンバーは シア、エステラ、ディーア、ラザン将軍。

 もう一つが 王子、シシール、クラウニード、ジェフリー。


 少しバランスの悪い二つだったが、戦い慣れた者同士の方が効率が良いという判断からこうなった。

 そして敵が強くなる下層。

 そこではこの二つのパーティーを一つの物として扱い、安全を優先し時間をかけて攻略していく計画だった。

 もちろん危ないようなら撤退することもある。守護騎士には他にもメンバーがいるのだから、交代することだってできるし、なんなら全員を連れて潜ることだってできる。

 今のメンバー構成は、とりあえずこれでいってみようか、という仮組みの物でしかない。

 というか、しれっと王子が混ざっているんだけど・・・。

 戦える・・・んだよね?

 信じよう。


 このメンバーでの簡単な連携の確認をして、いざ、ダンジョンへと荷馬車に乗って移動する。

 ・・・前回使った荷馬車と同じやつだった。ただし今回は馬の護衛として騎士団からも4人ほど人を借りてきている。

 ダンジョン攻略中に馬を外にほったらかすことはやはり危ないから、ということだ。

 一台にフル装備の6人と食料や調理器具などの物品を乗せ、2台の馬車がオレの指示で道なき道を移動していく。

 オレの記憶から場所をたどるのだ。一度リザードマンの集落のあった場所へ移動してから、記憶をたどってダンジョンを探すことになった。



 この季節にくると、また違った思い出がうかんでくるな。

「ん。・・・手入れされてないからすごくもっさりだけど」

 かつて過ごしたリザードマンの集落あとで、シアはまた昔に思いを馳せていた。

 湖は水草が浮かび、ハスの葉が並び、冬に来た時とはかなり違った景色を見せていた。

 流石に以前の知っている景色と違いすぎて、あまり思い出に浸れない気がするけど・・・。

 草であれ、虫であれ、命がいっぱい育っているのを見ると、少しだけ心が慰められる気がする。

「・・・・・・ん。」

 そうして少しだけ時間をもらい、なつかしさを胸にしまい込んだ。

 ・・・そろそろ行こう

「わかった。・・・また、くる」

 今はシアを待ってくれている、仲間のところへと踵を返した。


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