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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
165/222

聖剣探し2


 砦攻略が進められている中、砦の東の方角にあるグラスマイヤーの領地への確認が行われた。

 まだ魔族軍が残ってはいるが、グラスマイヤー館のある町への立ち入りは可能なようだった。

 シアは王子に館への確認許可をもらいに行った。


「そうですか。グラスマイヤーとして過ごされた家に・・・。わかりました。そういうことでしたら行くのはかまいませんよ。ただし護衛をかなりともなってのことになりますが」

 シアは勇者候補なので大量の護衛をつけられることになってしまった。

 いつものエステラ、ディーア、ディーと、ラザン将軍。それに盾のジェフリーに二刀のクラウニード。そしてなぜかタルティエもいっしょに来ることになった。

「タルティエ?、戦闘もできるの?」

「いいえ。一応は小剣を持っているので戦えますが、普通の兵士よりも弱いですね。彼にはグラスマイヤー家のあつめた資料を探してもらうことになっています。領地の情報、河川や山の場所、そしてもし見つけられるなら、砦の建設にかかわる情報なんかですね」

 砦の情報か。

 いざという時用の隠し通路とかわかると戦況が一気にかわるかもしれないもんな。

 シアの許可があればそれらの資料を持ち出しても後々国際問題にならないわけだ。

 この王子、なかなかの策士である。

 そんなわけで一同、制圧が終わっていない町へと向かった。


「なぁ、シア。お前さんのその武器はどんな性能なのだ?」

 荷馬車に乗りながらの道中、シアの武器が気になるらしいラザン将軍がシアの隣にきて話しかけてきた。荷馬車は二台ある。こちらには他にクラウニードとエステラも乗っている。向こうはディー、ディーア、ジェフリーとタルティエだ。

「ん。すっごい」

「そうか。ぜひともこの里帰りに見せてほしいものだな。期待している」


「・・・お前と手合わせした時の、あの大振りは形が変わること前提の攻撃だったんだな。もしあの時槍がかわってたら、オレはどうなってたんだ?」

 今度はラザン将軍の反対側からクラウニードが話しかけてきた。

 訓練での手合わせの時に、オレは槍のまま変形しなかったから。もし蛇腹槍へと変わっていたらどうなったか、クラウニードは知りたいのだろう。

「んー・・・武器は、確実に壊れる」

 そしておそらく胴が真っ二つになったな。回避スキルがあるなら別だが。

「・・・・・・あれだけの氷の塊をぶん投げられる胆力があるんなら、それも可能か・・・。変わらなくよかったぜ」

 クラウニードは安堵のため息をついた。


 館には何の問題もなく到着した。

 けれど館の玄関扉を開けて中を一目見て、そこがすでに侵略者たちの手によって荒らされた後だと気づかされる。

 かつてみた、おちついた雰囲気の館は荒らされていた。

 あらゆる家財道具や家を飾る絵画やシャンデリア、美しいカーテンも何もない。それどころか隠し財産を探したのか、壁紙や床板まではがされている。

「これは・・・何もかも持っていかれたあとのようですね」

 ミルゲリウスの部屋や書斎、それからシアのためにつくられた衣裳部屋からも物が持ち出されていた。

 何もない。

 何もなかった。

 はがした壁紙や板、あとは小さなゴミだけが散乱していた。

「・・・・・・」

 シアは無言で自分の部屋だった場所を眺めていた。

 ここにはほとんど住んだ記憶がない。ミルゲリウスに捕獲され、養女になってから学園に入るまでの3ヵ月ほどと、あとはグラッテリアが崩壊してから避難者がどれくらいいるか、ここで報告を受けていたときだけ使っていた場所だ。

 思い入れはほとんどなかった。

「シア様・・・」

 エステラが辛そうに言葉を選び、そして言葉が出てこなかった。


「おおい、メモ書きなら拾ったぞ」

 他の部屋を探していたらしいラザン将軍が、そう言って小さな紙切れを持ってきた。


 ”武器の子供 アーカス洞窟群”


「・・・アーカス洞窟群?」

「知らんな。炭鉱跡などではないか?」

「いえ、それは海に近い東の・・・リファリード国の沿岸にある洞窟群のことですわ」

 エステラがそう教えてくれた。リファリード国はグラッテン王国の東にある。海を越えたところで、この国とはあまり国交が盛んではない。

 そうか。

 ”武器の子供”

 彼らはそんなところにいたのか・・・。

 オレと同じ、邪武器を持った亜人の子供達。

 探すようにグラスマイヤー家の執事に頼んでいたけれど、そうか。彼はきちんと探し出してくれていたのか。

 この館にいた使用人たちがどうなったかはわからない。このメモ書きだけ残して魔族軍がやってくる前に逃げ出せていてくれればと思う。

 今も無事でいてほしい。

「東の、島・・・」

 行くには少し遠そうだな。半年くらい時間があるときか、もしくは『お姉ちゃん』呼びにこだわる知り合いに頼むしかない。

 まぁ、夏になったら会う約束もあるし、その時かな。

「ん。」


 他のみんなもだんだんと集まって来る。何もないせいか、見て廻る物もないからなぁ・・・。

 ノック音がしてクラウニードが入ってきた。

「お客さんだぞ。魔族が10以上。オレたちが目当てだな。攻めと守りを決めるぞ」

 この中で守らなければならないのはタルティエだけだ。護衛に選ばれたのはジェフリーとラザン将軍だった。

 将軍が護衛に手を挙げるとは思わなかったが、みんなの戦う様をじっくり観察したいようだ。

 入り口に二人、各窓に一人づつ。魔族が近づいてくるのを警戒しながら待つ。

「・・・・・・来る」

 魔族は無言で屋敷の窓に駆け寄り、手に持った武器を振り上げた。

「《雷光スパークレイ》!」

 振り上げた武器に雷光が落ちる。

 シアが窓を開け放ち、飛び出した。――2階から。

 着地場所の近くにいた魔族にオレを振るう。とっさに武器で受けようとした魔族を武器ごと真っ二つに切り裂き、次の敵を探す。

 2階ではエステラが少し遠いところにいる魔族に《雷光》をお見舞いしている。この距離であれば《雷光》ははずさない。防がれた物を除けば一発で一人を確実に減らしていた。

 エステラの攻撃を防いだ相手にはディーとディーアが魔術で逃げ場を奪っていく。どうやら相手は土の魔術で壁を作って防いでいたようだったが、その周りを土と氷の塊で囲っていく。話を聞かせてもらうための捕虜を確保しているようだ。


 シアが二人目を倒すころには終わっていた。ここから見えない場所の相手も終わったらしく、クラウニードやタルティエたちも警戒しながら集まってきた。

「少ないな。威力偵察とも思えないが、この人数でこちらを何とかできると思ったのか?」

「わかりませんけど、一人捕まえてあるので話を聞いてみましょう」

 ディーアはニコニコと窓枠を乗り越えて氷と土の檻の所までみんなを案内する。

「わしが開けるぞ。ジェフリー、横をたのむ」

 ジェフリーに盾を任せながら、ラザン将軍が氷の一つに大斧を叩きつける。

 破砕された氷の影から姿を現したのは、イノシシの頭を持った一人の魔族だった。


「・・・グラウロム」


 特殊警護部隊にいたときの仲間だった魔族だ。

「あら、まだ生きてたんですわね。それで、何をしに来たのかしら」

 エステラがラザン将軍たちによって縛り上げられていくグラウロムを見下ろしながら聞いた。

「お前が・・・お前らが裏切り者だからだ」

 グラウロムはシアをにらみながら憎々し気につぶやく。

 グラウロムは元々二人組の冒険者だった。イノシシ頭のグラウロム、オオカミ頭のダード。けれどダードは、シアが魔族領を逃げ回っているときの戦いでシアの手で殺してしまった。

 このグラウロムがシアを見上げる眼は、それが理由か。

 復讐の眼だ。

「・・・・・・」

 シアはそれを受け止める。無表情に。

 今まで魔族領で似たような眼をどれだけ向けられたと思っているのか。ただ、人間だというだけで、シアは、エステラは、殺意を持った眼にどれほどさらされてきたか。

 それに比べればグラウロムの視線なんて何も感じなかった。


「知り合いか。お前さんがいるとこいつが口を割らんかもしれん。用ができれば呼ぶからそれまで周りを警戒しておいてくれ」

 ラザン将軍にそう言われてシアは館にもどり、テラスから辺りを見渡していた。

 いっしょについてきたエステラといっしょに。

「・・・あのころの知り合いは、あとはグリムアレンくらいしかいませんわね」

 長髪の二刀流戦闘狂バーサーカー、グリムアレン・シャなんとか。確か貴族の出で、戦闘以外はそつなくこなせる男だった記憶がある。

「ん。グリムアレンなら、きっとどっかでのほほんとしてる」

 うまく戦闘から生き延びてシアとかかわることなく、そつなく生きている情景が思い浮かぶ。

 奴はそんなタイプの魔族だった。

「かもしれませんわね・・・」

 戦闘狂バーサーカー。それは一度戦闘に駆られると敵味方を殲滅するまで止まらない、気狂いの心をもった存在だ。

 もしグリムアレンがどこかの戦場に駆り出されていれば・・・高い確率で死亡しているだろう。

 だからきっと、のほほんとどこかで生きていると思いたい。

「シア様ー、終わりましたー」

 下からディーアが呼ぶ声がする。

 ・・・どうやら襲撃はグラウロムたち8人だけだったらしい。

 シアはみんなの所に行くために、館に入って行った。



「このイノシシが小隊の隊長でな、お前の匂いを見つけたから追ってきたんだと。他の兵士はいない。小隊全員でお前を殺そうとしたらしい」

 事切れているグラウロムの死体の前で、クラウニードが教えてくれた。

 仲間も呼ばずに全員でかかってくるとは・・・。部下を持っても冒険者だったころの戦い方を捨てられなかったのだろう。今ある限りの戦力で最高を目指して戦いを挑み、そして負けた。

それだけのことだった。

 もっと監視部隊がいたり、暗殺部隊が襲い掛かってくるかと身構えていたが・・・そんなことが無くてよかった。

「ん。わかった。・・・もうここには用がないから、帰ろう」

 みんなが頷いて腰を上げ、帰り支度を始める。

 もっとも支度と言うほどの物はない。持ってきた荷馬車に積む資料もなかったのだ。準備はすぐに終わり、シアたちはグラスマイヤーの館に背を向けて元来た道を帰り始める。

 シアは振り返り、人のいなくなった町を見ていた。

 ・・・・・・シア、いつかここにも、人が戻ってこれるといいな

「ん。・・・・・・いつか」

 きっと――


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