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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
164/222

パイ作り


 民間の伝承にこうある。

『おいしいアップルパイを作ると妖精が現れてパイと等価のモノを交換してくれる・・・そして金のリンゴ(っぽ果実)を使ったパイを作った勇者は、妖精から聖剣を受け取った』

 グラッテン王国南西部に伝わる不思議な民話の一部である。

 ちなみに今は5月。新緑の葉が茂りはじめるすごしやすい季節である。リンゴ(っぽい果実)はない。

 実が金色っぽければ何でもいいだろうということか。

 失敗する未来しか見えない


 さて、そうして集められた護衛騎士だったが、その面子はほとんどが男性ばかり。生涯でお菓子を作ったことなどなく、むしろ筋力トレーニングしか頭にないようなのが多かった。

 しかし男子しかいなかったのは今は昔。なんと現在の護衛騎士には女子が3人もいたのである。


「・・・食べることなら。」

「・・・えぇ。食べたことならありますわね」

「買えばいいのではないでしょうか」


 こうして任務は終わりを迎えたのだった。

 救いの手を差し伸べたのは天幕の片隅で話を聞いていたベルティナ嬢だった。

「・・・・・・そういうことでしたら、私の連れてきている料理人に菓子作りが得意な者がいましてよ。作り方を教えさせましょうか?」

 作ってくれないのか。

 どうやら作り方だけ教えてもらえるらしい。

 作るのは護衛騎士の仕事である。



 武器を泡立て器に持ち替えての作戦作業が始まった。

 男性陣とシアは基本的に使い物にならなかった。奴らは小麦粉と卵を程よい力加減で混ぜ合わせることさえできない有様だった。

 ただ、王子とタルティエ、シシールの3人はうまい具合にパイ生地の作成に成功しているのだった。

「ご主人様、生地は私がこねますから、ご主人様はリーウをちいさく切ってください」

 エステラがそう言って、さっきシアが中身を床にぶちまけたボウルを受け取ってリーウを渡して来る。リーウは緑の皮に包まれた果実だが切ると少し黄色味が強い果肉が現れる。金色の果実かはわからないが、酸味が強めでおいしいらしい。

 シアは力の微調整があまり得意ではないが、刃物の扱いには慣れている。少しいびつではあるけれどパイ用に薄く小さくリーウを切っていく。


「上手ですわ、シア様。こちらも生地ができてますわよ・・・ちょっと、つまみ食いしないでください」

「ん。すっぱいけどおいしい。エステラも食べる?」

 リーウの味見をしているシアが手を小麦粉で白くしているエステラを見て、エステラのかわりにリーウの一切れを彼女の口元に差し出す。

「まったくあなたときたら・・・ん。・・・・・・おいしいですわね。すっぱいですが、リーウは火を通すと酸味がとれて甘くなるそうですわ」

「ディーアもいる?」

「え?ほしいのですが、ちょっと今前がみえなくて・・・。リーウよりも眼鏡拭いてもらえると助かります」

「・・・面白いからそのままで。」

「えぇ、そんなぁ」

 シアとエステラ。そして隣で眼鏡を白くしているディーアを他の護衛騎士たちが目を細めて見ていた。尊いモノを見るように。

 彼らはパイ作りを完全にあきらめたらしい。


 王子、タルティエ、シシールの3人はまだ作成に挑んでいる。

「ダリウス様、ほおに小麦粉が」

「取ってくれタルティエ」

「あぁ、おれが拭きますよ。目の下ですから、果実の汁が目に入ったら大変なことになる」

「・・・僕は君より器用なつもりなんだけどね」

「もしものためさ。・・・はい、拭けたぜ、ダリウス様」

「ありがとうシシール。こっちはこれくらいの柔らかさでいいかな?、シシール触ってくれ」

「あぁ、まかせろ」

 うん。

 見なかったことにしよう。あっちはあっちできっとうまくやれるはずだ。


 切ったリーウを鍋にいれ、砂糖を入れて煮ていく。

 煮る時間はそんなに長くない。柔らかくなったリーウを火からおろし、熱を冷ましておく。

 その間に練り終えた生地をおおまかに二つに分け、下地を作っていく。今回は丸いパイを作るので皿に丸く生地を広げていく。

 そうした下地ができたら柔らかくなったリーウを生地にならべる。

「あら、こちらは甘いですわ」

「・・・エステラ。私にも。・・・・・・ん。おいしい」

「本当ですね。すっぱかったのが、こんなに甘くなるんですね」


 卵を接着用に塗りながら、残しておいた生地をリーウの上に網目状においていく。

 ここにも器用さが要求されるのか、微妙に曲がったりしている。

 あとは熱した窯に入れて待つだけだ。

 待っている間にディーアがパイ用の籠を用意する。そういやこのパイは妖精にあげるんだったか。 持っていく場所が決まっているようで、馬車の用意なんかはタルティエが事前に準備をすませていた。

 エステラは皿とフォークを用意している。

 シアがお茶を入れる。ポットから3つのカップにお茶をいれた後、もう一つカップを持ってきてお茶をいれた。

「主様、そのカップはどなたの物ですか?」

 ディーアがシアに聞いた。

「・・・私の作ったパイを、食べてほしかったメイド用に」

 シアはそれだけしか答えなかった。

 ディーアは深く聞かない。エステラもそのカップの前に何も言わずにフォークを一つ置いた。

 それはここにいない少女のためのもの。

 いっしょにパイを焼きたかった、大切な少女の。

 きっとシアはお嬢様ともパイを焼きたいのだろうと思う。でもお嬢様の分は用意しない。

 お嬢様とは、いつかいっしょにパイを焼くことができるだろうから。




 後日、任務の成否が伝えられた。

 結果は失敗。

 持って行ったパイはいつの間にかパイ籠から消えており、代わりにいくつかの種子が籠に入っていたが、目当ての聖剣などは入っていなかったそうだ。

 妖精がいるっぽいということだけはわかった。

 パイ好きの。

 冬にもう一度リンゴ(っぽい果実)を使ってパイを焼こうか、とかいう話しもある。

 ・・・今度は職人を連れてくるべきだと思う。

 食べる意味でも


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