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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
161/222

戦いの後


 その日の夜、夕食で小さいながらも勝利の宴会が催されているのをシアとエステラ、そしてディーアの三人で自陣を囲む土嚢の上から見ていた。

 ディーもいるが、夕食時のお酒に酔ったのかうつらうつらしている。

 3人で喜び騒ぐ兵士たちの様子を遠目に眺めていると、こちらに近づいてくる二つの人影があった。

「今日の功績者がこんなところで何をやってるんだ。あっちでみんなと騒がないのか?」

「んー、将軍のグリグリはもう嫌」

 シアは戦いの後、大喜びのラザン将軍に髪の毛がボサボサになるほど頭をなでられ、しまいには胴上げまでされていた。

 ラザン将軍ほどではないが、あの宴の中心に顔を出したら兵士に囲まれてもみくちゃにされるかもしれない。

 だからシアはあの中には混じらないようにしていた。

 ・・・ここの連中はあれだけの異常な戦闘力を見せられても異質さに忌避感を感じたりはしないらしい。いや、まったく感じないというわけではないだろう。けれどラザン将軍や、他の護衛騎士の仲間が率先してシアを誉め、喜ぶ姿を見せることで、そういった距離感を薄くしてくれていた。

 あとはまぁ、《龍変化》中にシアの頭とお尻に生えた、しっぽと角の影響だろう。

 この世界の”龍”というものは魔王よりも恐れ、敬われる存在なのだ。

 あれだけのことをしても”龍”であるというだけでみんな納得してくれるのだった。

 ”龍”便利だわー。

 けれどもちろん、それですべて許してくれる人ばかりではなかった。


「・・・シア様、まったくあなたという人は・・・。あなたを隠そうとする私たちの労力をさっくりと意味のないものにしてくれますよね」

 ニコニコと、けれど少し文句を言うようにシシールの後ろから顔を出したのは王子だった。

 護衛を一人しかつけずにこんなところをウロウロしてていいのだろうか。

「ま、まぁまぁ。あれがなければ竜を倒す作戦会議だけで一月二月かかったろうからな。戦法はとんでもないが、おかげで効果はてきめんだったし、褒めていいとおもうぞ」

「・・・それはわかっていますが。確かにあの竜と正面からやりあえばどれだけの犠牲を出したかわかりません。それが、たった二人の行動で無くなったんですから、喜ぶべきなことも。・・・けれど、これではシア様も魔族の標的になってしまったではないですか。隠し玉の意味がないんですよ」

 王子が言いたくなるのもわかる。

 まったく知らない相手を自分の護衛騎士に、なんて無茶は、普通の王族にはできないだろう。側近は止めるし他の護衛騎士や護衛騎士に選ばれなかった騎士団の連中からも不満が出る。

 聖剣の力が欲しいなら権力で取り上げれば、とかも言われたはずだ。

 けれど王子はそういった意見や不満を抑え、シアとその仲間を護衛騎士へと召し上げた。

 そんな大変な苦労をして懐に隠し持っていたはずの懐刀が、かってに表に出て目立つ立ち回りをしてくれたのだ。文句だって言う。

「ですけれどダリウス王子、シア様はどのみちめだってしまいましたわよ。時間の問題でした。それがシア様ですもの」

 ふふん、と得意げに王子に意見するエステラだった。

 エステラはだから王子にあきらめろ、ということだろう。これは実際にはシアの方が偉いからできる態度でもある。

 一国の王子より、星神の使徒である”龍”の方が圧倒的に偉い。

 シアは王子の部下としてここにいるが、あくまで要請されたから力を貸しているだけであって、完全に配下になったつもりはないということだった。

 このあたりちょっと面倒だけど。

「・・・・・・対策はたてます。今度は何かする前に報告だけはしてください」

 報告は大事だね。そのことだけは本当に申し訳ない。

 ゴメンナサイ。

「ん。ゴメンナサイ」

 いいですけどね、と大分あきらめた様子で王子が答える。

 苦労させてしまってすまないと思ってます。

 破天荒な娘なもので(汗)


「しっかし、まさかこの短期間で鞭スキルをモノにしてくるとは思わなかったな。あれ、《縛縄アレスト》と《放星メテア》だろう?。二つもスキルを使えるようになったんだよな」

 鞭スキルをシアに見せてくれたシシールが、そう言ってシアの持つ武器であるオレへと目を向けてきた。

「その武器も。鞭スキルを知りたいと言っていたのはそれが槍から鞭にも変形するからだったんだな。今日の君の戦闘には本当、驚かされることばかりだったぞ」

 彼らに蛇腹形状になるのを見せたのは、今日が初めてだった。

 とくに隠していたわけではないんだけど、護衛として後方にいるとあまりオレを振るう機会はなかったから。しかたない。

「ん。パパは鞭にもなれる。あと、《縛縄》はあるけど、《放星》は持ってない。あれは普通に投げただけ」

「《放星》無しであれだけのことをやったのか・・・。伝承では知っていたが、”龍”ってのはとんでもない存在なんだな」

 《放星》は《縛縄》で拘束したモノを投げるスキルだったか。シアはそれを筋肉で解決したのだ。

 そろそろ脳筋少女を名乗ってもいいと思う。

「それはイヤ。」

「?」

 シシールと王子が首をかしげている。

「うむ」

 うつらうつらしていたはずのディーが一言つぶやき、ディーアがそれを聞いて嬉しそうに笑う。

 訳されてはいないが、きっとシアのことをほめたのかな、と思う。

 ともあれ、これでこの戦場は大分楽になりそうである。

 まだ2匹の竜と、砦が残っている。逃げた連中も再集結されてしまえばもどってくるかもしれない。完全に楽になったわけではないが、それでも竜をたおす方法があるというだけで、兵士たちの心のよりどころが違うことだろう。

 今日のシアの活躍は必要なことだったと思う。

 打開策の見えなかった昨日より、みんなの顔に安心が見える。

 シア、・・・よくやった。

「・・・ん。」

 シアは満足そうに、小さく微笑んだ。


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