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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
157/222

護衛騎士4


 一週間後。

 シアにスキルが増えることもなく、前線の同盟軍に合流することになった。

 グラッテン王国西部、マルアニ領。ここは、イズワルド王国とグラッテン王国の戦線中央に位置する、一番の激戦区だった。


 この間まで王子の騎士団といっしょに行動を共にしていた第二大隊が敵軍へと突撃している。

 相手は蟲だ。巨大なダンゴムシ、それから巨大カマキリが群れをなしていた。

 うーん、きもち悪いなー。あの蟲、脚がわさわさしてて見てて背中(?)がゾクゾクする。

 どうやら我々の護衛対象たちも同じ感想らしく、馬車の中から「ひぃいっ」とか「きょへぇっ」とか悲鳴が聞こえてくる。

 いやー、前線からだいぶ距離をとっているこの位置からでもワキワキしてるのがわかるもんな。

 正直護衛として後方に置かれることになってつまらなく思っていたけど、あれと戦うよりはいいかもしれない。


 さて、我らが主人の第一王子だが、騎士団を率いて右の戦線で戦っていた。

 他の護衛騎士たちは王子の近くで王子を守りながら戦っているだろう。

 シアとエステラ、ディーアの3人は20人ほどの一般兵士と共に戦線から500メートルほど離れた木々のした、目立たないように停められた・・・非常にめだつ白い高級馬車の護衛をしていた。

 この馬車の持ち主はベルティナ・ロスクート嬢。イズワルド王国の公爵位貴族のご息女である。

 ・・・ベルティナ嬢、王子の追っかけをしはじめたらしい。

 もちろん止めた。軍のお偉いさんが苦情を申し立て、王子からも側近を通して安全な場所に下がるようにオブラートに包んで伝えられた。

 けれどそんな忠告は何の意味もなかった。恋に邁進するベルティナ嬢をとどまらせることはできない。

 第一王子が言っても聞かないのだ。公爵家という王族の次に地位の高い爵位の娘に口を出せる者なんていない。

 もう戦場についてくるのはいいから、絶対安全な後ろの方で護衛の兵士たちに囲まれて何事もなくいてくれればいい。ほんとーに危険なことだけはしないでね、というのが戦場の指揮所からのお願いだった。

 そしてその安全のために、王子の心づけとしてシアたちが護衛につき、軍として兵士10人がつけられている。

 あとの10人はベルティナ嬢が連れてきた彼女の護衛達である。

「あのダンゴムシみたいなの、かわいいですわね」

「えぇ・・・エステラさん、多足系平気なんだ?。私はダメだなー・・・クモとかムカデとか、見てるだけで腕に鳥肌がたっちゃうよ」

 ダンゴムシは遠くから見ているとのろのろ動いているように見えるが、近くだと巨体がかなりの速度で体当たりしてくるんだと思う。大分脅威だけど、代わりに体を登ってしまえば降ろす方法が無く、安全だ。・・・そのためにカマキリがいるんだろうけど。

 ダンゴムシに登りたい人間と、登らせたくないカマキリの戦いがダンゴムシの側面あたりで繰り広げられている。

 非常にカオスだ。

 そんなカオスを切り裂くように、戦場に一条の光が通った。

 ――いや、一条だけではない。二つ、三つ、連続していくつもの光が敵陣に伸び、そっして十字の傷跡を残した。

 そうか、あれが槍の”技”スキル

「《大十字グランド・クロス》・・・」

 直線の攻撃のあと、十字の爆発が起こる光のスキル。

 それが槍技《大十字》

 しかしあれは・・・連続で放てるスキルではなく、どうやら何人もの兵士が次々と放っているように見える。あぁ、今度は丸い衝撃波が敵陣に起こっている。

 あれはもしかすると矢の”技”スキルか?。それから剣技スキルの《断空閃》で前線近くの敵を薙ぎ払っている。

 ”技”スキルの大盤振る舞いだ。

 ひとしきり敵陣に大ダメージを与えたあとは、再び地道な戦いとなる。

 クールタイムが終わるまではこのままだろう。”技”スキルのクールタイムってどれくらいだろうな・・・。

 何にせよ、あれが《大十字》か。直線広範囲スキル。いいなー、ほしいなー。

 ぜひとも獲得を目指したい。




 一時間ほど戦いが続いていただろうか。流石に戦場の様子に慣れてきたのか、馬車から悲鳴があがることはなくなった。

 戦場は未だに登ったり登れなかったりという戦いが続いている。

 ”技”スキルのクールタイムは一時間らしく、一時間たったところで再び”技”スキルの一斉発動が見られた。

 どうやらあれがイズワルドの戦術らしい。

 グラッテンでは魔術を重要視していた。熟練度上限の低い人間種族には魔術の連続発動か、”技”スキルを覚えて使うことが火力的に魔族に対抗できる手段なのだろう。

 確かに強いが・・・一時間に一度じゃなぁ。

 流石に連発されると良いところも悪いところも見えてくる。

 ”技”スキルは広範囲、高火力ではあるのだけれど、単体への火力ということでは《旋風刃》の方が高い。範囲が広い分、大型の敵へのダメージがそれほどではないことがわかる。

 そう言えば昔《断空閃》で攻撃された時も、オレで防ぐことが可能だったしなぁ。あれで《旋風刃》ほどの火力があったら死んでいたかもしれない。

 《大十字》も範囲が広いぶん、威力が心許ないかもしれない。

 まぁ、シアは全光属性強化があるからいいか。


「・・・・・・あれ、何でしょうか」

 ディーアが戦場の上の方を指さす。

「・・・・・・鳥?」

 黒っぽい何かがちまちま飛行しているように見える。

 それは大群となり、戦場に舞い降りて行った。

「・・・蚊かしら」

「蚊ですね」

「吸われてる。」

 それは人の半分くらいの大きさのある蚊の集団だった。ダンゴムシの上で安全にスキルを撃っていた兵士に襲いかかり、その体から血を吸い取っていく。とてもかゆ 恐ろしい戦法だった。

 人間側も魔術で応戦しているが、イズワルドは魔術に重点を置いていないため、あまり対抗手段になっていない。

 段々と兵士の数が減らされ、前線が後退し始めているのがわかる。

 まずいな、これ以上崩れるとこっちまで前線がやってくるぞ。

 早めに対抗手段を打たないと敗走が始まりかねない。


「あ。」

 どうした、シア。

「・・・目があった」

 何と!?

 兵士たちを襲っていた蚊たちが上空に集まりだす。そしてまるで一つ所に狙いを定めたように・・・こちらへ・・・?

 ・・・・・・・こっちへ来るんだけど。

「ん。さっき敵の偉そうなのと目が会った」

 まぁ、遠目でも白い馬車はめだつからなぁ。何か重要そうな要人が来ているぞ?相手は空への備えがなさそうだ。なら狙っちゃおうか。

 ということだろう。

 さて、完全にこの馬車が目標らしい。そろそろ気が付いたらしい周りの兵士たちがあたふたしだす。

「お、おい、来てる、来てるっ」

「に、逃げようっ、はやくお嬢様を連れて安全なとこまで逃げるぞっ」

 兵士たちが休ませていた馬を馬車につなごうと右往左往している。

 さて、相手が蚊じゃなぁ。もうちょっと役者として不足してない相手が良かったけど。まぁ、こんな時の二人だ。

「ん。・・・エステラ、ディーア」

「はい」

「出番ですわね」

 シアはこくんと頷いてから告げた。

「よろしく。」

 二人が前に出る。

「《雷光スパークレイ》っ」

 エステラの雷光が飛んでくる蚊を数匹まとめて焼き殺した。雷の特性で近くにいる蚊にも次々に当たるので撃てば撃つだけ蚊が死んでいく。

「神火を司りし獅子の神星よ、我は願う」

 ディーアが詠唱を始めると空に大きな魔法陣が描かれ出す。

「永劫の狭間

 輝きの刹那

 久遠の終焉

 始まりであり 終わりの焔を 空と星との間にお落としください」

 方陣が完成し、空に大きな火の玉・・・いや、燃える小さな太陽が現れる。


 太陽がゆっくりと小さくなり、どんどん赤く、白く、収縮していく。

 その収縮がこぶしほどの大きさで止まる。それは蚊の集団の進行方向に浮かんでいた。


「――《超新星爆発スベルノヴァ》っ」


 空が焼き尽くされた。

 耳をつんざくような爆音とともに、真っ赤な炎が空一面に解き放たれる。

 あまりの眩しさに目をつむってしまったが、目を開ければ蚊はほとんどいなくなっていた。

 上級・・・じゃないな。こんないかれた威力はもっと上、最上級魔術だろう。

 すっごい・・・蚊を根絶してやるという強い意思が感じられるほどの超広範囲スキルだ。

 大盤振る舞いすぎだろう。

「・・・ちょっと、私の分が残っていませんわよっ」

 ディーアがほとんど片づけてしまったため、エステラの倒す敵がいなくなってしまった。

 まだ数匹残っている蚊に《雷光》を投げて行く。それもすぐに終わり、空から蚊は一掃されてしまった。

 これ・・・ディーアがいれば戦場は片付いてしまうんじゃないか?

 ちょっと思ったことをシアに聞いてもらうと、意外な返答が返ってきた。

「最上級魔術には魔素制限があるんです。使った日から一か月間は消費した魔素が回復しないままなんですよ。なので私だと、2発使うと制限が回復されるまで、初級魔術くらいしか使えなくなってしまうんです」

 一か月間は最上級魔術の分、MPが減りっぱなしってことか。大分デメリットが強いスキルなわけだ。

 今のように後方でのんびりできるようじゃないと使えないスキル。

 そんなスキルを使い、瞬く間に空の安全を確保してしまった。

 ディーア、魔将ではなくその孫だけど、やはりとんでもないな。これならディーも期待できる。・・・今は魔族の特徴が濃く出ているディーは護衛騎士の天幕に置いてきいる。

 ディーアの祖父だけど最近痴呆症が進んできて不安なのでつれてきたことになっている。痴呆のおかげで魔王の”支配”がわからないという設定で。


 さっきまで騒いでいた兵士たちが驚いてしりもちをついたまま、硬直している。

 前線も戸惑っているが、どうやらこれをチャンスとみなした司令官が敵に突撃の号令を出したようだ。

 遅まきながらやってきた飛行機獣に乗った兵士たちも敵陣へと踵を返して突撃をかけ始める。

 どうやら前線を押し返すことができたようだ。

 もう一度”技”スキルの大盤振る舞いをしてその日の戦闘は終了した。

 人が撤退した後、のろのろした動きで魔族軍も撤退を開始する。


「今日はすごかったな。何だあの大魔術は?、魔族の魔術師ってのはみんなあんなことができるのか?」

「戦闘経験が少ないとは思っていたが、そうか、魔術メインだったのかよ。だったら初めから言ってくれ」

「すごいな君、あんな魔術が使えるのか、大活躍じゃないかっ。どこで覚えたんだい?魔族領かい?」

 護衛騎士の天幕でディーアはみんなに囲まれて質問攻めにあっていた。

 いくつか質問に答えていくが、まだまだ解放されそうな気配はない。

「・・・私たちだけで食事にしてしまいましょう」

 エステラは少しむくれつつそう切り出した。

 彼女も活躍していたのだが、話題をディーアに全部持っていかれてしまい不服そうだ。

「ん。エステラも仕事してた」

「・・・そうですわね」

 今日何もしていなかったのはシアなのでエステラは気にすることじゃないんだけども、同じ魔術をメインにするキャラとしては、どうしてもディーアの魔術が目立ってしまうことに不満がつのってしまうようだ。

 まぁ、こんなのは余裕があるうちの悩みなので、前線に送られ、大量の敵を相手に魔術を使わされるなんてことにでもなれば解消されると思うけど。

 しばらくそんな予定もないので、エステラの愚痴を聞いてあげるくらいしかできなさそうだ。


「おーい、シア。ダリウス王子が呼んでる。誰か連れて王子のところに来いってさ」

 シシールが囲まれているディーアに声をかけてきた。そうか、呼び出しか・・・。

 今日の様子を見たらそうなるか。

「はーい。・・・ディーアさん、エステラさん、いっしょに来てください」

 エステラが自分も?、という顔をする。

「ええ、エステラさんもお願いします。偉い人との交渉ごとには、私たちよりも慣れているみたいなので、頼りにさせてもらっていいですよね?」

「・・・まぁ、いいわよ。えぇ、頼りにしてもらってかまいませんわ」

 胸を張りつつもそっぽを向く。

 うん。それでこそエステラである。


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