護衛騎士3 スキルあれこれ
護衛の任務が無い日はほとんど訓練の日だ。
宿泊地が変わるたびに誰が作っているのかわからない訓練場をたらたら走り、ラザン将軍の決めた周回数ランニングを終わらせて個別の訓練メニューに移る。
シアはシシールと槍の訓練である。
「おれの知っている槍のスキルは5つだ。《投槍》、《突撃槍》、《旗吼》、《円舞》、《操槍》。このうち発展スキルがあるのは《投槍》と《突撃槍》と《円舞》の3っつだけだ」
シシールはそう言いながらスキルを実際に見せてくれる。
《投槍》は槍を投げるスキル。スキルがなくても投げることはできるが、スキルを使うことでより早く、強く、遠くに投げることができる。
《突撃槍》は槍ごと自身が移動していくスキル。スキルがあればより早く、強く、周りにダメージを与えながら突撃することができる。
《旗吼》は学校でも見たことのないスキルだ。槍を立て、声をあげることで味方を鼓舞することができる。味方のステータス増加スキル。
このうち《投槍》はいらない。シアとオレが離れてしまうからだ。シアの戦闘技術はオレがあることで成り立っている。オレを投げて別の槍に持ち替えても戦力面で大きくプラスになることはない。
《突撃槍》はあってもいいと思う。最近敵陣に突撃することが少なくないように思えるからだ。敵陣に入っていって適当なところで《ノコギリ草》を放つ。そんな戦い方をするのにこのスキルはうってつけかもしれない。
《旗吼》は、まぁいらないと思う。そもそも叫んでいるシアというのが想像しづらい。オレが思い描くシアは真顔で「おー・・・」とか言ってるシアだ。鼓舞されない。いやされはするけど。
けれどどうするか・・・”技”スキルまで取っていくつもりなら、《投槍》はいるんだよな。発展スキルが3種類しかないなら、合計熟練度500以上を目指すのに《投槍》は必要になる。
今のシアの<称号>は5つ
<子爵>
<穴掘り名人>
<財宝獲得者>
<黒龍の加護を受けし者>
<騎士>
いつの間にか<騎士>が増えている。護衛騎士に任命された時にもらったのだろう、エステラとディーアも持っていた。
前三つの時点で熟練度上限は140だった。新しい<称号>2つで上限がいくつまで上がったかわからないが、発展スキルが3個あれば合計熟練度500に届くのではないかと思う。なので・・・”技”スキルに手が届くわけだが・・・。
投槍で熟練度をあげて、さらに発展スキルを最大近くまで育てるだけの苦労にいったいどれほどの意味があるのか。
「・・・悩ましい」
シシールがふふっ、と笑いをもらす。
「取って損がないのだから試してみればいいのではないかな?。それとももっと別のことで悩んでいるのか?。なら相談にのれるかはわからないが、おれに話してみるといいさ」
「んー・・・」
シアは投槍はしたくないが”技”スキルが欲しいことを説明する。
「・・・・・・いや、練度の合計が500を越えれば”技”スキルが覚えられるなんていう話しは始めて聞いたんだが・・・。それは本当のことか?」
「わからない。けど、魔族の兵士がそう言ってた」
聞いたのは魔族が訓練をしている場所でスキルのノートを後生大事に持っていた兵士だったか。人間と魔族では熟練度の最大値が倍は違うから、こういった裏技的な方法は知らないのかもしれない。
「あー・・・その話が本当だとしても・・・発展スキル3個で練度500はむちゃなんじゃないかな。それなら槍を長く握っていた方が”技”スキルを早く手に入れられるかもしれない」
やっぱりそうか・・・。
「そもそもだが、ディーアはいつから槍を握っていたんだ?」
「生まれたその日から?」
そういやそうかもしれない。いや、産まれてすぐに握ったっけ?、粗雑に扱われた記憶しかないんだが・・・。
「ならすでに”技”スキルを覚えられてもいいと思うんだが」
「ん?、槍を深く知らないとダメなんじゃ?」
「そう言うやつは言うな。けれど深く知れと言われても、なら武器を持つよりも座学で勉強した方が武器の知識は多いことになる。けれどみんながみんな武器を握って、そして知れと言うことには意味がある。結局知識を深めるよりも、武器が手になじむことのほうが大事ってことだ」
あー、なるほど。ヘビ王に”技”スキルの入手方法を聞いても、知識を増やせ、ではなくて10年武器を振れと言っていたのはそういうことか。
あれ?、と、いうことは・・・
もしかして
「10年たってる。」
とっくに。
「・・・・・・・・・・・・」
・・・よし。
それじゃ使うか、”技”スキル。
今こそシアの封印が解かれるっ!、やるんだシアっ
「んっ。離れて・・・・・・剣技《断空閃》っ」
シアはオレを頭上に掲げ、スキルを発動・・・・・・できなかった。
まぁ、スキルの使い方をひらめくまではしばらくかかるからな。
早く使えるようになるといいなー。
「・・・いや、ディーア。槍の技は《断空閃》ではないぞ。《大十字》だ」
《大十字》――剣の”技”スキルは巨大な空気の剣を振り回す広範囲スキルだった。
なら、槍の”技”スキルはいったいどんなスキルなのか。
「見せてもやってもいいのだが・・・いや、流石にここでは狙えるものが無いか。そのうち見る機会もあるだろうから、楽しみにするといいよ」
シシールは使えるのか・・・エルフ族は長生きだから”技”スキルの取得条件が達成しやすいのかもしれない。
ぜひ見てみたいが、訓練場で使うようなスキルではないらしい。
悲しいけど戦場で使われるのを楽しみにしていよう。
ひとまずは《突撃槍》を覚えるか。
後は確か《瞬歩》だっけ、前に覚えようとがんばってたスキル。あれもあるといいかもしれない。
あとは・・・
「《影縛り》もほしい」
エステラが使ってるスキルだな。便利だよね。
あぁ、それとそろそろ風魔術の中級が覚えられるはずだ。
というわけで
「《突撃槍》《瞬歩》《影縛り》、あと風の中級魔術」
「それと《大十字》だな。なかなかの数だが、そんなにいっぺんに覚えようとしても大変だぞ。覚えてからも練度上げに時間がかかるし、いくつかにしぼった方がいいんじゃないか?」
今までのスキルもあるから、確かに一つ一つの伸びが悪くなってきているかもしれない。うーん、悩ましい。
「わかった・・・なら、風中級・《突撃槍》・《大十字》」
風魔術は《ノコギリ草》との合わせ技。《突撃槍》も《ノコギリ草》用かな。
そして《大十字》は・・・
「かっこいい。」
うん。
浪漫は大事にしよう。
「大体決まったようだな。だが一応言っておくが、《突撃槍》は単独で使うスキルじゃないぞ。敵の真っただ中に飛び込んで、その後どう行動するか構想はあるんだよな」
《ノコギリ草》で!と考えて、気が付いた。
《ノコギリ草》・・・使えないじゃん。
今、勇者候補なのはディーアでシアじゃない。シアが《ノコギリ草》を使ったらその時点でウソがばれてしまう。
おおう・・・どうしよう。
「《旋風刃》で。」
「まぁ、そのあたりになるな。もしくは《旋風旋》で辺りを薙ぎ払うのもいいぞ」
お?、《旋風旋》とは何だろうか。
「知らない。どんなスキルなの?」
「ちょっと離れていろよ。・・・・・・《旋風旋》っ」
シシールは槍を振り回し1回転させる。するとその回転にあわせて廻りを一周する風の刃が現れる。
なるほど、風刃よりも周囲一帯を攻撃できる風のスキルか。代わりに射程距離は短くなっている。単独で敵陣に突っ込むなら使えるスキルだ。
「これは発展スキルだな。前提スキルの《風旋》は鞭のスキルだ」
・・・・・・・・・・・・
あるじゃねーか鞭スキル。
有用そうなスキルが!
あるじゃないか!
なんでもっと鞭を優遇してあげないんだ!
鞭で戦いたい人だっているんですよ!
くそう・・・もっと早く知りたかった。
「鞭・・・あまり聞かないスキルだけど、シシールは知ってるの?」
「まぁ、そうだな。鞭は戦闘向きじゃないから、知ってるやつはほとんどいないかもな。家畜を飼っていたり、森で魔獣を相手にしたりしてるなら使うかもって武器だ。おれのうちはピレーク森林地帯で森林隊をしていたからな。鞭、槍、弓はかなり詳しくなったな」
奴隷商人用のスキルでは無かったということか!。あとは夜の店用でも無かった。
森林警備のような仕事になら、鞭はいるかもしれない。
おかげで森の民、ダークエルフのシシールが鞭スキルを知っていた。
すっごくありがたい。
ありがとうダークエルフ!
普通のエルフと何が違うのかわからないが、彼らの生命に感謝を述べたい。
ありがとう、ダークエルフと。
「シシール」
「おう?」
「鞭スキル、すごく知りたい。教えて」
「お、おう・・・だが鞭なんてほとんど使い所がないぞ?、殺傷力もないし、基本的に捕縛用だからな」
「いい。教えて」
シアの熱烈なたのみに、シシールは戸惑いながらもスキルを見せてくれることになった。
《縛縄》は捕縛スキル。鞭が当たったものに絡みつき、動きを阻害する。鞭の半ばでも、先っぽでも機能するおもしろいスキルだ。
《絞縄》は《縛縄》からつながる首絞めスキル。相手に近づかなくてもぎゅっぎゅと絞ってくれるスキル。
《放星》も《縛縄》からつながり、鞭で捕まえた相手を投げるスキル。
《衝打》は鞭で強打するスキル。当たると短時間の硬直がおこるスキル。格闘術《絶衝》の鞭バージョン。
あとは《風旋》と《操鞭》。《操鞭》は《操槍》と同じく、少しだけ鞭が操りやすくなるスキルだな。
6個もあるっ。すごい!。
《縛縄》からじゃないと使えないスキルが2個もあるけれど・・・。
このうち発展スキルがあるのは《放星》、《衝打》、《風旋》の3つ。
基本技の《縛縄》は発展しないのか。
面白いスキルが多いが、うん。・・・確かに使い勝手が悪い。
多くの敵を相手にできそうなのが《放星》と《風旋》かな。あとはほぼ少数用のスキルだ。
欲しいのは《操鞭》くらい。次点で《風旋》といった所だ。
あとはあれば使う機会はあるかも、という感じ。
うーん、期待したほどではなかった。確かに普通の兵士には使いどころが無い。
長く欲していただけに、しょんぼりしてしまうな。
しょんぼり。
「ん。・・・わかっただけ良かった」
そうだな。
知らないままよりは知れてよかった。
シア、ありがとう。
シシールにお礼を言ってシアは一人、スキルの練習を開始する。
槍を持ったまま突撃し、槍を突き出す。
その繰り返しだ。
「・・・・・・パパ」
どうした?
「実は、もう1個、スキルがある」
ん?、取りたいスキルか
「・・・・・・固有スキル《再器一式》。装備品を手に入れたときに50%の確率でもう一個入手することができるスキル」
へー・・・・・・何だそりゃ?
一個だと思った?おめでとう!、もう一個あげるよ!
ってことか。
わけわからん。
「・・・・・・パパに、《再器一式》が増えてる」
・・・ほあっ!?。
まって、オレにスキルが増えてるってことか?、え?でもスキルには取得数が。
「固有スキルだから」
あ、あぁ。固有スキルなら数に制限が無いからか。
でも、いつ?どこで入手したんだ?。
「たぶん、黒い死体を消去したとき」
”悪魔”か・・・。
悪魔はそれぞれ、”掟”を歪める能力を持っている。
そしてオレの《魂吸収》は聖剣からその能力を奪ったように、魂――元素の強いモノの能力を奪うことができる。
悪魔からも同じように固有の能力を奪うことができたとしたら。
《再器一式》
装備品を一つ手に入れたときに50%の確率でもう一個入手することができる。
吸収したスキルは半分なので、もしかすると元は100%入手できるスキルなのかもしれない。
確かに物理的にありえない現象だ。
悪魔は”掟”を歪める。
一個のはずが二個手に入るなど、世界の法則を侵している・・・。
やばいこれ、もしかして自動発動系のスキルか?。もし勝手に発動するようだと、オレが”龍”の消去対象になってしまう!。
ばれる前にスキル消去しないと・・・!固有スキルってどうやって消すんだっけ?
消し方がわからない。いや、消せないのでは。
まずい、まずいぞ・・・!そうだ、《変化》させるしかないか。固有スキルって《変化》できるんだっけ?、いや、やってみるしかない・・・・・・!
えーと・・・代償はこれで、ここをこう・・・よし。これで行ければ・・・!
うん。
よし、《変化》させた。
《再器一式》 <装備品入手時、50%の確率で付与スキルが1個追加される>
物理法則は壊さないようにはなった。装備品入手時ってのがいつなのかわからないけれど、購入時に発動するようだとちょっと怖い。ボスドロップくらいならまだ言い訳は効きそうな性能のスキルになったな。
ふぅ、とりあえずこれでアクリアに聞いてみるか。
夏まで待つか、手紙を出すかだが、どうしよう。手紙出しとくか。
「ん。」
シアに手紙をたのむとして、ひとまずはこれでいい。
しかし、悪魔をオレで倒すと固有スキルが増えるわけか・・・”龍”とオレって致命的に相性が悪いな。
滅ぼすはずが、滅ぼせずに半分奪ってしまう。
こわいわー・・・
「ん。大丈夫。パパは私のだから」
そっかわからん。
まぁいいけど。
しかしあの悪魔の干物、こんな微妙な性能しか持っていないのか。もっと戦闘面で圧倒的な”掟”でも持っててほしかった。
まぁ、微妙だからこそ人間に捕まってしまったんだろうけど。
オレの貴重な《変化》の代償を使ってしまった。
今回の代償は《ノコギリ草》のクールタイムだ。これが30%減少して17時間で再発動できるようになったはずだ。無魔術《時間喪失》でさらに15%減ると13時間くらいになる。
強い。
やっぱり《変化》は異常なほど強力なスキルだ。
悪魔のスキルもこれくらい強ければいいのにな。装備品もう一個追加て・・・あ、もしかして聖剣増やせたのかな。いやいやまさかね・・・。
・・・・・・・・・・・・
もう変化しちゃったし、考えてもしかたない。
ついでに既存のスキルも変化させてしまうか。
あと手を加えていないのは《風刃》《旋風刃》《円舞陣》《操槍》の4つと固有スキルの3つ。固有スキルには手を加えないとして、《風刃》《旋風刃》はどうするか。威力、射程、発動個数、範囲、あとは属性ダメージ付与とかできるかもしれない。なら異常状態も付与できるかも。うーん・・・選択肢が多くて悩ましい。
うーんむむむ・・・
よし、
先延ばしにしよう。
いつか困ったときに考える。
「・・・・・・知ってた。」
知られていたか。
まぁ今まで考えて思いつかなかったのだから、今後も思いつかないだろう。
それでもいいってことだ。
ダイス神の導きの結果、TRPG「神我狩」からレガシーユーザーBの《祭器一式》に。(*'▽')あつかいづらいよぉ